四神ノ巫女

コウセイ

異形・怪異現出編 一幕 遭遇

 ここは住宅街じゅうたくがいうららかなはる日差ひざしが昼下ひるさがり。とある一軒いっけん庭先にわさきで、それはきていた。はじめてにするちいさきものに、ねこひとみかがやかせ、前脚まえあしからするどつめす。



  シュッ

  サッ


  シュシュッ

  サ、ササッ



 寸前すんぜんで、そのつめかわちいさきものに、ねこ興奮こうふんおされない。



  フーッ フーッ



 不意ふいに、ねこは、攻撃こうげき

めた。だが、どちらもりょう視界しかいに、相手あいて姿すがたらえ緊張きんちょうたかまる。つぎ攻撃こうげきそなえてか、ねこ本能的ほんのうてきかがめ、ねらいを一点いってんさだめる。いまにもかろうとする、つぎ瞬間しゅんかん



  ガバッ



つかまえた!」

 そのまま少女しょうじょきかかえられ、いえなかへともどされてしまう。するとねこは、不満ふまんありげにこえげる。



  ニャーオッ!



 偶然ぐうぜんにも、ぬし少女しょうじょたすけられたちいさきもの。すでににわから姿すがたし、太陽たいようしずよるけたころ少女しょうじょねむ部屋へやで、それはきた。



  ギラリンッ



気配けはいかんじるぞ、ちかくにるのはわかっておる!」

 感情かんじょうたかぶり、おもわずこえげていた。

 そこへしのかげ



  バシィッ!



 そのかげは、満足まんぞくそうに一声鳴ひとこえないてみせた。



  ニャオーーン!



 そのこえに、少女しょうじょねむこすり──


  カチッ ピカッ!



 ──部屋へやかりをけた。

「ふあああ・・・どうしたの?」

 ぬしである少女しょうじょに、てとわんばかりにと、また、ほこらしげにこえげるねこ



  ニャオン



 しゃがむと両膝りょうひざかかえ、ねこあたまでる少女しょうじょ



  ナデ ナデ・・・



「!」

 ふとねこんづけているモノにづく。



  ヒョイ



 つまんでげると、まゆをひそめた。

「・・・うーん、フィギュア?」

 そのモノ、平安時代へいあんじだい貴族きぞく服装ふくそうをしており、よくると、まるできているようにも少女しょうじょおもえた。それを、たまたまらしてみたときのこと。



  ・・・ブラ ブラッ ブランッ 



「なっ、なんじゃ!?」

「しゃべった!?」

 突如とつじょ人形にんぎょうらしきモノがこえはっしたことに、おもわずつまんでいた少女しょうじょはなしてしまう。



  パッ ベシッ!



「ぐえっ!」

「あ・・・」

 ついうごくモノに反応はんのうするねこに、そのモノと少女しょうじょとの遭遇そうぐうから数時間後すうじかんごいまあさのことであった。

わたし、これから学校がっこうなんだ。りたいことあったら、それ使つかっていいよ!」



ドタ バタ・・・



 それだけのこして、部屋へや少女しょうじょは、神薙かんなぎ ゆい十三歳じゅうさんさい)。そしてベッドのうえで、夢中むちゅうになってスマホを使つかうのは、安倍晴明あべのせいめい名乗なのちいさな老人ろうじん

「ごはんだよー!」



  シャカシャカシャカッ



 階段下かいだんしたからこえてくるこえと、ねこ餌袋えさぶくろおとに、まっしぐらにりるねこ



  ダダダッ



 は、ヒヤヤッコ(雌一歳八ヶ月めすいっさいはっかげつ)。



 晴明せいめいかたった。

 まだ、わかかりしころこと、みやこるがすほどのいくさきた。それはひと邪心じゃしんちた者達ものたちとのたたかいでもあった。貴族きぞくおもだった身分みぶんものらは、すでにみやこからしており、あっという朝廷軍ちょうていぐん総崩そうくずれ。そうなるとみやこに残るへいは、られる獲物えものしていた。

 その最中さなかてんからそそひかりはしらともに、四人よにん巫女みこあらわれ、次々つぎつぎ魑魅魍魎ちみもうりょうたおしていく。そのちからは、戦局せんきょくかえすほどのいきおいであった。しかし、それはみやこ上空じょうくう出現しゅつげんした巨大きょだいもんによって事態じたい急変きゅうへんする。

何事なにごとだ、あれは?」

「あの巨大きょだいもんは・・・なんだ?」

 みなそら見上みあげていると、そこへ何者なにものあらわれ、もんをかざす。 



  ガコッ ガコンッ


  ガコン ガコン ガコンッ・・・



 もんじていた木組きぐみはずれていくと、また、一人ひとり巫女みこあらわれるのだった。

「あれは・・・姉上あねうえ!?」

 晴明せいめいは、そららしる。



  ギ、ギギギギィ・・・



 もんひらはじめると、はじめにやってもの巫女みこ言葉ことばわす。しかし、そのこえれず、あのもん意味いみすることに、いま晴明せいめいにはすべもなく。



  ゴゴゴゴ

  ガゴン ガコンッ



 そしてもん完全かんぜんひらくと、まようことなくはじめにやってもの。すると、その姿すがたは、もんなかへとってった。突然とつぜん晴明せいめいあたまこえてくるこえがある。

晴明せいめい・・・こえますか?」

「これより、われものいます」

危険きけんです!」

「わかってます、だが、あのもの・・・このまま見過みすごすはのち禍根かこんとなりましょう」

 もんひらき、なかへとはいってったものい、晴明せいめいあね麒麟きりんは《よにん》の巫女みことももんおくへと旅立たびだってった。それからときめぐり、晴明せいめいは、あね麒麟きりん四人よにん巫女みこって、現代げんだいへとやってたのである。



  カチ カチ カチ・・・



 時計とけいはりが、午後ごご一時いちじまわころ



  ガチャ バタンッ!



「ただいまー!」

 学校がっこうからかえるなり、すぐさまゆいは、二階にかいかう。



  タンタンタンタンッ・・・



 ベッドではスマホのかたわらで、晴明せいめいだいになっていた。

大丈夫だいじょうぶ?」

「ぬう・・・」

 をつぶったまま生返事なまへんじする晴明せいめいを、のぞゆい

「お中減なかへってるかなとおもって、ってきたけど・・・べる?」

 レジぶくろから、ロールケーキをす。



  ガサ ガサ・・・



「ロールケーキとって、あまくて美味おいしいから食べて」

「ロウル・・・ケエキ?」

 どうやら晴明せいめいにとって、ロールケーキとは耳慣みみなれない言葉ことばに、おもわず半身はんしんこす。



  クワッ ガバッ!



