マーダラーパラドックス
月主
一巻 - 初恋
プロローグ
https://www.youtube.com/watch?v=-6ye6CERvCk
(コピペでBGMを再生してください)
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僕たちは忘れてはいけない
春がすべての人に対して、
青春を語る季節ではないということを
「矛院。おい、矛院、お前大丈夫かい?」
先生の話が頭に入って来ない。ただ、驚愕していた。
「矛院!
「……えっ?」
担任の表情が疑惑に染まっている。彼は心配げな顔で尋ねてきた。
「お前、顔真っ青だ。具合でも悪いのかい?」
「あ……は、はい、ちょ、ちょっとだけ……」
「まったく、変なこと頼んで来ちゃってそんな顔すんなよ。心配するだろう」
野口先生は気兼ねなくこちらの肩をパンパン叩きながらげらげら笑い始めた。こわばった表情でかろうじて笑いに同調しながら職員室から背を向ける。
引き戸を閉じた後、全身の血が凍り付く気がした。不安、恐怖、焦りなどのすべての感情が渦巻く。首が絞めつけられたように息苦しい。
「何で、名前がないんだ」
偶然に視線が自分の右手に当たった。右手は体の統制が利かないように震えている。悪口を繰り返しながら手の震えを抑えようとする。しかしぎゅっと握るだけでは震えが止まらず、症状はますます悪化するばかりだった。
「矛院?」
「うわああああああああ!?」
「きゃああ!?」
いきなりの呼び声に心臓が弾む。クラスメイトの阿部さんだ。彼女は眉をしかめながらこちらを睨んできた。
「な、何するのよ!? バカか、お前!」
「ご、ごめん。驚かせるつもりじゃ……」
「何なんだよ、いったい。そこ、用事なかったらどいてくれる?」
阿部さんは人差し指で僕がいるところを指しながら言う。職員室の扉を塞いでいた僕は謝罪を残しその場を去る。走って、走って、ひたすら走って……。早くこの場から逃げ出したかった。一瞬、僕の名前を呼んだ彼女の声が『あいつ』の声に聞こえたから。
「くっそ、くっそぉ……!! 何でだ。何で名前がいないんだ!」
何かが間違っている。異常だ。尋常ではない。
なぜクラスの出席名簿に、『あいつ』の名前がないんだ?
なぜ『池田文徳』の名前が、出席名簿からいなくなってる?
なぜ僕が殺した人の存在が、この世から消えている?
何ども繰り返して自分に問い返したが、その答えは決して出てこなかった。
- MURDERER PARADOX
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