ライバル

俺が取り調べ室から出て譲と俺の持っている借り家へと歩むと俺の因縁のライバル、そして俺たちをいじめていた男、異締反則が向こうから声をかけてきた。



「坂丸、こんな時間にどこに行くんだ?」


そして俺の後ろに隠れる譲。

反則はその譲の行動を見落とさなかった。



「後ろにいるのは譲?あの時はごめんな、俺もどうかしててな、ホントにごめん「おい!」」



反則が平謝りをするのを俺は途中で止めた。



「これ以上譲に構うな、譲の負った心の傷は大きいんだ」



すると反則は軽く舌打ちをする。

一瞬だが俺は見落とさなかった、反則の(あの時の事まだ根に持ってんのか?)という表情を。



「あ、ああすまない、俺はこれでおいとまするよ♪」



と言いその場から去っていった。


「大丈夫か?」



「う、うん…」


俺の後ろに隠れていた譲は未だ俺にしがみつき、震えている。


そして俺が譲を預かる前に俺は譲にその事を伝えようと一緒に譲の家に向かった。


時間は夜の7時くらい、その時間に俺は閑静な住宅街、譲の家の前のインターホンを鳴らす。



するとドカドカと向こうから足音が聞こえてきてドアは開かれた。



「譲!譲じゃない!お母さん心配してたのよ!!」



現れたのは譲の母、例え自分の子供が犯罪を犯したとしても母は母だ、母は自分自身のように息子である譲の事を必死に労っていた。



「うるせえっババア!」



そんな時譲が拳を振り上げる。

目の前の母を、必死に心配してくれている母をまるで敵であるかのように睨みつけ、拳を振るう。


「ガシッ!」


譲が母に殴りかかる前に力強く坂丸は譲の腕を握り止める。

譲の振るう拳は坂丸によって制止された。



「お前…自分の母親にずっとこんな事をしてきたのか?」



坂丸は半ば凄むように譲に問いただす。



「…」


譲は黙り何も答えないでいる。


「譲…お前の今していた事はいじめッ子がずっとお前にしてきたのと変わらない事なんだ!わかってるのか?」


「やめて!」


俺が譲に問いかけようとしたのを母親が庇う。



「譲がこうなったのは私の責任なの、私が譲の事をもっと理解してあげていたら…」



母は自分自身の罪のように泣き崩れる。

母は何も悪くない、と言うより、そんな譲を心配してくれる優しい母親が息子をいじめる筈がない。


それに引き換えいじめた張本人の態度はなんと図々しくふてぶてしいものか。


更生しているように見えてもいじめっ子の心理とはそう言うものなのだろう。


「お邪魔します…」


俺と譲は玄関に上がる。


「お袋、ちゃんとお茶を淹れておけよ「譲!」」


俺は自分のお袋に命令口調を叩く譲に対し怒鳴る。

こんな譲は見たくない…あの時の譲はどこに行っちまったんだ…だが俺は逃げない…譲は俺が更生させてやると誓ったのだから!



譲の部屋は整理整頓されていた。

母親が譲がいつ戻ってきてもいいようにと掃除をしてくれていたのだろう。


「何から何まですまん…」


譲は頭を下げる。

俺は正直今の譲を許せなくなってきていたが少なくとも譲は俺を救ってくれたのだ。

救ってくれた恩人から逃げると自分が後に苦しむことになる。



なら後悔する前に今の譲を更生させてから帰りたい。


俺はそう言う思いで譲と対峙していた。


「お茶、淹れたわよ、坂丸さん、うちの譲がお世話になっています♪」



譲の母はこう言ってジュースとお菓子を載せたお盆を机の上に置く。



今度こそ譲は何も喋らなかった。



「良いお母さんじゃないか」


俺は心から譲の母がいい母親だと思った。

自分の母はパチンコにハマり、父親が母の分を俺たちを食わせるために必死に働き、家庭内はギクシャクしていた。


本当なら俺は捻くれていただろう。


しかし俺がひねくれるのを止めてくれたのは譲、お前だ。



お前がいじめをするような奴にはなるなと言ってくれたから俺は変われたんだ!