「とにかくべてみて」



  ピリー デデーン!



 ふくろひろげ、説明せつめいするよりもべてもらおうとしたのである。恐る《おそ》おそ茶色ちゃいろ物体ぶったいり、くちれる晴明せいめい



  パクン・・・



やわらかい・・・」

 つぎに、しろものくちにする。



  パク・・・



なんとも甘露かんろな・・・」

 まれてはじめてくちにするもの感激かんげきしてか、次々つぎつぎくち晴明せいめい



  パクパクパクッ・・・



美味うまいっ、美味うますぎる!」

「ロールケーキ一個いっこで、そんなによろこぶなんて・・・むかしひとって何食なにたべてたんだろ?もしかしてわたしってしあわものなのかな。美味おいしいものがある世界せかいまれて、神様かみさまありがとう・・・」

 この時代じだいに、まれてきたことをてんあおて、かみ感謝かんしゃするゆい、そんなときのこと。



  ゆいっ、大変たいへんよ!はやて!



 突然とつぜん母親ははおやこえに、いそいで部屋へやゆい



  ダダッ



「どうかしたの、お《かあ》母さん!?」

 けつけた場所ばしょ庭先にわさきで、ぐったりとしてよこたわるねこくよりてわかる状況じょうきょうであった。

「ヒヤヤッコ!?」



  ニャー・・・



 かすれごえくのが、精一杯せいいっぱいのヒヤヤッコの姿すがたに、あわてふためく母親ははおや



  オタオタ・・・



 きゅうおもしたかのように、ゆいさけんだ。

「そうよ病院びょういん・・・動物病院どうぶつびょういん!」

 キャリーケースにヒヤヤッコをかせ、自室じしついそゆい



  ・・・ダダタタッ



いまから病院びょういんかなくちゃいけないから、晴明せいめいはここにて!それからふくろに、まだパンケーキあるからべてて!」

 矢継やつばやうとスマホをに、ゆいきびすかえす。



  クルッ



て!わしもく・・・うっぷ・・・」

 められ、ゆいかえるとパンケーキは、すでにたいらげていた晴明せいめいだった。

駄目だめだよ、晴明せいめいことばれたら、大騒おおさわぎになっちゃうから」

「それなら心配無用しんぱいむようじゃ、ひとに、わしのことえておらんのでな」

「えええっ!?」

 おどろきはしたものの、ふとゆいは、あることづく。見下みおろしていた晴明せいめいを、間近まぢかまでかおちかづけう。

わたし・・・えるんですけど」

「ん・・・そのことか、おしえてやってもよいが、いそぐのではなかったかの?」

 淡々たんたんとした口調くちょうで、晴明せいめい身形みなりととのえる。

「いけない、わすれてた!」



  ババッ、ダッ



 あわてて部屋へやようとするゆいに、いてかれそうになり、晴明せいめいさけぶ。

て、たんか!わしもれてかんかっ!」



  カチ カチ カチッ・・・



 動物病院どうぶつびょういんでは脱水症状だっすいしょうじょう診断しんだんされ、点滴てんてきわるころには、ねこのヒヤヤッコはすっかり元気げんきもどしていた。結果けっかいえれてかえってもいいことになった。診療費しんりょうひ精算せいさんをすませ、病院びょういんるとキャリーケースをおもわずめるゆい



  ギュッ



「よかった、元気げんきになって・・・」

 いえかえろうと、もないときのこと。



  ・・・スタ スタ スタ ピタッ



 すっかりわすれていることがあることにづくゆい

「そうえば・・・」



  ソー・・・



 ブレザーのポケットをのぞた。

てるし」



  スー スー・・・



 あれだけくとさわてた晴明せいめいは、ポケットのなかていたのだ。いくらほかひとえないとはいえ、なにかあってはこまるからポケットのなかてもらった。

「これはこれでいいとして・・・」

 一人ひとり納得なっとくしていると、ゆいは、突然とつぜんおもいつく。

「そうだ!ヒヤヤッコも元気げんきになったことだし、天気てんきもいいし。これから散歩さんぽでもこっか・・・きたいよね」

 勝手かってむと、気分きぶんよくあるいていたときだった。



  ガサ ガサガサッ!



 キャリーケースがさわがしく、どうやらヒヤヤッコがしてくれとうったえている。

「もう、しょうがないなあ・・・ちょこっとだけだよ」

 見兼みかねてキャリーケースに、ゆいけ、ファスナーをける。



  ジ、ジジー ドバーンッ!



駄目だめえええっ!」



  ガシシッ



 寸前すんぜんのところで、ヒヤヤッコをさえたゆい

きゅうすとあぶないんだからね!」

 かせるように、ヒヤヤッコをげたときだった。



  ワン ワ・ワンッ ワンッ!



 ちょうどまえから、やって散歩中さんぽちゅういぬえられたのだ。



  ニャ、ニャアッ!



 それにびっくりしたのか、ヒヤヤッコは、ゆいうでからしてしまう。



  ジタバタッ ダダダーッ



って、ヒヤヤッコ!」



  スタタタッ・・・



 いかけるも、ちかくのパーキングにめてあるくるましたもぐんで、ヒヤヤッコはどこにるかわからない。



  ニャーオ・・・



 ねここえがするくるま周辺しゅうへんを、ゆいさがる。

「さっきこえがしたんだけど・・・」

 おおきめのくるま車体しゃたいしたひざをつき、かお地面じめんりつくいきおいで、ゆいのぞこうとする。



  ズリ・・・



「ううーん、いないか・・・」



  スウー



 ゆいに、ちかづくひとかげ

なにをなさってるんです!?」



  ササ、サ ババン



 かげは、スカートのなかられないようにふさがり、おおきなこえのようなちいさなこえで、ゆいしかりつけたのだ。そのものは、ゆいとは制服せいふくちがうも、おなじくらいのとし少女しょうじょであった。



  グイイ ゴンッ!



