case.3
過去からの使者
人生どうなるか分からない。
私の人生なんかまさしく、青天の霹靂が続いている。
でも、この状況は論外だ。
もう、これ以上、私はあの人たちに関わらないようにしていたのに。
「私はあなたたちにこれ以上、関わるつもりもありません。そもそも、私を一方的に縁切りしたのはそちらですよね?」
よく言えた、私。あのころとは大違いだ。
さあ、反論するが良い。反論してくれたら、私はあなた方の玩具ではない、ということを証明するだけなんだから!
「
私の言葉に、息をのんだ目の前の老夫婦。その瞬間、私は勝利を確信した。
~~~~~~~~~~~~~
あの夏に高熱を出した時から丸一年。
あの日の若先生の言動は、未だに理解できていない。
その一方で私は一つ、理解してしまった。
『私が若先生のことが好き』、だと。
当然、まだ鹿野家でアルバイトを続けたい以上、それを態度に出すつもりはない。だが、今までに貰った数々の品物、それらが前以上に『大切なもの』へと変化した。
そして何より、若先生と過ごす時間は限られている。
私はその時間を大切にしたかった。
しかし、時が過ぎるのが速い。
残念というべきなのか、無事というべきか、私は四年生に進級し、大学生活最後の年を迎えた。
すでに就職先は決まっており、国内でもそこそこのシェアを誇る医療機器メーカーの営業マンとして社会人を始めることになっている。
もちろん、卒業までに取得すべき単位はすべて取得できている。なので、あとは就職前研修とか諸々の手続きを済ますだけだった。
なので、鹿野歯科でのバイトも今まで以上に多く入れており、今では若奥様候補として患者さんに見られているという自信もあった
――――のだが、運命とはままならないものであった。
ある日の晩。
いつものように業務をこなしていた私で、患者さんが来るまで三十分の間に、明日の患者さんのカルテを並べていた。
その途中、患者さん用の玄関に人影が差した。
(おや? まだ、あの人が来るまでに時間があったはずだよ?)
そう、不思議に思い、気配のした方を見ると、入って来た若くみえる男の人と目があった。
その瞬間、思い出したくもない過去がいっぺんに溢れかえってきた。
「お久しぶりですね、
彼は薄っすらと笑みを浮かべながら、私にそう挨拶した。
(やめて。その名前で呼ばないで)
私は反射的にそう思ってしまった。彼はもう二度と会いたくない人の中の一人だ。
だが、私もついうっかりこの人の名字ではなく、名前を呼んでしまった。
「――――――――ええ、お久しぶりです、雄太郎さん」
私がそう言った瞬間、ガチャリと診療室の方で何かが落ちる音が聞こえた。
その方向を見ると、いつもならば私が呼ぶまで降りてこないはずの若先生がいらっしゃった。
雄太郎さんの方は、どういう反応かと思ったら、彼は彼で苦笑いを浮かべていた。
「ご用件は何でしょうか」
彼は鹿野歯科の患者ではない。それに、ここをわざわざ狙ってくるような
だが、彼は苦笑いしたまま、言った。
「僕は今、歯が痛くてね。丁度、見てもらおうと思ったんだよ」
その言葉をそのまま受け止めることはできなかった。
なぜなら、彼は私の
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