第2話 : 秋葉児童養護学園 ( 2 )




「いえ区長、御言葉ですが、我が学園では、日頃の学習の成果を、この様な実践の場で確認する事が教育方針の一環に成っており、如何イカなる状況でも完璧に出来る事が、″″と呼ばれる所以ユエンなのです」


「まぁまぁ日向﨑君 … 相手はまだ子供だよ… そんな …」


 区長が言い終わらない内に、彼は間髪カンパツ入れず持論をウッタえる。


「 彼らの里親が決まるまで、そう長くはありません。その短い間に、学校の基礎教科のオール 。お習字、煎茶センチャ、ソロバン、パソコン検定、英検の習得。 男女共にバレエの演習。当然、音楽の素養もこれ全て、学園側の支出経費でマカナっております。

 厳しい管理の元、今後の彼ら個々の社会生活の中で、ツラく恥ずかしい思いをさせ無い為の親心でしかありません。 どうか御理解頂けます様、切に、お願い申し上げます」


 彼の熱弁を前に、同席者は皆、黙ってしまった。


「サユリさん。 本日の列席者の皆さんを学園生徒全員で、お見送りした後、あなたは、園長室に来るように。」


 それを聞いた彼女は一瞬と躰を揺らし、何やら本人も心当たりが有るのだろう、静かに応接室を後にした。


 場が白けてしまったのを察した彼は、先程から胸に抱えた風呂敷から厚みがしっかりとした茶封筒を、6つ取り出し″ 御車代オクルマダイ ″にと一人 々々ヒトリ、列席者へ丁寧テイネイに手渡しして行くのだが、気のせいか、若干ジヤッカン、区長の封筒だけが、他より厚みが有る様に思われる。


「いつも、気を遣わせるねぇ … 日向﨑君 … 」


 と恐縮する言葉とは裏腹に、躊躇なく懐に入れる。


「いえいえ。 何をおっしゃいますか区長…。今回の授与の話を聞き付けたマスコミ連中から、講演、出版、テレビ出演の依頼など、多数申し出があり、今後はとしての地位を確立して参る所存です。御指導、御鞭撻ゴベンタツの程、何とぞ宜しく、お願い申し上げます」


 加えて、サユリへの各分野に於ける交渉窓口は、全て学園を通す事を、マスコミ側に伝えてある。 彼女の不幸な生い立ちから、現在の目覚ましい活躍までをシンデレラストリーに仕立て、大半の感傷的で愚かな大衆には打って付けの娯楽ゴラクに成れば良い。


 彼女をエサに学園の協賛基金を集める事も忘れない。その輝かしい才能を育てた指導者として、私も大いに持てはやされるはずだ。



「 それは結構!結構! 知名度が上がれば、与党の推薦スイセンを頂いて、この選挙区から区議会議員として立候補してはどうだい? 君なら将来、有望だぞう!!」


 区長は、茶封筒の厚みに気を良くしたのか、も多分に忘れなかった。


 当然、ハナからそのつもりだ!!この古狸フルダヌキ野郎!!!!

 ようし見てろよ!区議会の次は、衆議院!その次は大臣だ!! 今まで、俺を馬鹿にして来た連中を、根刮ネコソツブしてやる!!首を洗って待ってろっ!!


 彼は、列席者が乗った黒塗りの高級車に、生徒達と見送りの手を、大きく振りながら野心を腹に仕舞う一方、その目は冷たく大いにワラうのだった。


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