 たせようとして、ゆいくるまあたまをぶつけるもおかまいなし。

「あんな格好かっこうすれば、パンツがえてしまってずかしくおもわないのですか!?」



  サスリ スリスリ・・・


「それなら大丈夫だいじょうぶ今日きょうは、あたらしいパンツはいてますから!」

「そういう問題もんだいではありません!」

 ぶつけたあたまをさすり、たからかに宣言せんげんするも、見知みしらぬ少女しょうじょ一喝いっかつされるゆい

「ほんとにあたらしいパンツなんだから、たしかめててよ!」

 しんじてもらおうと、自分じぶんのスカートをめくげようとする。



  ガシンッ



 そのゆいを、少女しょうじょ鷲掴わしづかむ。

なにをやってるんですか、あなたは!?」

「だって、ほんとにあたらしいパンツなんだもん」

 めくげようとすると、それをやめさせようとするいになった。



  グッ、グググ・・・



わたしっているのは、くるましたのぞいて・・・なにをしてるかといているのです!?」

「ヒヤヤッコ!」

 おもゆい

「ヒヤヤッコ・・・?」



  カクカク シカジカ・・・



 ゆい行動こうどうを、ようやく理解りかいした少女しょうじょ

事情じじょうはわかりました。でも、さきほどのことがあるといけません。だから・・・わたし手伝てつだいます。二人ふたりさがせば、きっとはやねこさんもつかるはず!」



  スタ スタ スタ・・・



 先頭せんとうって、ある少女しょうじょ。そのわりはやさについていけず、ゆいはあんぐりする。



  ・・・ピタ クル



「さあ、きます!」

「は、はい!」

 かくしてねここえたよりに、少女しょうじょ猫捜ねこさがしがはじまった。



  ニャー



「あちらからこえがします!」

「いたっ!」



  ダダ、ダッ



 ヒヤヤッコはげた。

はやいかけてください!」

「わかりました!」



  スタタタッ・・・



 ゆいらをては、げるヒヤヤッコ。



  ダダーッ



「もー、なんげちゃうの!?」

「あなた、本当ほんとうぬしなのですか?」

「そのはずなんですけど・・・」

 幾度いくどとなく、ヒヤヤッコにげられてしまう二人ふたり。そしていかけているうちに、いつのにやら、廃工場はいこうじょうまえまでていたのだった。



  ニャーオッ



 廃工場はいこうじょうおくから、こえてくるねここえ。まだあかるいとはいえ、廃工場はいこうじょうなか薄暗うすぐらく、ひとせつけさせない空気くうきただよう。



  サワ サワ・・・



 なにかをかんったのか、廃工場はいこうじょうはいるのをためらうゆい

かなきゃ駄目だめかな?」

何言なにいってるんですか、はやさがさないとれてしまいます。さあ!」



  グイ・・・



いたたたた・・・わかりました。きますきます」

 ゆいうでつかんで、廃工場はいこうじょうなかへとんで二人ふたり



  ・・・スタ スタ スタ



 はいってすぐ、みぎ壁際かべぎわ沿うようにして、二階にかいつづ階段かいだん。いたるところ雑然ざつぜんものいてあり、それをうように二人ふたり手分てわけしてねこさがす。かくれていそうな場所ばしょさがすも、つけすことができず時間じかんだけがぎる。



  カチ カチ カチ・・・



「もおおおっ!どこにいるの・・・」

 このままつからないのかとなかあきらめ、ひざかかゆい



  ショボン・・・



 しかし、ふとヒヤヤッコとの日々ひび生活せいかつおもかえされ、ゆいにとって家族かぞくなんだとあらためてづかされた。

絶体諦ぜったいあきらめないんだから!」



  ・・・スク ギュッ!



 がり、こぶしにぎめ、自分じぶんかせた。すこ休息きゅうそくでもして、もう一頑張ひとがんばりしようと、ゆい一緒いっしよさがしている少女しょうじょけた。

「あのー、すみませーん!?」



  ・・・・・・



 返事へんじがない。

「あのおっ!たら返事へんじしてください!」



  シーン・・・



 やはり返事へんじがない、ひと気配けはいがなく、ゆいあたりを見回みまわす。



  グル グルリ・・・



かえっちゃったのかな・・・」

 手伝てつだってもらったのにれいわず、なにより名前なまえらないことにうなだれるゆい



  ガク・・・



馬鹿ばかだ、わたし・・・」



  ヒュュュュュュュウ



「・・・ってさむうううーーいよっ!なんで!?」

 いかけたくなるほどの急激きゅうげきさむさに、いきしろく、不可解ふかかい現象げんしょうであった。

「ふはぁ・・・これって異常気象いじょうきしょう?」

 そのくらいの認識にんしきでしかなく、ゆいくびかしげた、そのとき



  ガッ、ババンッ!



「いかん、いかんぞ!」

 あわてた様子ようすで、晴明せいめいがポケットからした。

「え、なに?どううこと」

 晴明せいめいわんとすることに、ゆい戸惑とまどう。

不覚ふかく・・・これほどの妖気ようきに、いまいままでづかんかったとは!」



  きゃああああ!!



 突如とつじょひびわた悲鳴ひめい

「このこえって・・・もしかして」

だれこえかは、容易ようい推測すいそくできた。いそいでこえがした二階にかいかおうとするゆい



  ダタッ



て、!?」



  ・・・ピタッ



 ゆいあしまる。

今起いまおきてることが・・・普通ふつうじゃないってことぐらいわかってる。でもかなきゃ、ヒヤヤッコさがすの手伝てつだってもらって、あぶないったなら、自分じぶんだけげるなんてできないよ」

たしかに・・・恩義おんぎけたならかえさなければなるまい。それをうならば、わしも一食一飯いっしょくいっぱんむくいるべきであろう」

「それってたすけてくれるってこと?」

ただし、わしのことかならまもる。なにがあったとしても、だ。もし、わしになにかが・・・」



  ダダダダーッ



「・・・あああっ!」

 まだはなし途中とちゅうだったにもかかわらず、はしゆい廃材はいざいやガラクタがさえぎるも、まるで障害物競争しょうがいぶつきょうそうのようにすすむ。



  ダダッ、タンッ

  ババッ、タタンッ・・・



て、ちるちる・・・ちるうううっ!」



  ・・・ブルン ブランッ ブランッ




突然とつぜんゆい行動こうどうに、晴明せいめいはポケットからちそうになる。

「しっかりつかまってて!」



  グギュウ・・・



 とされまいと、ポケットのへり必死ひっしつかまりつづけた晴明せいめい

「ぬおおおおっ!」



  ・・・ダダダッ、タンッ



 階段かいだん一気いっきがり、そこでゆいにしたのはしんかた光景こうけいだった。

「はあはあっ、なんなの・・・これ?はあっ・・・はあ」

 なわのような蔓草つるくさからみつき、少女しょうじょったまま身動みうごきがれないでいる。そこはひらけた空間くうかん天井てんじょうたか広々ひろびろとして、おくにはゴミが山積やまづみになっている。ゴミやまから蔓草つるくさびてているのか、そこから異様いよう気配けはい晴明せいめいかんじていた。



