転生先はモモタロウ
読ミ人オラズ
第1話
誰かの話す声が聞こえる―― それと同時に、俺は意識を取り戻す。
俺は嘗て勇者として、3人の仲間と共に魔王の大軍団と戦ったことを思い出した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
魔王城の魔王の部屋の前――
俺達は1人も欠けることなく、ここまで辿り着いた。
残る敵は魔王のみ!
4対1と数だけは有利だったが、俺達は全員ボロボロの状態で、魔王に勝てる可能性はほとんどなかった。
「アイヌ、マサル、ユキジ…… これまでありがとう。ここから先は俺に任せてくれ」
「何を言うんだ! ここまでみんなで頑張ってきたじゃないか! 最後もみんなで力を合わせれば絶対に勝てるはずだ!」
みんな強がっているが、もう誰も力が残っていないことは分かっているはずだ。
俺は笑みを浮かべながら、もう動くことのできない仲間に別れの言葉を掛けた。
「お前達と一緒に旅ができて、俺は幸せだった。俺は最期の力を使って魔王を仕留める。その後のことは―― お前達に託す! さらばだ」
「行くんじゃない! 待つんだ…… ハナサカああぁぁぁ!!」
俺の名を叫ぶ仲間達を残し、俺は魔王の部屋の中に1人で入っていったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局俺は死んだ。究極魔法を使って自爆し、魔王共々粉々になった…… はずなのに、今の俺には意識がある。どうなっているんだ?
そうだ! 俺が自爆したとき、真っ白なひらひらした着物を着た女の人を見たことを思い出した。
その女の人は女神様だったのだろうか?
「勇者ハナサカ。あなたの現世での行いに報いるために、あなたの魂を別の世界に届け生き返らせましょう」
彼女は確かそんなことを言っていたはずだ。その後、どんなふうな生活を送りたい、とかいろいろ聞かれた気がする。
それに対して俺は
「静かに、そして誰からも厄介ごとを押し付けられないで、できれば甘い生活を送りたいなあ」
そう答えたことを思い出し、俺の意識は完全に戻ったのだった。
そして同時に俺は絶望した。
「何だ、これは……」
俺は全く動くことができない。それどころか、声を出すことさえできないのだ……
感覚だけは正常で、今俺がいる場所も俺の状況も把握できた。
俺は『桃』だった。
どこかの部屋のテーブルの上の籠の中に置かれているようだ。
部屋の中には2人の女性―― 1人はまだ若い20代くらいで、もう1人は結構な年寄りのようだった。
「本当に役立たずの娘だね。お前みたいな役立たずが、家の嫁なんて…… 私は絶対に認めないよ! 早く荷物をまとめて出て行きな!」
どうやら2人は嫁姑の関係のようだ。
若い嫁を口汚く罵る姑―― 見るからに『鬼ババァ』だ。
嫁の方は姑の口撃に耐えられなかったのか、泣きながら家から出て行ってしまった。
「ふん! いい気味だ。2度と帰ってこなけりゃいいのにね」
そう言いながら、テーブルの上の籠に入った俺を掴んで、皮を剥きだすババァ。
俺の一生が、こんな鬼のようなババァに食べられて終わるなんて―― 絶対に許せない!
ババァが俺にかぶりついた瞬間、俺は怒りのままに究極魔法を唱えた!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鬼塚家の前には数台のパトカーが止まっていた。
部屋の中は桃が飛び散っていた。
「被害者は鬼塚タエコ、68歳。まるで、口の中で何かが爆発したように顎が吹っ飛んでいます」
鑑識の報告に、刑事がぽつりと呟いた。
凶器は『桃』なのか? まさかな……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「桃さん。あなたの現世での行いに報いるために、あなたの魂を別の世界に届け生き返らせましょう」
また、前回と同じひらひら衣装の女の人が話しかけてきた。
まさか、今回の『鬼ババァ退治』が認められて、また転生できるのか? 結構転生条件って敷居が低いんだな。
次はせめて、人間に転生させてくれよ。
いいえ、次も『桃だろう』(天の声)
転生先はモモタロウ 読ミ人オラズ @papipon
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