子どもたちの願い事

吉田文平

第1話


 

よつの巷を渡るうそ寒い風に乗って、厭世(えんせい)やら嘆息交じりの不平が、こう無性に耳に流れて来る。


「こんな道理に合わねえ話が大手を振って歩いちまったら、こりゃあもう、世も末ってもんよ」


しかし、どうしてまた、このような伝法口調の不平が、巷で、やたら鳴るのであろうか。それは、近ごろ、無分別とか不公正とか差別とか貧困とかといった理不尽な話題が、よっぽど満ちていたからである。


契機の第一は、ことごとく世界の権力者が、倫理的規範を蔑(ないがし)ろにし、もっぱら己の私利私欲に現(うつつ)を抜かしているからにほかならない。


須(すべか)らく範を示すべき為政者が、このような体たらくであったなら、下に従う者が、その顰(ひそみ)に倣(なら)うのは、むしろ自然の数であろう。


すると、悪貨は良貨を駆逐(くちく)する、--そのような理の如く、この地球(ほし)の健全さも忽ち悪風に染まり、巷には、倫理観の欠如した心の荒んだ輩(やから)が、あまた蔓延(はびこ)るようになる。


これが今、世界のいたるところで、人情にもとる理不尽な出来事を散見する、その導火線となっていた。

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