  ザワワ・・・



「う、ううう・・・」

「・・・・・・」

 そのうちえて、少女しょうじょ衰弱すいじゃくしていくさまに、ゆいはどうすることもできない。



  ギリギリ・・・



「いかん!」


  ピョンッ・・・



 そんなゆい尻目しりめに、ポケットからりる晴明せいめい



  ・・・ストンッ タタタタッ



 着地ちゃくちすると、少女しょうじょかってはしす。そしてけながら、二本にほんゆび口元くちもとにかとつぶやくとがり──



  フワワ・・・



 ──少女しょうじょむねたかさまでると、手刀しゅとうのようにしてろす晴明せいめい

「てあああっ!」



  ズパーッ



 らえていた蔓草つるくされ、少女しょうじょくずちる。



  ドスンッ


  ストンッ、クル



 着地するなり、きざまに晴明せいめいさけぶ。

け!そのむすめれて!」



  スタタタッ・・・



 そのこえに、少女しょうじょけるゆい

大丈夫だいじょうぶ、しっかりして!?」



  ユサ ユサ・・・



 かたするも反応はんのうはなく、一刻いっこくはやげなければと、手早てばや蔓草つるくさがそうとする。が、少女しょうじょうしなっていることと、蔓草つるくさからい、おもいのほか手間取てまどってしまう。



  ズリズリ ズル・・・



なにをしておる、はやくせんかっ!」

「わかってる、ちょっとって!」



  アセ アセ・・・



  警戒けいかいしてか、身構みがまえたままの晴明せいめい

「・・・やはりるか」



  シュル シュルシュル・・・



 言葉通ことばどおり、ゆかうようにして、蔓草つるくさせまる。ようやくのことで、ゆい蔓草つるくさはらけると、少女しょうじょました。

「いやあっ!」



  ドンッ



「きゃっ!」

 ばされるゆい



  ゴロンッ



「うひょおおおっ!」



  ヒョイッ



 ってかわ晴明せいめい



  ズササッ



「ごめんなさい・・・」

 ゆいしかりつけたときとはちがって、かお強張こわばらせ少女しょうじょあやまった。

「ぜーぜん平気へいきだからにしないで・・・はは、ははは」



  ジーン ジーン・・・



 とはったもののじつは、したたかに後頭部こうとうぶちつけていたのだ。それをゆいは、わらって誤魔化ごまかす。



  ・・・ムクリ



あぶないではないかっ!」

 つんのめたままかおだけげ、晴明せいめい息巻いきまくもにもめず、二人ふたり少女しょうじょ会話かいわつづける。

「そうえば私達わたしたちって、おたが名前なまえらなかったよね」

「そうでした・・・」

 と少女しょうじょ表情ひょうじょうかたまる。



  スル、スルスル・・・



「え、なに?やだ・・・」

 蔓草つるくさが、ゆいらえた。

 「しまった!」

 警戒けいかいしていたにもかかわらず、晴明せいめいゆいゆるんだすきいてきたのだ。



  ズ、ズズ ズザザザ・・・



 こんどはがさぬようにと、おくへときずりむ。それがさっきまでの自分じぶんかさなり、少女しょうじょているだけ。



  ジタバタッ・・・



れないよ!」

 ゆいちからでは、蔓草つるくさ千切ちぎれず。きずられてゆくゆいまえに、晴明せいめいはしる。



  タタタッ ダーーンッ



とどけえええっ!」



  ガシィッ



 とっさに晴明せいめいは、びついた。なんとかゆいあしくつにしがみつく。

いまたすけるからて!」

晴明せいめい!」

 蔓草つるくさはなすため、そこから晴明せいめい移動いどうしようとしたときだった。



  シュ、シュシュ シュル・・・



 ゆいわきすすむ、幾本いくほんもの蔓草つるくさづく。

「これって・・・」

「どうやら一度手いちどてれた獲物えものは、手放てばなしたくないとみえる」

 いまだ少女しょうじょ居竦いすくまったままで、蔓草つるくさらわれるのも時間じかん問題もんだいだった。

たすけてやって!」

なんじゃと!?」

「おねがい、たすけてげて!」

「なっ、馬鹿ばかことうでない!」

 自分じふんことよりも、ってもない少女しょうじょあんじ、さきたすけることを優先ゆうせんさせたのだ。身体的しんたいてき事情じじょうもあってか、晴明せいめい判断はんだんにあぐねる。

