第17話 その一球に懸けろ!
…右打席で構える球一朗に大瀬名が一球目を投げた。
インコース胸元の151キロ。見送ってボール。
本当にこの初回、全てストレートだけで大瀬名は来ている。
(ここまでは予想通りの内容だな… !)
球一朗は心中で呟いた。
2球目はアウトコース高めに152キロ、ボール。…ストライクを取りに来た球がやや浮いてしまった感じだ。力みが勝っている。
(ここで俺が出塁すれば必ず崇橋が返してくれる!)
球一朗は来る球に集中しながらも、冷静に先制点へのプランを頭に描いていた。
それを実はさっき、先頭の重野が内野安打で出塁した時、崇橋に話していたのだ。
「初回、大瀬名は全球ストレートで三振を取るつもりだ!…だが思うようにいかずに、もし四番打者の前に2人ランナーを出してしまったら、捕手はどうするかな?」
崇橋はすかさず答えた。
「ピッチャーがイラつく展開なんで、タイムかけてマウンドに行って間を取りますね!…ちょっと落ちつかせたら、次の打者にはカーブから入ってストライクを取りに…あっ!?」
球一朗はニヤリと笑って言った。
「その一球に懸けようぜ、崇橋!」
大瀬名の3球目はインコース低めに151キロ。見送ったがストライク。
4球目は真ん中高めに152キロ。球一朗は打ちに行ったが球威に押されてフライになった。が、高く上がった打球はバックネットを越えてファウル。…キャッチャーがマスクを取って追って行ったので上総望洋高ベンチとスタンドからため息が上がる。
これでカウントは2ボール2ストライク。
5球目はインコース膝元に152キロ。厳しいところを突かれてバットが出なかったが、大瀬名の力みからか球がシュート回転して僅かに外れ、ボールになった。
6球目を投げる前に大瀬名は一塁へ牽制球を送った。咲本は手から戻る。
…改めてセットポジションに入って投じた大瀬名の球はアウトコース低めにビシッと来た153キロ。球一朗はこれも手が出ず見送った。
「ボール !! 」
しかし球審の判定はボール。
四球を選んだ球一朗はネクストバッターサークルの崇橋に目で合図を送って一塁へ向かった。
ムッとした顔で額の汗をぬぐう大瀬名のもとへキャッチャーがタイムを取って駆け寄る。内野陣もマウンドに集まった。
崇橋は素振りをして右打席に入って足場を固めた。
少しして内野陣と捕手がポジションに戻り、球審がプレイ再開を宣告、大瀬名がセットに入る。
捕手のサインに頷いて大瀬名が投球モーションに入った。
その時、一塁走者の球一朗がスタートを切った!そして大瀬名の一球目は予想通りの外角へのカーブ !! 崇橋は前足を踏み込み、腕を伸ばしてバットのヘッドで球を捕まえ、大きなフォロースルーで三塁手の頭上を越えて行く打球を飛ばした。
そのままボールはラインドライブがかかりながらレフト線ギリギリのフェアゾーンに弾み、速い球足でファウルエリアへ転がって行く!
二塁走者の咲本は三塁を回って本塁を駆け抜け、続いて球一朗も本塁へ走る!
左翼手からのバックホームは中継がカットして二塁に送球したが崇橋のセカンドへのスライディングのほうが早く、楽々セーフ!
「オォ~~ッ !! 」
2点先制タイムリーツーベースヒットに東松戸高ベンチと一塁側スタンドから大歓声が上がった。
…打たれた大瀬名は呆然とした表情だ。
「スゲェッ!…俺たち大瀬名から2点取ったぜ!勝てるかも !! 」
「よっしゃ、続けて行こうぜ!」
ホームインした2人を迎えて一塁側ベンチは大いに盛り上がっていた。
…マウンドに再度内野陣が集まり、大瀬名に言葉をかけ、背中を叩いてからポジションに戻る。
すると大瀬名はマウンドで大きく深呼吸すると、首を回し、膝の屈伸をして2回ジャンプを見せると、ゆっくりとセットポジションに入った。
(切り替えたか?…)
球一朗が心中で呟くと、大瀬名は続く五番打者に150キロのストレートを外角低めにキッチリ決めてストライクを取った。
その後は要所に変化球を織り混ぜ、結局五番打者を二塁ゴロ、六番打者を一塁ファウルフライに切って取り、スリーアウトチェンジとなった。
(…もう奴から点を取るのは難しいな… ! )
球一朗はそう感じながら、2回表のマウンドに向かって行った。
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