22話 口論と本音

 あたしは荒井由香に勇気を振り絞って訊くことにした。その時、あたしは心の中で怯えていた。きっと由香が怒るだろうなと思ったから。

「ねえ、由香」

「うん?」

 彼女はご機嫌な様子。今から話す内容はもしかしたら機嫌を損ねてしまうかもしれない。それを怖れていた。

「あのね」

「うん」

 なかなか話し出さないあたしを不思議そうに見ている。

「今の仕事、いつまで続けるの?」

 そう言うと由香の顔付きが変わった。

「どうして?」

「正直に話すね。あたし、由香が今のAVの仕事辞めてほしいって思ってるの。理由は……他の女性と絡むのも嫌だし、病気にも良くないと思っているからなの。由香はどう思ってるの?」

「わたしは、今の仕事嫌じゃないよ。もしかして、嫉妬してるの?」

 あたしはコクンと頷いた。

「これはあくまでお仕事よ。感情なんかないよ」

「でも……」

「でも、なに?」

「もし、由香が仕事を辞めないなら別れるって言ったらどうする?」

「なにそれ!」

 あたしが黙っていると、

「わたし、仕事辞めないよ? 病気があるから他の仕事は雇ってもらえないだろうし」

「そんなことないと思う。作業所とか、障害者枠の仕事だってあるんだから」

 由香は何か言いたげだ。

「でも、安いんでしょ? 給料」

 今の馬鹿にしたような言い草にあたしはムカッとした。

「そういう言い方はよくないよ。働いている人に失礼」

「そんなの働いている人達のことなんか関係ないよ」

 あたしは呆れた。

「そんな言い方しないで」

「だって、そうじゃない」

「もういい! 恋人の意見を取り入れてくれないなら距離おこう!」

「なんでそうなるわけ?」

 由香は冷静だ。その冷静さが逆に腹が立つ。

「由香! 今日は帰って!」

 納得がいかないように由香は見えたけれど、知らない。

「わかった! 帰るよ。帰ればいいんでしょ!」

 あたしは彼女の言ったことを無視した。

「返事もしてくれないんだね」

 尚もあたしは黙っていた。本当は喧嘩なんかするつもりなかったのに。どうしてこうなっちゃうかな。あたしは今まで我慢してきた。もうこれ以上我慢ならない。だから、喧嘩になっても引き下がるつもりはない。あたしこと横浜千奈津は我慢の限界。


 もし、由香があたしの要望を一つも取り入れてくれないならこっちにも考えがある。覚悟だってしてある。最悪の場合だけど。でも、なるべくそうはなりたくないのが本音。何とか受け入れてもらえないかな、そう願うばかり。

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