「くう、こんなからだでなければ・・・」



  ・・・セイメイ、セイメイ



 不意ふい晴明せいめいあたまに、直接ちょくせつけるこえがあった。

だれか、わしをぶのは?」

ゆいことまかセロ、オまえハ、モウ一人ひとりむすめたすケニケ。としッテモ、ソレクライ出来できルダロウ」

「ぐぬぬぬ・・・小馬鹿こばかにしおって」

 とおむかしに、ことあるたびにからかわれたり、わるふざけなどされ、いつもの口癖くちぐせた。けれども、いまので確信かくしんした晴明せいめい

「そのくちわるさ、おぬしか!?」

「イイカラいそゲ」

 きかきらいかはべつとして、しんじるにあたいするもの間違まちがいなかった。

「むう・・・ここはまかせるしかあるまい」

 もう一人ひとり少女しょうじょたすけに、晴明せいめいうごく。くつからはなすと、蔓草つるくさ横目よこめけ。



  ・・・タタタタッ



 蔓草つるくさがり、またける。



  タンッ、タ、タタタタッ・・・



 すでに蔓草つるくさ少女しょうじょきつき、ゆいおなじくゴミやまきずりもうとしている。

「・・・急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう



  パバッ、パババッ・・・



 けながら手印しゅいんむすび、かがめると足元あしもと蔓草つるくさりょうしあてた。



  パンッ



 ちから集中しゅうちゅうさせ、ぶつぶつと呪文じゅもんとなえる晴明せいめい

「・・・・・・はっ!」



  シュボボボボッ・・・



 たちまちにしあてたところとな蔓草つるくさみ、導火線どうかせんのようにはいとなってゆく。

 これで少女しょうじょらえていた蔓草つるくさえ、自由じゆうとなった。それでも、まだほうけているのか、少女しょうじょうご気配けはいがない。

「ん?やれやれ・・・」

 その姿すがたに、間近まぢかまであゆると、少女しょうじょ眼前がんぜんまでがる。



  フウ・・・



「てえいっ!」



  ベチンッ



 ひたいたたき、かつれた。ようやくわれかえ少女しょうじょ

「!・・・」

 ちいさき晴明せいめいにすると、おどろ後退あとずさる。


 

  ズサ・・・



いますぐ、ここからげるがよい」

 うなが晴明せいめいに、ゆいこと心配しんぱいしてか、少女しょうじょこえす。

「でも、あのが・・・」

「おまえさんがても、どうにもならんよ。ぎゃく足手纏あしでまといじゃ」

 け、晴明せいめいいそす。少女しょうじょは、こぶしにぎめた。



  グ、ギュ・・・



 自分じぶんだけがげることにうしろめたさはあったが、こわくてなに出来できないことはわかっていた。われたことしたがうしかなく、階段かいだんかって、少女しょうじょはしった。



  タッタッタッタッ・・・



「よかった・・・」

 無事ぶじ階段かいだんかう少女しょうじょおもうも、ただきずられてゆくばかりのゆい



  ザザ、ズザザ・・・



 おもいのほか冷静れいせいでいたが、あること一変いっぺんする。



  チラッ・・・!



「んん?」

 ゴミやまちかづくにつれ、ひとふたつとほね一部いちぶが、ゆい視界しかいはいってくるのだった。

ほね?・・・ほねえええっ!?」

 それは小動物しょうどうぶつなどのほねで、ゴミやまはすべてほねであったのだ。どうにかして、この状況じょうきょうからそうともがくゆい



  ドタッ、バタバタッ



 が、どうにもならない。

晴明せいめいっ、なんとかしてえええっ!」

なんとかするから、すこて!」

 なぐさうも、そのちいさなからたでは、すぐにたすけにけるはずもなく懸命けんめいはし晴明せいめい



  ・・・タタタッ



「くっ、なにをしておるのだ・・・」

 一向いっこうに、ゆいたすける気配けはいられず、晴明せいめい腹立はらだたしくなる。

 そのときだった。



  ズパアッ!



 何者なにものか、ゆいきずる蔓草つるくさいた。



  シュタ ニャオッ!



 ねこだった。

「ヒヤヤッコ!?」

ねこじゃと!?」

 ゆい晴明せいめいも、まるくする。だが、それにいかりをおぼえたもの存在そんざいした。一度いちどならず二度にど三度さんどと、補食ほしょく邪魔じゃまされたのだ。つぎ確実かくじつ補食ほしょくするため、蔓草つるくさするため、蔓草つるくさ邪魔者じゃまものおそかった。



  ビュンッ

  ババッ ビシッ!


  ビュンッ ビュンッ

  バッ、ババッ ビシビシッ!



 素早すばやうごきで翻弄ほんろうするも、蔓草つるくさかずすにつれ、ねこ太刀たちまわる。ついには蔓草つるくさ強烈きょうれつ一撃いちげきらい、はじばされてしまう。



  バチンッ



 そこへ運悪うんわるく、けて晴明せいめい



  ヒューーーン



なんですとおおお!?」  



  ドッスーン



「お、おもい・・・」

 突然とつぜんこと面食めんくらって、んでねこけれず。晴明せいめいは、ねこ下敷したじきとなった。

「そんな・・・」

 このじょうじ、獲物えものほっして蔓草つるくさうごく。



  シュル シュルシュルン

  グ、ググ ギュウ・・・



 一瞬いっしゅんにして、ゆいくび手足てあしきつき、からだ自由じゆううばった。かろうじてうごかせる左手ひだりてを、めつけるくび蔓草つるくさに、ゆびませ抵抗ていこうするも時間じかん問題もんだいであった。



  グ、クイ・・・



「けふっ、いきが・・・」

「ふぬぬぬうー!」



  ジタバタ・・・



 いま最大さいだい危機ききだとわかっているのか、ねこゆかあいだあせ晴明せいめいに、またもこえがする。

「・・・セイメイ セイメイ」

なにをしておるのだ!?」

「ワカッテイル」

「どこにる?ちかくに気配けはいかんじるが・・・」

 くちにしてづく、飴玉あめだまぐらいの水晶玉すいしょうだまころがっていることに、晴明せいめいにはさっしがついた。

なん無様ぶざま・・・ほほ、ふほほっ」

 四神しじんである白虎びゃっこが、ただのたま姿すがたに、晴明せいめいあざける。そのたまは、ねこ晴明せいめい衝突しょうとつしたおり、ねこくちからされたものだった。

「フザケテル場合ばあいカ」

「わかっておる、しかし、どうする?わしら・・・こんな状態じょうたいではなに出来できん」



  ・・・・・・



すべハアル・・・」

「まことかっ!?」

われヲ、たまバシテ、ゆい二受ラセルコト出来できルカ?」

なにをするつもりか?」

出来できルカトイテイル」

出来できなくはないが・・・まさかゆいを!?いかんぞ!」

「ナラ、コノママナセルツモリカ」

「それは・・・」

「セイメイ!」

 ほか手立てだてがなく、一刻いっこく

猶予ゆうよもないことに晴明せいめい決断けつだんする。

「・・・よかろう」

 どうにかはさまった状態じょうたいからすと、ゆいかってさけ晴明せいめい

ゆいっ、こえるか!?だ、せ、をだっ!」

 くるしさのあまり、ゆい意識いしき朦朧もうろうとする。その最中さなか、かすかにこえるこえ反応はんのうして、まるでくうつかむがごとく、ゆいばす。

「・・・」



  スウ・・・



「よし、けえええええっ!」



  ドオンッ



 気合きあいとともにさけぶと、れずしてはじたま



  ギューーーン



 それは一直線いっちょくせんかって、ゆいに。



  パシッ



いまスグ、たまムノダ」

 白虎びゃっこは、命令めいれいする。

「(え・・・こえたま?)」

 あたまながれくるこえと、にあるたま混乱こんらんするゆいに、かさねて命令めいれいする白虎びゃっこ

たまメ!」

 なぜかわれるままに、ゆいたまくちれた。



  コクンッ



 蔓草つるくさくびめつけるも、たまはするりとのどとおり、つぎ瞬間しゅんかん



  カアアアッ!



