第2話 : 秋葉温梨湯にて ( 2 )




 彼の両親は小学校低学年で離婚。 その後、母親が別の男を家に連れ込んだ挙げ句に、アワれ、厄介者ヤッカイモノのユウスケは、育児放棄の身の上と成り果てる。


 見かねた親戚に引き取られた彼だが、家族の財布の中から、お金を盗むなど手癖テグセの悪さや、学校生活でのトラブルなどに手を焼き、親類内で、散々に、たらい回しにされたノチ、公共の児童養護施設へと送り込まれた。


 当のユウスケは、中学2年生の時に施設を脱走、その後、秋葉街へと流れ着き、地元の半グレ連中の仲間入りと成る。


 腕っぷしこそ強くは無かったが、そのタクみな口先と、の早さで頭角を現すと、3年後にはリーダー格へと上り詰め、地元に縄張りを持つ反社会的組織、秋葉銀星会をバックに据え、その影響力を広げて行った。


 当初は、パーティー券などを配下の仲間に強制的にサバく様、指示などして金を集めていたが、趣味で始めたLIVEハウスでの音楽活動が運良く当たると、秋葉銀星会系列の芸能事務所を通し、念願のメジャーデビューと成る。


 彼に取っては、初めて陽の当たる場所での生活であり、この成功を誇りに思えると同時に、過去の経歴も消し去りたかった。


 元々、自分のバンドのファンであった吉永とは、バラエティー番組の共演で知り合い、そのまま恋人同士の関係を結ぶ。


 さぁ!!メジャーデビューと言う矢先に、リコからの妊娠告白。最近の芸能界では、結婚を視野に入れていない未成年に対する不適切な行為に対し、倫理的に厳しい責任を問う風潮である。


 ここまで来て全てを失いかねない …。 当然、リコに堕胎ダタイ手術を受ける様に言いつけるが、そこは、として聞き入れなかった。


 こんな事は、今まで一度も無い。何を言ってもキチンと従っていたリコが、初めて逆らったのだ。 一瞬、狂気とも取れるアラガい様にも思えた。


 ただ、タイミングが悪いだけだ。子供なんて、今後いつでもつくればいいじゃないか!? なぜだ!!今俺が掴んだ大事なチャンスを、が奪ってしまう!!


 また俺を、日陰を渡る生活に戻すつもりなのか!!


 なぜだ!! なぜだ!! 今まで上手く行っていたじゃないか!!ここで全てを失って、また始めからやり直し…。


 イヤだ!!イヤだ!! 絶対に断る!!女と子供は、今後幾らでも代わりは見つかるが、このビッグチャンスは、二度と掴めやしない…。


 リコ… お前も、結局、俺の母親となんだなぁ…。 俺よりも大事なもんが出来ちまったようだ …。


 俺から大事なを奪ってでも、守りたいもんがあんだなぁ…。


 もはや、失う物はチャンスじゃ無い … 失うのは女と子供で充分だ!!


 それも、徹底的に、抹消しなければ、結局、が嗅ぎつける …。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る