異世界サラリーマン成宮
ウマロ
第1章:ナリミヤと聖女マリア
プロローグ
「おいっ!」
「ぐあっ!」
「くそっ、マシューがやられた」
「ふざけんな!」
「やばい、ブレスが来るぞ!」
見渡す限り一面に広がる白銀の世界。
そこで、おおよそ普通の世界では見られることもできない銀色の巨大な翼を持つ爬虫類が口を大きく広げ、眼下に並ぶ4人の男たちに息を吐きかけようとしている。
無論ただの息ではないことは、彼の喉奥にのぞかせるキラキラと輝くダイヤモンドダストを思わせる光の反射が物語っている。
「下がれ!」
「グルゥ!」
慌てて下がろうとする4人の男たちが、目の前の巨体が振り下ろした大きな足による地団駄に近い足踏みにたたらを踏む。
「くっ!」
「身構えろ!」
「耐えるぞ!」
時代錯誤ともとれる中世を思い起こさせる甲冑に身を包んだ男たちが、背中に羽織ったマントで自分たちの身を隠す。
「グアアアアアアアア!」
そして聞こえてくる竜の咆哮。
死を覚悟してなお生への執着にしがみ付き、必死でマントを握りしめ身を小さくして少しでも衝撃を弱めようと抵抗し……いつまでたっても襲い掛かってこないブレスに逡巡する。
後ろを振り返るべきか、否か。
もし相手がこっちを小ばかにして待っており、振り返った瞬間にブレスを浴びせかけられたら。
だがそんな想像も一瞬で吹き飛ばされる。
「ギャアアアアアア!」
直後に聞こえた竜の悲鳴と地響きによって。
「大丈夫ですか?」
その場に似つかわしくない、聞き覚えのない呑気な5人目の男の声に。
「だっ、誰だ!」
最初に振り返った男の視界に映ったのはなんの意匠も施されていない武骨と呼ぶしかない直槍を肩にのせてしゃがみこみ、こちらをのぞき込む平べったい顔をした男。
年は30に届かないくらいだろうか。
チュニックに皮のパンツという、北の果てに似つかわしくない格好。
だがその首にかけられた冒険者の身分を保証したプレートが放つ輝きだけが、所在なさげにしつつも強烈な存在感を放っていた。
「ミスリルの下地に、金の装飾……S級冒険者?」
「待て、確か黒髪のS級冒険者ってそんなにいないだろう」
「西のナリミヤに、東のシミズ……」
この世界でも一桁にしか届かない冒険者の頂点。
そして、そこに君臨する人間のなかで同じ特徴を持ったものは、2人しかいない。
「そっ、ユウキ・ナリミヤと言えば分かるかな? まあ、ここは俺に任せて、撤退してください」
「冒険王……ナリミヤ……」
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