 ゆい全身ぜんしんから、まばゆひかりはなたれる。やがてひかりがおさまり、悠然ゆうぜんゆい足元あしもとにはかれた蔓草つるくさが、には一振ひとふりの太刀たちにぎられていた。



 そのころ晴明せいめいたすけられた少女しょうじょは、ひたすらはしる。



  タッタッタッタッ・・・



 そうしていきつづかぎはしり、辿たどいたさき川辺かわべだった。

「はあっはあっはあっはあっ・・・」

 両膝りょうひざをつき、かたおおきくいきをしていると自然しぜんとこぼれるなみだ



  ツー・・・



「(なぜ?)」

 少女しょうじょは、自身じしんう。



 そしていまゆいゆいであって、ゆいではなかった。姿すがた身体的しんたいてき変化へんかがあるわけでなく、雰囲気ふんいきからだうちからあつは、まった本人ほんにんことなっていたのである。

白虎びゃっこよ、承知しょうちしているであろうが・・・」

 ちかくにまでていた、晴明せいめい忠告ちゅうこくする。

「わかっている、借物かりものからだ無理むりはしない」

 晴明せいめいは、懸念けねんしていた。所詮しょせんひと四神しじんとでは、いのちようちがう。しかしいまは、白虎びゃっこたよほかなかった。だがゴミやま存在そんざいするものは、まだ獲物えものあきらめてはいない。



  ボッ、ボンッボンッ



 ゴミやまから、鋭利えいりほねす。くわえてほねには、はりいとがつくように蔓草つるくさきついていた。ゆい目掛めがけ、のようにんでゆくほね



  ヒュンッ ヒュ、ヒュンッ



おそい!」

 太刀たちを、ゆかゆい



  ドスッ


  ガンッ ガシッ バキッ



 んでほねりょうの手《て

》でつかり、一本いっぽんみつけた。それをて、晴明せいめいおもう。

器用きようというか、強引ごういんやつじゃ」

 攻撃こうげきさえんだかにえた、つぎ瞬間しゅんかん



  スス、スルスル・・・

  ギュギュウ



 ほねきついていた蔓草つるくさが、瞬時しゅんじにして、ゆいからる。ほねでの攻撃こうげき陽動ようどうだったのか、からだうごきをふうじられてしまう。

無事ぶじか、白虎びゃっこ!?」

 蔓草つるくさつよげるも、まったどうじる様子ようすられないゆい

「そんなもの・・・」



  ブチブチッ ブチィッ



 ちからずくで、蔓草つるくさきちぎった。

「・・・無茶むちゃしおって」

 白虎びゃっこたたかいに不安ふあんつも、べつこと違和感いわかんがあった晴明せいめい

可笑おかしい・・・」



  ドクン ドクンッ・・・



 すこまえから、つよ妖気ようき鼓動こどうをゴミやまからかんじていたのである。

なにこる?いや、なにかするつもりなのか・・・」

 すでに蔓草つるくさゆかつらぬき、建物たてものそとへとびて、大量たいりょう養分ようぶん吸収きゅうしゅうしていたのだ。



  グキュン グキュン・・・



 その影響えいきょうか、廃工場はいこうじょう周囲しゅうい草木くさきれ、つち腐食ふしょくする。



  フシュウウウ・・・



 つよまる妖気ようきゆいも、それにはづいて、晴明せいめいあたりを警戒けいかいをしはじめた矢先やさき



  !



うえじゃっ!」



  ザッバアアアアアッ



 晴明せいめいづくも、天井てんじょうから蔓草つるくさたば雪崩なだれってせる。それを瞬時しゅんじ反応はんのうして、後方こうほうねるゆい



  シュタ、シュタンッ



 蔓草つるくさ



  ズザザア



 さらになみのようにおおきくうねり、ゆいおおかぶさろうとしてる。ところがぎゃくに、んでゆい



  スタタタッ



「こんなものっ!」

 両手りょうて太刀たちち、頭上ずじょうたかかまろす。



  ズガガガア!


 その一太刀ひとたちは、太刀風たちかぜこし、蔓草つるくさたばいた。そこからたばこうがわへと、ゆいける。



  タタタッ



 たちまち蔓草つるくされた箇所かしょじて、また蔓草つるくさをうねらせ、ゆいげたかとおもいきや──



  クルン



 ──かる宙返ちゅうがえりをすると、うねる蔓草つるくさだいがる。



  ダンッ ズバババババッ



 天井てんじょうつたってびる蔓草つるくさを、一瞬いっしゅんれにきざむ。



  ズズ・・・



 だが、瞬時しゅんじ蔓草つるくさ再生さいせいする。

「なっ・・・」



  ・・・ズモオオオ



 それもおどろもなく、ちゅうなかゆいを──



  バサア



 ──らえる蔓草つるくさ

大丈夫だいじょうぶか、白虎びゃっこよ!?」

 蔓草つるくさにがんじがらめにされ、宙吊ちゅうづりになるゆい

「・・・うごかない」

 その一言ひとことに、かえ晴明せいめい

「んん?いまなんった?」

からだうごかない」

なんじゃとおおおっ!さっきみたいにちぎって、どうにか出来できんのか!?」

無理むりだ・・・」

「かーっ、なんあきらめのはやい!」

 まごまごしていると、ふとゴミやま異常いじょう晴明せいめいづく。



  フシューー



「ぬう・・・禍々まがまがしい」

 ゴミやまから、瘴気しょうきがっていたのだ。



  ギュル、ギュル ギュルン・・・



 そのかんにも、蔓草つるくさ幾重いくえにもきつき、それは球体きゅうたいへと変貌へんぼうする。そうしてついには完全かんぜんに、ゆいつつんでしまう。

無事ぶじか、白虎びゃっこ!」



  ・・・・・・



 けるも、返事へんじはない。

「まさか、んで、白虎びゃっこちから吸収きゅうしゅうするつもりか!?」

 そのときであった。



  バッ



なんじゃっ!」



  タタタッ、タアンッ



 さっそうとあらわれ、そのものは、球体きゅうたいたかさまでがり。



  シュパンッ!



