飲酒冒険者はゆるさない

ちびまるフォイ

アルコールを抜いてやり直し

「はい、そこの冒険者止まりなさい。すぐにそこで止まりなさい」


「え? な、なんですか?」


「今ね、検問やってるんですよ。ここに息吐いてもらえますか?」


「なんでそんなことを……」

「業務執行妨害で逮捕するぞ」

「わかりましたって」


冒険者は渡された袋に思い切り息を吹き込んだ。

警察官は袋にたまった息をなにやら鑑定しはじめる。


「あーー。出てるね、これ出てるよ」


「なにが出てるんですか?」


「これ見て。この紙が赤色になったらアルコールの反応があるってこと。

 ほらこれ。真っ赤でしょ。お酒飲んでるでしょ?」


「え、ええ……まあ、冒険の前にギルドで1杯……」


「なんで?」

「え?」


「なんで飲んでから冒険したのよ。危ないってわからないの?」


「いやいやいや! 逆に飲んじゃダメなんですか!?」


「はい免許」

「め……免許?」


「冒険者免許出して」

「初めて聞きましたよそんなもの……」


「冒険者免許も無いのに? お酒も飲んで?

 そんなんで冒険していたの?」


「まるで悪意があるみたいに言わないでくださいよ……」


「飲んだら進むな、進むなら飲むな。これ知らないわけ?」

「知りませんでした……」


冒険者はシュンとして体の厚みがなくなってしまう。


「飲酒冒険としてしばらくは謹慎だね」


「それは困ります! すでに受注したクエストもありますし……」


「なに!? 飲酒受注もしたのか!?」

「え」


「これは罪が重いな。君ね、冒険者としての自覚はないわけ?」


「あります……」


「飲酒受注のほかには?」


「ほかには何も……。普通にギルドでクエスト請けて、武器準備して……」


「飲酒武器購入もしたのか!!」

「ご、ごめんなさい……」


「飲酒討伐は? お酒飲んでからモンスター倒さなかった?」

「倒しました……」

「クロね」


「飲酒魔法は? お酒飲んでから魔法唱えなかった?」

「回復魔法を少し……」

「少しとか量の問題じゃないから」


ひとしきり余罪をリストアップすると警察官はため息をついた。


「飲酒冒険に飲酒討伐、飲酒魔法に飲酒歩行。

 飲酒武器購入に飲酒会話までやったとは……君は極悪人だな」


「そんなつもりは……知らなかったんです」


「飲酒無知の罪まで重ねるつもりか」

「ええ!?」


「いいかい、お酒というものは実に恐ろしい。飲むなというわけじゃない。

 自分で管理できる場所で飲むものだ。自分の生活を酒ありきで進めると破滅が待っている。

 君はまだ若いからわからないかもしれないが、

 自分で自分をコントロールできない人間は必ず最後に失敗する」


「ごめんなさい……」


「酒は飲んでも飲まれるな。君は今回の失敗を酒のせいだと考えるだろうが

 本当は君の心の弱さと自分への甘さが招いたことだと反省することだ」


「はい……」


「私のようにちゃんと自分を客観的に見られて自制できるようになることだ。

 そうすることで余裕が生まれ、人にも真っ直ぐに向き合うことができる」


「それで俺はこれからどうなるんですか?」


「異世界署まで言ってもらうことになる」

「え゛」


「これは君の反省を促すためのものなんだよ。痛みの伴わない失敗は蓄積されない。

 私も辛いが君の今後の成長を考えての措置だ」


「いやだーー! 俺には達成報告を待っているギルドがあるんだーー!」


「ええい暴れるなっ!」


こうして半ば強引に冒険者を署まで連れて行くことに成功した。


「お疲れ様。飲酒冒険者をとっ捕まえてきたぞ」


「ああ、ご苦労さまです」


「飲酒して冒険するとか倫理観もなにもないやつだな。

 こんなやつが世界を救うために旅を続けているとか信じられないよ」


「世も末ですね」


「最近の若いやつときたら、酒の飲み方というのがわかっとらん。

 飲酒冒険するような奴らばっかりだ。嘆かわしい」


「それでは牢獄を準備しておきますね」

「特別厳しいやつで頼む。反省をうながせるようにな」


すぐに2つの牢獄が準備された。


「おい、どうして2つなんだ。冒険者はひとりだぞ」

「え?」


看守は目を丸くして答えた。




「あなたも、飲酒検問をしていたでしょう?」

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