最後に見るのは君がいい。
朔立
プロローグ 「お知らせです。地球は滅びます」
どうやら僕たちは絶滅するという事実を知ったのは今朝のことだった。
テレビのニュースを右から左へと聞き流しながら、いつのどうりに学校へと行く準備をしていると、急に画面が切り替わった。切り替わった画面には、暗い顔で演説台に立っている国防長官だった。
彼は、一度深呼吸をした後に、こう告げた。
「隕石によって、この地球は、滅びます」
一斉に会場は静まりかえり、次々と記者からの怒涛の声が上がる。
それから国防長官は、一定のトーンで隕石の詳細を告げ、記者の質問に一切答えることなくその場を去っていった。
画面は切り替わり、いつものニュース番組へと戻る。けれど、番組のアナウンサーたちも唖然としていて、なかなか言葉を発しなかった。時が止まったような沈黙は、間違いなく放送事故に分類されるけれど、どこのニュース番組でもこうなっているのは予想できる。
なにせ、僕たちは死ぬのだ。
生きていれば、それは必ず来るものだ。
生を与えられた者は、みなその時を覚悟している。
でも、それが突然やって来るとなると、どうしても怯えてしまう、拒否してしまう、拒絶してしまう。誰だってそうだ。僕だってそうだ。どれだけ肝の据わっている人でも、怖いはずだ。
僕は、欠伸をした。大きな欠伸をした。
飲みかけだった牛乳を飲み干し、ベランダへと出る。
マンション三階からの眺めは、中途半端でキレイと呼べるほどのものではない。
けれど、僕はこの光景が好きだった。
電線には雀が止まりチュンチュンと鳴き、すぐ下を走る国道は途切れることのなく車が流れていて、歩道にはランニングをしている人や、黄色い帽子を被った小学生が元気に学校へと向かっている。
平和。そんな言葉がふさわしい。
何もない、波のない、そんな風景。
つまらなくて本当に最高だ。
けれど、そんな風景ともお別れらしい。
どうも地球は滅ぶらしいから。
生あるものは全員死ぬらしいから。
だから、もう見れない。
そんな事実を考えながら、僕はいつもどうり家を出て、学校へと向かった。
どこまでも青い空を眺めながら。
隕石は、まだ見えない。
最後に見るのは君がいい。 朔立 @koyoizakura
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