 天井てんじょうからびて、球体きゅうたいるす蔓草つるくさ真一文字まいちもんじった。球体きゅうたい落下らっかしてゆかに、った当人とうにんかろやかに──



  ドスンッ

  トンッ



 ──着地ちゃくちする。

「どうやらったようね」

 そのもの青竜刀せいりゅうとうつ。

「おまえさんはっ!?」

 晴明せいめいおどろく。そのものは、さっきたすがした少女しょうじょだった。

青龍せいりゅう・・・か、おぬし?」

 半信半疑はんしんはんぎであるが、そうくちした。



  チャキ・・・



「な、なにをする?」

 少女しょうじょは、やいばきつける。晴明せいめいひたいに、あせがにじむ。

「ふふ、冗談じょうだんよ、もるはなしあと

 また、この少女しょうじょも、うちなるはべつだった。晴明せいめいは、とおむかし記憶きおく辿たどる。かつて青龍せいりゅう巫女みこ武具ぶぐもちいて、たたかうのをおぼえていたのだった。



  ゴン ゴン



 武具ぶぐで、球体きゅうたい小突こづ青龍せいりゅう

「もしもーし?」



  ・・・・・・



 まった反応はんのうがないとわかると、青龍せいりゅう即断そくだんする。

るしかないわね」

大丈夫だいじょうぶなのか?」

「でも、そのほうはやいでしょ」

「そうであるが・・・」



  クルン パシッ



 かまえると、青龍せいりゅうる。



  スパッ、スパパパッ・・・



 あっというに、みの虫状むしじょうそろえると一言ひとこと

「こんなもんかしら」



  ズボッ



 突如とつじょ、みの虫状むしじょう蔓草つるくさから、た。



  ズボッ



 また、る。



  ブチッ、ブチブチッ・・・



 そのは、蔓草つるくさがすようにてた。



  ・・・ドサ



「ふうっ・・・」

 不機嫌ふきげんそうに、ゆい一呼吸ひとこきゅうつく。

「あら、ご機嫌斜きげんななめね、たすけてげたのに」

何言なにいってる、すこまえから傍観ぼうかんしていただろうに」

「そうだったかしら」

 とぼけてみせる青龍せいりゅう姿すがたに、先程さきほどまで、窮地きゅうちたされていたことが、うそのようにおもわれた。しかし、晴明せいめいは、いや予感よかんがしてならない。



  シューーッ

  シュボボーーッ



 突如とつじょとして、ゴミやまからがるおびただしいりょう瘴気しょうき

「まだわっとらんぞ!」

 瘴気しょうきはゴミやまむと、回転かいてんをしはじうずげる。



  フゴゴゴオオオオオ



 瘴気しょうきうずは、ほねをすべてむと、加速度かそくどし、電流でんりゅうはじめた。



  ビシッ バチ バチンッ・・・



 うずなかで、ちからちて凝縮ぎょうしゅくされると、うず回転かいてんまる。



  ガアオオオオオ!


  ボシュンッ



 咆哮ほうこうとともに、瘴気しょうきぶとあらわれたのはほね化物ばけもの

「ようやくおましか」

 待っ《ま》ていたかのような口振くちぶりで、ゆい青龍せいりゅう横目よこめる。

「わかってます、すなってことでしょ」

 ゆい一人ひとりたたかうつもりなのか、そのこといきどお晴明せいめい

何考なにかんがえておる、そなたらのからだ借物かりものぞ!二人ふたりしてたたかえば、無駄むだながこともなかろう!」

「どうする?」

「・・・わかった、なら一気いっき仕留しとめる」

了解りょうかい

 うも、即断即決そくだんそっけつ二人ふたり。すぐさま行動こうどううつゆい



  スタタタッ



 素早すばやうごききで、ほね化物ばけものとの間合まあいをめ、瞬時しゅんじ太刀たち具現化ぐげんか



  ザサア



 づいたときには、太刀たちはらつらぬかれていたほね化物ばけもの



  ウガアアア!



 とっさになぐかろうとうでり上げた。



  ブンッ



 くうる。 

  ドサ  



残念ざんねん

 寸前すんぜんげたうでっていた青龍せいりゅうゆい太刀たちはらつらぬくと同時どうじに、ほね化物ばけもの頭上ずじょう半回転はんかいてんするようにえ、うでっていたのだ。



  ブワッ



 なおものこりのうでするどつめを、ゆいてようとする。



  ズパッ



「また残念ざんねん

 られたうでちゅうう。



  クル クルンッ ドサ



 ちたうでを、青龍せいりゅうあしさえつけ──



  バキンッ



 ──くだく。見計みはからったように、全身ぜんしんちから太刀たちめるゆい

「でえあああっ!」



  ズバアアアッ



 ばねのようにね、ほね化物ばけものはらから肩口かたぐちにかけく。



  グギャアアア!



 断末魔だんまつまげ、ほね化物ばけものからたおれる。



  ドスウンッ


  クル



 ゆいけた、そのつぎ瞬間しゅんかん



  カッ ガパッ 



 ほね化物ばけものひかり、くちおおきくひらくとあたまぶ。



  ドボオーンッ



 あたま胴体どうたい蔓草つるくさつながっており、まだ獲物えものほっすることあきらめていなかったのだ。

「しつこいぞ!」

 ざまに、ゆいが──



  バッ



 ──おうじて青龍せいりゅうも。

往生際おうじょうぎわわるいわよ」



  ザサッ



 同時どうじに、さきあたます。



  ドスッ!!