そんな時譲はボソリと言った。



「やっていた事が自分に降りかかるなんて…あれは嘘だったんだよな…」


俺には譲の言った一言に少し理解を要した。


「なんのことだ?」



坂丸は呆然とした表情で譲を見やる。

譲は肩を震わせていた。



「わかるだろ…?俺たちをいじめていた奴を見たか?奴は警官となっていた、しかも反省なんてこれっぽっちもしていない、あの時の報いを受けてきたとは思えない姿で俺たちの前に現れたんだぞ!」



反則のことだ、しかしあの時の事は水に流してあげたい、確かにいじめを受けた過去はあるにせよ根に持っていたら暗い奴と見下されるのがオチだし俺はそんな奴にはなりたくなかったから。



「反則か…気にするな」


俺はせめてもの声を譲にかけた。

だが譲は泣き言をやめなかった。



「いじめの報いは俺に降りかかったんだ!俺はあれから社会に出てもコミュ障を患い、ハブられ、外に出るのも嫌になりここ数年こうして引きこもってきたんだ!」


辛かったのはわかる…。


ーー譲の過去。



譲は就職することにした。

就職した時は上手くやろうと人と接する努力をした。


挨拶もきちんとした。

しかし一旦顔が知れてしまうと顔を見るのが怖くなり、表情も思わず強張ってしまう。


それを周りの人は譲を怪訝とした表情で見るようになり、結局は譲はそこでも独りぼっちとなった。



職を転々としてきたがそれは変わらなかった。

譲は苦しんだ、そして苦しんでいた原因がおぼろげながらもわかってきた。



高校時代のいじめだ。


ーーー



譲は反則をはじめ色々なクラスメイトからいじめを受けた。

面白がっている奴もいたし、いじめに加担する奴もいた。

反則には誰も逆らえなかった。

いじめを受けるのが怖くて何も出来ないでいたのだ。

俺も含めて……。


それから半年後、譲はいじめから逃げるように学校から姿を消した。



三年になったある日いじめが再び俺に向きそうになった時俺は立ち上がって反則とがむしゃらに戦い、偽りの和解をした。


あくまで偽りの和解だ。

心から許せたらもっと気安く接する事が出来たのだろう。


過去が清算されたのなら俺自身もこんなに恨みと免罪の間に葛藤しなくて済んだだろう


何を言えば良いのか困っていた俺だったが俺なりの答えを見つけた。



「やった事がかえってくる…これは事実だ!」


「は?」


泣くのをやめる譲。



「今俺がこうしてお前を助けようとしている、それは俺がお前に助けられたからだ、そして、反則は今でもいじめられた俺たちから恨まれている…だからお前の言ってた事は正しい!」



譲は少なくとも、表情が少し真剣になっているのが見えた。



「譲、過去には囚われるな!まだ手遅れじゃない!俺がお前を助けてやる!だからお前も前向きになれよ!」



俺は譲の心が救われるようにと必死に声をかけた。

一方、真剣に話を聞いていた譲だったが表情はまた暗くなり、言葉を漏らした。



「何故…俺を助けてくれる存在が女の子じゃなくてお前のような野郎なんだ…?」



「…?」



俺は譲の言葉に半ば戸惑う。


「落ちこぼれの男に女の子がやってきて男を立ち直らせるアニメとか大人しい男子生徒にひょんなことからとびきり可愛い女の子と付き合うパラダイスなマンガとか俺みたいな奴にはとびきり可愛い女の子が助けにきてくれるのがセオリーのはずだ!!」



譲は俺の肩を揺さぶりながら大声で喚く。

だがこれは二次元ではない…どうしようもない妄想爆発の作者が書いたつまらない小説だが駄目男と美女が仲良くなるような夢いっぱいの内容の話ではない。



「お前、現実逃避のしすぎでおかしくなってるんじゃないのか?女の子と仲良くなりたいのはわかるがそれには順序というものが…」


「待て!」



俺が言及するのを途中で止める譲。


譲の目は怪しく光っていた。

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