第二十二話 クレーマーへの対処法

   

「どれどれ……」

 鬱陶しそうに呟きながら、マドック先生が、カウンターの向こう側へと出て行きました。

 カウンター越しではなく、胸と胸とを付き合わせるような距離で、直接対応するようです。

 私は「危ないですよ、マドック先生!」と注意を呼びかけるべきだったかもしれません。でも、声になりませんでした。

 まず第一に「私じゃなくて、厄介な客は、マドック先生が自ら相手してくれるんだ……」という安心感。

 第二に「いざという場合は、私にも考えがある」と、対応策の想定。

 それらが、胸をよぎったのです。


「うむ。確かに、ウチの店のポーションだな」

 小瓶を手に取って、マドック先生は確かめていました。冷静な事実確認なのですが、これを見た男性客は、さらに激昂したようです。

「ふざけんじゃねえ! 他人事みたいな口調で言いやがって! 俺の顔を忘れたとは言わせねえぞ!」

「いや、そう言われても……。客の顔なんて、いちいち覚えてるわけじゃないからなあ。よほどの常連客は別だが」

 困った顔をしながら、マドック先生は、正直に返してしまいました。

 客の側では知り合いのつもりでも、店の側では記憶にない。これって、商売をやっていると、よくあることらしいですね。魔法学院の同級生――商人の息子――が、そう言っていました。

 でも、それが事実であろうとなかろうと。

 今、目の前の客は納得していません。むしろ、怒りの炎に油を注いだみたいです。

「この野郎! 言い逃れする気か? ここで俺は、二度もポーションを買ってるんだぞ!」

 たった二回! それで、もう常連客のつもりでしょうか。なんて厚かましい!

「しかも二度とも同じ、スピードアップ・ポーションだ! 一度目は効果あったから二度目も買ってやったのに、今度は全く効きやしねえ! てめえ、いい加減なもの売りつけやがったな?」

 茶色の服の武闘家は腕を伸ばして、マドック先生の胸ぐらを掴みます。

 それでも。

「服が伸びるから、そういうのは控えて欲しいのだが……」

 マドック先生は、落ち着いた態度を崩しません。

 確かに、こういう場合、脅しに屈する素振りを見せてはいけないのでしょう。

 相手の手を払いのけようともせず、マドック先生は、穏やかな口調で聞き返しました。

「一つ確認しておきたいのだが……。あんた、ちゃんと使用間隔は守ったか?」

   

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