機動戦士ガンダム OUT:Side/PartStoryS

川城龍成

Prolog [0] The future is now.

「人の革新」という言葉があるが私は嫌いだったよ。

 人類が宇宙に上がって早1世紀を迎えようとしているにも関わらず、人の歴史は宇宙世紀という「新世紀」を迎えても尚争いの歴史を繰り返している。

 人とは常に争っている生き物なのだ。

 有史以来、いや地球という箱庭に生物が誕生して以来、生命は常に他者を蹴落とし、出し抜き、勝ち抜いていくことで次の世紀へと生命の道筋を繋いできた。

 それは「生きる」ための当然の摂理で生存とは本来生物がその生命を燃やしていくために必要な行為だったのだ。

 それは進化であり、生活であり、継続であった。

 家族というコミュニティはそのために生み出した生命の生活圏の形成に必要な最低単位の集団である。生命であるのならば家族という曖昧な価値観を本能的に理解できるものである。

 ただし、家族の中に愛があのかは私には断言できない。

 愛とは武器だ。

 愛とは何とも曖昧で誰もが持てる武器なのだ。

 愛するが故に人は他者を殺す。愛故に人は最愛の人を殺せる。

 そこに「生きる」工程は必要ない。「生きる」という摂理の中に「愛」は不必要なのだと私は思っている。地球という箱庭に生まれた生命達は己の生命の奔流を自然という荒波の中に浮かべても尚、生きていこうとする強い意志を持って己が足で歩いてきた。

 その中には「愛」はない。

 「愛」はないのだ。

 だが、「人の革新」の中に「愛」はある。人類が宇宙へと上がったその時から、人類は次の時代を迎えるために「愛」をもって進化していったのだ。

 ある者は数奇な運命を呪いながら己の中の欲望のままに押し進み、其の果てで惹かれ合うように運命の女性と呼べる者との邂逅を果たした。

 ある者は互いに敵と知りながらも心を強く通わせることのできる人間を前にして互いが互いの心に触れ合うことのできる掛け替えの無い想いの片鱗を知り得た。

 それが争いの中から生まれた「人の革新」の予兆であるのならば、その原因は「愛」であることに他ならない。

 人は惹かれ合う。それは多分「愛情」なのだと思う。


 あまり長い話をしても君には面白くは感じないと思う。

 散文的に私の素直な気持ちを君に吐露にしている訳だが、私自身その「人の革新」について思うところはやはり「愛」の情熱が人を一段上の段階へと推し進めるのであることを確信している位で明確な理由づけなんてできていないのだ。

 そもそも明確な理由づけなど必要ないのではないかと最近は思っている。

 人は既に箱庭の外に飛び出してしまった。

 神が……もし、神という存在を仮定するとするのなら、人類という金型(モデル)は神の計画していた開発路線を外れているのだと私は思っている。

 神は箱庭の中で成長する生命の開発には熱心だが、すでに人類は神が其の監視範囲であった地球の外に放たれてしまった。それは最早誰もが予測できない未来の姿であり、これからも誰もが予測できない過去の姿でもあるのだろう。

 いや、そもそも有史以来人類の誰が未来を予測できたろうだろうか?

 そんな人間はいないのだ。

 誰一人予測できない。未来など……。

 旧世紀の知識人にこんな言葉を口にした者がいる。

「未来は今である。」

 彼女は文化人類学がまだ未熟だった時代に現地へのフィールドワークを行い、社会評論と一般向けへの教養を社会へと発信した女性学者だった。その活動には尊敬の声が色めき立っていたが、しばし学会では論争の争点になる場合もあったという。

 其んな彼女の著書の中には19世紀の合衆国で勃発した社会的クーデター「性の革命」に影響を与えているが、それはまた別の話にしておこう。


 話が長くなった。本当に。

 ――未来とは”今”だ。

 それを正しく捉えることのできる人間こそが「人の革新」を真に捉えることのできる人間なのだ。その意味をよく知ってもらいたい。



 キャリフォルニア・ベース 某研究施設第一応接室

 U.C.0090 聴取 第1374電子音声記録より 



 表題「ある研究員からの※※※※」


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