第7話
渚と航が一緒に下校した日から数日が経ち、金曜日の夜。
秀幸と航は、今週の土日の漁について、天気予報を見ながら話をしていた。
「低気圧来てるから無理だろ、土日は手伝わなくていいぞ」
「漁に出ないとやる事なくて暇なんだよね」
「高校生の癖に枯れてるな。ほれ、小遣いやるから遊んでこいや」
そういうと秀幸は財布から一万円を取り出し、航に渡す。
「ありがとうございます。気前いいじゃん」
「いやあ渚ちゃんと遊ぶのにもお金がかかるだろ?」
このオヤジ、一週間この調子である。
元から自分をイジッて遊ぶのが好きな節はあったが、今回は特大にイジりやすいネタだ。
そして、渚の父親と情報共有している可能性もある。
もし渚の父親にこの事を話されていたら非常に顔を合わせづらい。
別に後ろめたいことをしたわけではないが、自分の一人娘のそういう話なんて聞きたくもないだろう。
そもそも、渚にそういう気もなさそうだから迷惑だろうし。
あいつは、幼馴染がまた集まったから嬉しいだけだと思う。
「はいはいそうですね」
過剰に反応するのも悔しくて、適当にあしらい、ソファーに寝転びながらスマフォに目を落とす。
まあスマフォを使っていても、渚ちゃんか?と言われる始末なのだが。
「冗談抜きで、今しかできないことはあるんだから。ちゃんと遊べよ?あ、拓海誘うの禁止な」
「何でだよ。そんなこと言われたら遊ぶ人いないんだけど」
「あ、そんで明日の夜組合の飲み会だから居ないわ」
「分かった。適当に飯食っとくわ」
じゃあ風呂入ってくると言い残し、秀幸は寝転んでいたカーペットから立ち上がり、広い肩を揺らしながらのしのしと風呂に向かっていった。
「渚ねえ」
父さんが部屋から出ってたのを確認してから、一人呟く。
実際はあの日、ラインの返事は帰ってきたもののそこからの連絡は無い。
こちらから送るのも迷惑ではないかと考えてしまい中々送れないでいた。
「なんかここで送ったら負けな気がする」
それに、もし遊びに誘ったとして、あちらも店の手伝いなんかもあるだろう。
まあ全部それは言い訳で、単純に断られるのが怖いのだけ。
ラインを開き、あの日の返事を指でなぞる。
『こっちこそありがとう。お父さんもお母さんもまたおいでだって!』
続いて猫のキャラクターのスタンプが張り付けられている。
女子高生らしい、かわいいスタンプが、またにゃーと鳴いている。
中学の時、あんなことがあっても、高校になって何事もなく話しかけてくれる渚には、非常に助かっていた。
拓海と京子のお陰は勿論の事、割と最近は上手く自分の事が回っている気がする。
当時の事は、父さんには迷惑もかけたが、当の本人に謝られてしまった。母親が居なくてすまないと。
ただ、その時に十八になったら母親の事について話すとも言われている。
家には母の遺影や仏壇もないし、墓参りなどもしたことはないので、生きてはいるのだろうが。
全く話せない、というのも気になるが。
一体どんな話が飛び出すのか、少し怖いところでもあるが、聞かないわけにはいかないだろう。
しかし、土日の漁が無くなったこともあり、どこか気が抜けて、眠気が少し脳を覆う。
「
取り合えずログボだけでも貰っとくか」
自分がやっているゲームが、まだログインして居ないことを思い出し、アプリを開く。
起動を待っていると、独特な電子音が響き、スマホの上部にメッセージを受信しましたとウインドウが表示された。
どうせ拓海だろと思い、ゲームのログインボーナスを優先することにする。
そうやってスマフォを操作していると、眠気もそこそこになり、父さんも風呂から出たらすぐ寝るだろうし、居間に居ても仕方ながい。
なので自分の部屋に戻るために、ソファから立ち上がり居間を出て階段を上がる。
あくびが止まらず、大きな口を開けながら部屋に戻り、そのままベッドで寝ながらゲームをしていると、すぐに瞼が重たくなり、意識が遠のく。
明日休みだし、風呂は明日でいいか。
意識の片隅でそんなことを思いながら夢の世界に潜っていくのであった。
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