俺の将来

海豹ノファン

再会


ある日通り魔事件が起こった。



男は街中で刃物を振り回し、奇声を上げながら通行人に襲いかかった。



不幸中の幸いというのか、怪我人は男性二人で済んだが人々の心に恐怖心を与えた事件には変わりない。



その事件を起こした加害者は………。



かつて俺をいじめから助けてくれたあのクラスメイトだった。



「俺は警察官になるのが夢だ!警官になって沢山の人を救いたい!」


彼はよくそんな事を言っていた。



そして何の因果がとち狂ったのか俺が警官となり、彼は事件の加害者となった。


「ボケェ!すみませんで済んだら警察はいらんのじゃあ!!」



バァンッ!と机を激しく叩きつける音と男性の激しい罵声が響く。


そこは取り調べ室、その狭く堅苦しい空間で警官と加害者の対面が行われている。



「まあまあ、彼は反省しているんだしそこまでで良いじゃないか」



そこでもう一人の警官がなだめに入る。

刑事ドラマと同じ流れがその中では行われていた。


しかしその後、その刑事ドラマにはあるまじき事が出来事として起こる。



ちなみにこれは刑事ドラマではない。


「待ってください!!」



ガチャっと白い扉が開かれ、警官はん?と白い扉に振り向く。


加害者は下に俯いたまま小動物のように震えてい

る。



そこに現れたのは警官の制服を着たうら若き青年。



「坂丸!取り調べ中だぞ!」


警官の一人がその青年(以降坂丸)に怒鳴る。



「その人は俺のクラスメイトです!俺とその人と話させてくれませんか!」


「ならん!「良いではないか」」



鬼のような警官が言いかけたのを一方の仏のような警官が止める。



「同級生となったら色々話したい事もあるだろう、それに彼にも取り調べの勉強をさせたいと思っていたところだ」


「は、はい…」



鬼のような警官も上司の警官には従うしかない。


「失礼します」



坂丸が机に座る。

そして仏のような警官が一方の警官の肩に軽く指でトントンっと叩く。

そして二人だけにしといてあげようっと耳打ちをし、扉を開き二人取り調べ室から姿を消した。



「譲…なんでお前がこんな事を?」



高校時代とは面影が違っているが間違いない、俺をいじめから救ってくれたクラスメイトだ。

彼は俺の代わりにいじめられても弱音を吐かず俺の前では常に笑顔だった。


今の姿は色白の肌にみすぼらしい格好、ニット帽を被りだらしのない長髪、目にはクマが出来、無精髭を生やしている。



しかし間違いない、彼は俺を救ってくれたクラスメイト、立波 たちばゆずるだ!


譲は俺を救ってくれて代わりに彼がいじめられる事になった。



しかし俺はそれをじっと見ている事しか出来なかった。


またいじめられるのは嫌だったから。

その時の俺は譲と違っていじめから助ける勇気も力も無かった。


俺はその時の懺悔の気持ちに猛勉強を始め、体も鍛えた。



俺は当時いじめっ子だった異締 反則いじめそらのりを打ち負かす事が出来たが、それは譲が学校を中途退学した後の事だった。



そして何の因果か反則が警官となり、今現在俺のライバルとして競い合っている。



競い合っているというより蹴落とし合っていると言った方が正しいのか。



反則は「あの時はすまなかった♪」と反省の気持ちを表しているが俺の中ではいじめられた過去は消えない。


しかし反省していると思われるので表面上は共に競い合う好敵ライバルとして接している。


譲はゆっくりとだが俺の方を見た。

そして僅かに表情をほころばせた。



「坂丸…立派になったな…」


聞き取れない程の小さな声、俺の知ってる譲は高校時代は爽やかで、明るい好青年だった。



しかしいじめられた過去があるとは言え今そこにいる男が譲とは思いたくなかった。



「譲…あの時は助けてあげられなくてごめん…」


俺は譲に詫びる、俺には度胸が無かった、だから譲を助けてあげる事が出来なかったんだ。



すると譲は鬼のような表情となり手前にある机のコップをぶつけるように俺に投げつけた。


俺は敢えて避けずにその痛みを噛みしめる。

この痛みは譲が受けた半年分のいじめと比べたらまだまだ軽い。


「当たり前だ!ここ半年分の心の傷をお前のせいで負ってしまったんだ!どうしてあの時俺を見捨てた!俺はお前の恩人だろうが!!」



譲の豹変、しかし坂丸としてはこれは当然の結果なのだと思えた。


「俺は警察官になるのが夢だったのに…夢を潰されて…お前が警察官になって…こんなの理不尽だろうが…」



譲はわんわんと嗚咽をあげる。

坂丸としては、ただそんな譲を見ている事しか出来なかった。


そして坂丸は言った。



「譲…暫くだがお前を更生させてやりたい、施設の力ではない、俺の力で!」



坂丸の表情には迷いが無かった。

しかし譲としては坂丸の言っている事を理解するのに数秒かかった。


「お前…何をいってるんた?」



「これは俺のせめてものお前への罪滅ぼしだ、俺はお前を助ける事が出来なかった、だから今度は俺がお前を助ける番だ!」



坂丸の目は光り輝いていた。

あの時の俺のように…。



ーー譲の過去



「譲…僕のためにこんなことになってごめん…」


いじめられっ子だった坂丸は弱々しく譲に詫びる。



「こんな事なんて事ない、俺は警察官になるんだ!だからこんなのどうって事ない、いじめはな、必ずいじめた本人に振りかかるんだ、だから俺は人をいじめない、だからお前も人をいじめちゃダメだぞ!」


ーー


あの時は兄貴のようだった譲。

だが今の彼はまるで弱々しく変わり果てていた。


「行こう譲!お前は刑務所に入る必要はない!俺がお前を守ってやる!」



譲は半ば戸惑っている様子だったが坂丸は強引に譲の手を握る。



そして譲を更生させる俺の戦い、そして譲の自分自身との戦いは幕を開けたのだ!

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