第二話 初めまして店主さん

   

「こんにちは……」

 挨拶の声と共に扉を開けて、私はお店に入っていきました。

 本当は、もっと明るく元気よく挨拶したかったのですが、新しい職場に対するドキドキが転じて、少しオドオドした感じになってしまいました。

 そんな私を出迎えたのは、

「ああ、いらっしゃい。悪いな、今日は、店は昼からのつもりだったんだが……」

 よれよれの白衣を纏った男性。前を閉じていないので、中に着ている茶色いチェック柄のシャツも見えますが、そちらもだらしない感じでした。

 声の渋さと言葉遣いは年長者っぽいですが、顔を見た感じ、私よりも少し年上という程度に思えます。

 開店準備中だったのでしょう。彼は、棚の一つに手を伸ばし、そこに小瓶を並べているところでした。


「あのう……」

 あまり意味のない言葉を発しながら、私は、ぐるりと店内を見回しました。

 店の奥には、小さなカウンター。左右の壁は棚で埋まっていて、大小さまざまな瓶が、ところ狭しと置かれています。

 思ったよりもゴチャゴチャしたお店……。それが、第一印象でした。

 回復薬を扱っているとか、医療系の知識のある者を求めているとか。そうした予備知識から、もっと衛生的で整然としたお店を想像していたのですが……。

 天井の照明も、医療機関とは逆にむしろ薄暗くて、いかにも怪しいお店といった感じです。

 このお店、大丈夫なのでしょうか。私が思っていたような職場ではないのかな、と少し心配になってくるくらいです。


「……まあ、いいか。まだ品物は全て並んじゃいないが、欲しいものが決まってるなら、言っておくれ。決まってないなら、勝手に見ててくれて構わないよ」

 店主さんの言葉で、私は我に返りました。

 どうやら、私はお客さんだと思われているようです。

「ああ、違います! 違います!」

 慌てて私は、まるで誤解をかき消すかのように、顔の前で小さく手を振りました。

「私、ポーションを買いに来たわけではなく……」

 手にした書類を、店主さんに差し出します。

「……王都の魔法学院から来ました。これが紹介状です」

「ん? お嬢ちゃん、それはメモ書きのようだが……。ここへ来るための地図みたいだな? だったら、もう用済み、ただのゴミか。俺に捨てさせよう、って魂胆かい?」

 ああ、間違えました!

「すいません! ゴミ捨て代行なんて、そんな失礼な意図はございません! えーっと、これじゃなくて……」

 取り乱す私を見て。

 店主さんは、やわらかな笑顔を浮かべました。私を落ち着かせようという気持ちが、じんわりと伝わってきます。

「はいはい。そんなに慌てなさんな。これじゃあ、冗談も通じない。まずは冷静になろう。ひとつ深呼吸でもして……」

 言われた通りに大きく息を吸って吐いてすると、私の内心のドタバタも、少しは落ち着きました。

 今度は冷静に、ポケットから大事な紹介状を取り出し、渡します。

「ふむ……。お嬢ちゃんが、今日から働いてくれるという新米の魔法使いか……」

 ザッと目を通した店主さんは、握手のポーズで、手を伸ばしてきました。

「よろしく。俺はマドック。ここの店主だ。医療士じゃないが、街の者からは『マドック先生』と呼ばれている」

   

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