第16話

資料館を出た後、そのまま漁港に向かい祠の写真を撮ったところで、先ほど調べた民話をまとめる為に学校に戻った四人。


そのまま四人で一つの机を囲み、皆の発言を渚がまとめていった。


まとめた、と言っても海神の詩の感想や、後はこれからの調べ方など、それほどの事では無かった。


そのまま雑談に入り、気づけば昼放課を告げるチャイムが鳴る。


他のクラスメイトも戻ってきており、担当の教師も部屋には居なかったので、自由に散り散りになっていった。


航と拓海は学食に行くと告げ、弁当組二人と解散し、腹ごしらえに向かう。




「けどよ、行きなり渚とデートってどういう風の吹き回しだ?」




「いやさ、晩飯白石家に誘われてさ、それで流れで」




「デートは否定しないのか。バイトは休みだったのか?」




「いいじゃん、デートでしょこれ。天気悪くてな、父さんが遊んでこいって」




先日の週末から続いた今日の月曜日、まだまだ航は浮かれ気分が抜けない。


それだけ充実感を感じていたのだと思う。


拓海に話をしていると、またあの時の温度、香りを思い出し、心が浮足立つのを感じる。




「なるほどね。どうだ、少しは話せたか?」




しかし、拓海のこの一言で現実に引き戻された。


あのこと、中学の時の事。今でも思い出す、幼稚だった自分。




「いや、あっちも気を使ってるんだと思う。けどあいつはやっぱ優しいな、前みたいに話してくれたよ」




「渚はそういう子だろ。あっちだって多分お前に言いたいことあると思うぞ?」




その言い振りに、拓海は渚から何か聞いているのかもな、と察した。


自分が原因なのだが、それでも距離を感じ心が沈む。




「そうなんかな、とりあえず怒っては無さそうだった」




「まあこれだけ一緒に何かやる時間あったら、その話をする機会もあるだろ」




「まあな、近いうちに話すよ。やっぱりまた四人で遊びたいしさ」




拓海はおう、と答え爽やかに笑って見せた。こいつが良く、女子から告白される理由が良くわかる。


食堂から続く列にたどり着き、並びながらメニューを話し合う。


この時間が。腹減り時にはたまらなく長く感じて辛いのだ。


今日は特に、先程の拓海とのやり取りを思い出す。


渚の事を考えると、少し重くなった心だったが、食堂の券売機前に着くと少し和らぐ。


やはり食欲は偉大だなと感じ、お気に入りにかつ丼を選び受付のおばちゃんに渡す。


半券を持ち、カウンター近くの席が空いていたのでそこに座り拓海を待った。




「おう、何にしたよ」




「かつ丼」




「お前いつもそれじゃねえか!よく飽きねーな」




「お前もいつもチャーハンセットじゃんか」




「いやいや、たまにからあげ定食も頼むし」




この学校は、英語学科、進学クラス、情報科、普通科と分かれており在学数は七百人を超える。


その人数に対応するため、食堂も大きくメニューも豊富であるので学生に大好評である。


ちなみに、航と拓海は普通科に所属しており、課外実習も普通科の授業の一環である。


注文の回転も速く、雑談をする前に番号を呼ばれ品物を取りに行く。


航はそそくさと席に戻り、拓海はカウンターでラーメンに胡椒を振ってから戻ってきた。


頂きますと二人で合掌し、湯気がまだ立つ料理を頬張り始めた。




「お、今日は麺が固めだ」




「固め嫌なのか?」




「いや、当たりだな。いつもラーメンはバリカタだし」




「確かにそうだったな」




その後は二人とも無言で食べ進め、あっという間に平らげてしまった。


やはり腹が膨れると気分が変わる。


最高の気分転換だなと思い、食べ終わって席でダラダラしていても後続が詰まるのでさっさと二人で食堂を後にした。




 午後からの授業は退屈なもので、いつも通り教師の声を子守歌にしながら船を漕ぐ。


まだまだ半ばの五時間目、拓海を横目で覗くと、案外、授業を真面目に受けている様だ。


しかし、ずっと見ていると机の下でスマフォをいじっているのが見えた。


悪戯で連絡用アプリでスタンプを連打して、ほくそ笑みながら拓海を眺めていると、あちらも横目でニヤニヤした笑みを返してきた。


二人でニヤニヤしていると拓海が何やら文を打っている様だ。


その様子を眺めてると、こちらのスマフォが震える。


ワクワクしながらアプリを開き、少し驚いた。




『俺に構ってないで渚に送れよ』




謎のキャラクターの謎のスタンプと共に送られ来た冷やかしにどう返信しようか少し逡巡した。


茶化され続けても悔しいので、攻撃に移ることにする。




『確かに、愛しの渚に何か送るわ』




そう送り、拓海の様子を見ていると、この授業が終わるチャイムが響く。


いつの間にそんな時間がたっていたのか驚いたその時、いきなり拓海が渚を大声で呼んだ。




「おい渚!ちょっとこのライン見てよ」




言いながら渚に近づいていく拓海に飛びつく。


攻勢がまさか裏目に出るとは。


調子に乗った先ほどの自分を埋めたくなる衝動に駆られるが、拓海を止めるのが先だ。




「貴様!止めろ!止めてくれ!」




「えー?何か都合悪いことあるの?」




「無いけど!プライベートってあるじゃんか!」




二人じゃれあう姿を、何事かと眺める渚の視線に気付き言い訳を続ける。




「すまん渚、何もないから。マジで気にしないで!」




「う、うん」




渚だけでなく、クラスメイト数人が引いていることに気付き取り合えず拓海を引き連れ席に戻す。




「いやあ、航君!素直になりましたな等々!」




「ジュース奢るからさ、勘弁してくださいよ!」




「帰りのコンビニでパン付きで手を打とう」




足元を見られた交渉だが、背に腹は代えられない。


仕方なく分かったよと返事をすると、拓海は納得したようで意地の悪い笑みで、次の教科の準備を始めた。




「何だよー、折角協力してやろうと思ったのに」




「残念そうにするな、後お前がやるとろくなことにならなさそうだ」




「いやいやいや、お前よりモテるからね!」




確かに、自分より交際経験の多い拓海の言うことには一理ありそうだが、まだまだそのタイミングではない。


そもそも渚には謝ってすら居ないのだ。


先程のバカ騒ぎの余韻も過ぎ去らぬまま、いつの間にか放課が終わり授業が始まってしまう。


クラスの視線を集めた放課の事を思い出すと頭を抱えたくなる。


原因の隣の悪友と言えば、何故か勝ち誇ったような顔でスマフォをいじり、誰かに連絡を取っている様だ。


どうせ、後輩の女子とかだろうと思い、恥ずかしさをかき消すため教師の言葉に耳を傾けた。


しかし授業中、先程のバカ騒ぎに渚を巻き込んでしまったのを後悔し、まったく授業内容が入ってこないのであった。




ちなみに帰り道、キッチリ拓海にパンとジュースを買わされるのであった。


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