第6話 面白くなってきた勝負

「プレイッ !! 」

 球審を務める崇橋監督の宣告で、2イニング目の勝負が始まった。

 右打席の都橋とマウンドの球雄の視線がぶつかり合う。

「カモン球雄 !! 」

 住谷が叫ぶ。

 セットポジションからの球雄の一球目は内角胸元へのストレート、135キロだ。都橋は見送ったが、

「ストライ~ク!」

 球審のコールが響く。

(…面白い!俺に真っ向勝負かよ !! )

 都橋が笑みを浮かべて闘志をたぎらせる。

「OK!いけるぜ球雄 !! 」

 住谷が声を出してマウンドに返球した。

(次の球を仕留める!)

 4番打者が構える。

 …球雄の2球目は同じ内角高めの速球が来た。

(舐めるな!)

 都橋が振りに行くと、球はさらに内角に食い込んできた。ツーシームだ。

 都橋はバットを止めたが、ボールの方が当たってバックネットへのファウルになった。

(クソッ ! いちいちムカつく野郎だぜ…!)

 都橋が胸中で吐き捨てる。

「よっしゃ追い込んだぁ、行くぜ金ちゃん!」

 そう叫んで投じた球雄の三球目は、一転して外に曲がって行く緩いカーブだった。

「この野郎っ !! 」

 都橋は身体も腕も目一杯伸ばして外へ逃げて行く球をバットの先で引っ掛け、強引にかち上げるように打ったが、打球はレフトへ高々と舞い上がり、そしてポールの左へと切れて行った。…ただし飛距離は百メートルを大きく超える当たりだ。

 一塁側攻撃陣ベンチからため息が漏れる。

(…絶対に一発で終わりにしてやる!)

 都橋はバットのグリップを握る指に力を込めた。

 そして球雄が投げた4球目はやや腕を下げ、サイドスローに近い位置からリリースされたストレート!内角高めに伸びて来た。

 都橋は渾身のフルスイングで捕まえに行ったが、バットは空を切り、球は住谷のミットに収まった。

 球速は135キロ…捕球位置は初球のストライクより球一個高いボールゾーンだった。

「ストライ~ク、バッターアウッ !! 」

 球審のコールに住谷の意気が上がる。

「OK!球雄、あと2人だっ !! 」

 そう言ってマウンドに駆け寄り、バッテリーでまた短い打ち合わせをごそごそと話して、またポジションに戻った。


 5番打者は三年生の沖本和巳(183センチ80キロ)、球雄の特別措置入部に異を唱えてこの勝負を引っ張り出した相手だった。(※第2話参照)

 沖本は一年生バッテリーを威嚇するようにフルスイングの素振りを3回してから右打席に入った。

「来い!一年坊主っ !! 」

 そしてそう球雄に向かって叫んだ。

 …球雄の第一球はストレート、136キロ真ん中高めボール気味の球だったが、沖本はフルスイングしてバックネットへのファウルとなった。

(…さすがに球雄のストレートに遅れてないな…)

 住谷が心中で呟いた。

 …その時沖本が球審にタイムを要求して打席を外し、一塁側ベンチに向かって叫んだ。

「お前ら、声を出せ!これは真剣勝負だぜ !! 全員で攻撃だろ!?」

 …一塁側ベンチ内はちょっとざわついたが、沖本が打席で構えるととたんに、

「お~きもと!お~きもと!」

 と声援を送り始めた。

 球雄はニヤリと笑って、

「それなら一年生部員たちは俺たちを応援しろよ!」

 と叫んだ。

 バックネット裏でこの勝負を見ていた一年生部員たちはお互いに顔を見合わせて当惑したが、こちらも声を揃えて声援を送って来た。

「た~ま~きん!た~ま~きん!」

 …先輩たちと一年生らの声援合戦も始まった中、球雄が第2球目を投げ込んだ。…内角高め136キロのストレート、ややボール気味の球に沖本は渾身のバットスイングを見せたが、ボールはバットの根元に当たり、詰まったフライが一塁後方へ上がった。

 セカンドが一塁手の後ろに回り込んで打球を追って行ったが、ボールはラインの内側にポトリと落下して、さらにファウルグラウンドにコロコロと転がった。

 沖本はそれを見て一塁を回って二塁に向かって走る。

 セカンドがボールを掴んでベースカバーのショートに送球したが、スライディングして行った沖本の足が僅かにベースに早く、セーフとなった。

「おぉ~っ !! 」

「沖本ナイスラ~ン!」

 一塁側ベンチは初ヒット、それも二塁打という結果に大きく盛り上がっていた。

 …慌ててマウンドにやって来た住谷に球雄は苦笑いしながら言った。

「面白くなって来たな!金ちゃん」














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