第4話 決意

 僕の体調に良くなるような兆しはまだ無い。お寺の住職に「幻聴」という症状ではないか、と言われそればかり気にしている。スーパーマーケットで連絡先が書かれた紙は自室のテーブルの上に上がっている。勇気を振り絞って連絡しようかと思ったが、今日は無理そうだ。残念だけれど。僕の連絡先も教えておけば良かったかな、と少し後悔した。でも、まずは体調を良くしないといけない。どうやったら良くなるのだろう……。


 僕は悩んだ末、地元の病院にかかる決意をした。精神科に。

 今日は土曜日なので、月曜日に朝電話をしてから行ってみることにした。本音は行きたくないけれど。そもそも僕は、病院が嫌い。注射や服薬が嫌だ。でも、今回の調子の悪さは尋常じゃない。だから仕方なく行く、という感じ。


 所持金もそれほどある訳じゃないので一応、母に話してから金銭面の窺いをたてることにする。僕の家もお金がある訳じゃないからどうなるかわからないけれど。


 今、僕は自室にいてベッドに横になりながらボーっとしている。壁掛け時計を見ると午後二時を回ったところだ。あまり考えがまとまらないけれど、母に話してみよう。そう思い、起き上がった。体が重い……。幻聴という症状も出ている……。本当は喋りたくない心境だけれど医者に診てもらうためだ。そう自分に言い聞かし階下に降りた。


 母は、今日仕事が休みなようで居間に行ってみると編みものをしていた。スマホでジャズを聴きながらそれをやっていた。

「……母さん。今いい?」

「うん? あら、あんたどうしたの! 具合い悪そうな顔して」

母は驚いている。

「本当に具合い悪いんだ……」

「どういうふうに具合い悪いの」

目が点になっている母。心配をかけてしまったかな。

「聞こえてくるんだ、幻聴が」

「え……? 幻聴? なんて聞こえるの」

あまり聞かせたくない話だな、と思いながら、

「……あの、聞きたい? 言いたくないんだ、その内容は」

「言いたくないなら、別にいいけど……」

少しの沈黙のあと、

「……この前、お寺に行ったんだ。お祓いをうけに。でも、全然変わらなくて……。そこの住職が言うには幻聴という症状って言ってた。病院を勧められたよ……」

「そうなの……。 それで、あんたは病院いく気あるの?」

「……うん、決心したよ。行く。だから……病院代がないからだしてもらえないかと思って……無理?」

「無理もなにも、体調悪いの放っておけないじゃない!」

僕は黙り込んでしまった。確かにその通り。

「初診はたかいはずだからとりあえず、これもって病院代にあてなさい」

「わるいね……」

母は視線をずらし、

「月曜日に病院いくの?」

僕はうなずいた。そして具合悪いから寝てる、と言い残し居間をあとにした。

親不孝者だな、僕は。

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