 これでたおしたのか、ほね化物ばけものはいとなってえる。



  ササア・・・



 そこへ晴明せいめいが、けてた。



  トタタタッ



「ふう・・・さっきはもう駄目だめかと、やしたぞ」

「ふふ、ふふふっ、いたわね晴明せいめい。そのうえ・・・ちいさいなんて」

 おもかえ青龍せいりゅうさきたたかいで、巨大きょだいもんとおわかれるまで、わかかった晴明せいめい。あれから数十年すうじゅうねんて、再会さいかいたす晴明せいめいであるが、青龍せいりゅうにとっては、このあいだことであるのだ。

仕方無しかたなかろう、調しらべ・・・準備じゅんびして、こっちの世界せかいるまで、随分ずいぶんかかったからな」

 なごやかにえる、この光景こうけいうたがいのめでていたものた。すると突如とつじょ青龍せいりゅう太刀たちきつける。



  チャキッ



なんのつもり?」

「どうしたというのだ、白虎びゃっこ!?」

 その不可解ふかかい行動こうどうに、晴明せいめいうた。が、かまわずに、ゆいはなつ。

わすれたか、あのときことを!?」

 いたって冷静れいせいに、青龍せいりゅうう。

「もしかして、づいてなかったの?」

なんことだ!?」

「あの、あのとき、あの場所ばしょ仕組しくまれていたってことよ」

うそだ!」

「だっておかしいでしょ、もんとおって、さきおそわれるなんて・・・。どうせあなたのことだから、わたしおそわれたとでもうのかしら」

ちがうとでもうのか!?」

「・・・やはりね、でも、わたしおそってなんかいないわよ。それにわざわざらない世界せかいてまで、白虎びゃっこ・・・あなたをおそ理由りゆうってなに?」

「それをいている!?」

っておくけど、わたしも、朱雀すざくおそわれて、それどころじゃなかったのよね」

「それをしんじろとでも」

ってるでしょ、もんとき私達わたしたちというか・・・巫女みこ四人よにんしかなかった。もしかして・・・裏切うらぎったのは麒麟様きりんさまだったりしてね」

だまれっ!」



  ガキィッ



 寸前すんぜんで、剣先けんさき青龍せいりゅう武具ぶぐはばまれた。冗談じょうだんのつもりが、麒麟きりん裏切うらぎ者呼ものよばわりしたことに、ゆい本気ほんきりにいった。

馬鹿ばか真似まねはよさんかっ!」

 あつくなっているゆいに、晴明せいめい制止せいしわけはなく、このままろうとする。



  ギ、ギギ ギシ・・・



 両手りょうて武具ぶぐち、太刀たちめてはいるものの、徐々じょじょされる青龍せいりゅう

「この・・・力馬鹿ちからばか!」



  ガッ、バアッ



 太刀たちよこはらけ、半身はんしんひねるとあしす。



  グワッ



 するとまったわせたかのように、からだまわあしゆい



  グオッ


  ドガアッ!!



 足裏あしうらがぶつかりった反動はんどうで、二人ふたりはじころぶ。



  ズザザ



 ゆいが──



  ドザザ


 ──と、青龍せいりゅう。 



 すぐさまゆいは、態勢たいせいなおそうと半身はんしんこす。



  ガバッ



 おうじて青龍せいりゅうおなじく半身はんしんこすと、一瞬いっしゅん二人ふたり。それが合図あいずだったかのように、突進とっしんするゆい



  ダダッ



 一歩遅いっぽおくれて、青龍せいりゅう突進とっしんする。



  ダッ



  ガギッ、キィン



めんかっ、二人ふたりとも!」



  ガガッ、ギィン


  ガキッ、ガキィンッ



 晴明せいめいさけびは、かわいた金属音きんぞくおんされ、剣撃けんげきおとだけがひびわたる。不意ふいに、ゆいまった。

「ふーーっ、ふーーっ・・・」

「もうわり?」

「うるさい!」

 いきととのえるも、あせほおつたう。



  ツー・・・



 じ、集中しゅうちゅうするゆい



  ・・・ポト



 見開みひらくと、あしした、つぎ瞬間しゅんかん



  ガクンッ



 ひざからくずれ、ゆいゆかく。

「やはりな・・・四神しじんちからからだがついていかんか」

 そうかんじた晴明せいめいは、二人ふたりかってう。

「もう、そのぐらいにしたらどうじゃ」

 四神しじん二人ふたりも、薄々うすうすはわかっていた。いまのこのからだで、活動かつどう出来でき限界げんかいがきていることを。

「これ以上いじょうは・・・無理むりのようだ」

「ふう、そうね」

 それだけうと、にしていた武具ぶぐ本人ほんにんわる四神しじん二人ふたりだった。

「ん、あれ?」

「あ・・・」

 急激きゅうげき体力たいりょく消耗しょうもうしたことで、ともにへたばりむ。



  ベタンッ

  ベタッ



「ありがと、たすけてくれて・・・」

わたしこそ、たすけてもらったのにげたりして・・・ごめんなさい」

 四神しじんわっても、こときはわかっていたのか、二人ふたりしてれいった。

「やれやれ、勝手かってことばかりいおって・・・」

 つかれた様子ようすで、晴明せいめいがぼやいていているところへ、背後はいごからせまかげ



  ダダダーッ ドン!



「ふんげえっ!」



  ゴロゴロ、ゴロン・・・



 ころげる晴明せいめいをよそに、ねここえよろこゆい

「ヒヤヤッコ!」



  ナデナデ・・・



無事ぶじだったんだっ!」



  ニャー



 ヒヤヤッコを安心あんしんしたのか、ゆいおもことがあった。

わすれてた!」

「どうしたのです?」

「おたがい・・・まだ名前なまえらないよね」

われればそうでした」

 にこやかに微笑ほほえむと、ともがり、二人ふたり名乗なのる。

わたし神薙かんなぎ ゆい

わたし天道てんどう あおいです」

 この一連いちれん出来事できごとを、併設へいせつされた建物たてもの屋上おくじょうからながめていたものた。

「こっちにていたんだ」

 くろながかみ少女しょうじょは、晴明せいめい四神しじんっているふうにみえる。



  パク



 一口ひとくちサイズのリンゴあめ頬張ほおば

と、少女しょうじょ屋上おくじょうあとにする。ゆいあおい廃工場はいこうじょうころには、すでにれかけていた。そのためはなしもそこそこにして、後日ごじつ、また約束やくそくをして家路いえじ二人ふたりだった。















 



   



  






 















 









  




 



 


 



 









 



   














  



  








 






 
















 













  














 





 

























  





 

 






 






 














  

 


  



 

 



  



 



  




 



  



 



  




 



  



 




 







 






  



 



 






 




 



  





 



  






  




 







  





 

 


 

 

 


 



 




  



 




  






  



 

 




 




  




 



 



 



  




 



  



 




  









 




 


















 



  










 


 

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