第2話 : 姉妹 ( 9 )
会場は千代田区長、及び数人の区議会議員が列席する中、
そして最後に参列者に対し学園側からの感謝の御礼として、サユリが先日入賞した、ショパンの『木枯らしのエチュード』他、彼の代表作二題を演奏した。
彼女が、白鍵からそっと、たおやかに指を離すと、
参列者全員の
しかし、拍手の渦の中に、たった独り浮かぬ表情のサユリを、リコは
しばらくしてリコは思い出した様に、学園案内と協賛基金の振込用紙が入った、A4型の封筒を事務室に受け取りに行く。
それは、式典の中で日向﨑先生から、お話しがあった、学園への協賛基金に自分も少額だが協力させて頂き、お役に立ちたいと言う思いからなのだ。
また、これから恋人の彼に会う前に確認の電話をかけようと、バックの中のスマホを探り始めるが、ああ…いけない!!急いで出掛けて来た為に、リビングの机の上に忘れて来てしまった。
仕事で常に忙しい彼だが、今夜は三週間ぶりの、ご無沙汰である。 毎日のLINE連絡は欠かした事は無いが、大切な彼に一刻も早く直接に会って妊娠の報告を伝えたい。
彼女は歩きながら、ふと駅前中央通りのショーウィンドーに映り込んだ、姉ソックリの自分を見つけ、こう思う。
「 今夜、彼に報告すると、二週間後には姉の誕生日がやって来るわ。
勿論、自分の誕生日でもあるのだけれど …。
そこで、先月から姉に準備している誕生日プレゼントと 一緒に、サプライズ報告と言うのはどうかしら?
あまりの突然の事で、 びっくりするだろうなぁ …
うぅぅん … どうだろう … 怒るかなぁ …
お姉ちゃん、この歳でオバさんになるんだもんなぁ …
いや、そう言う問題じゃないかしら …
でも大丈夫 。 必ず喜んでもらえる。
だって大好きな、お姉ちゃんだし、双子だし、何でも通じ合ってるんだもの。
私だけに は分かるの …」
と、もう一度硝子の中に映る姉を見返す。
JR秋葉駅に急ぎ足で向かうリコの歩幅に合わせ、後を着けて来る人物がある。彼女も突然、振り返るなどして警戒の態度を見せるが、その度にスイと物陰に隠れてしまう。
今回が初めてでは無い …。 特に最近は、バイト終わりで遅くなると、決まって不審人物の影が付きまとう。
バイト先のストーカー客とも考えられるが …。
また、下着の盗難も頻繁に起こる様にもなった。
ある時、そんなリコを隣り家の、同じくベランダでタバコを吹かしていた医学部受験三浪中の息子に見られてしまう。まるで目の中の
勿論、自分も悪いのだが、その後、外で彼に偶然出くわした折などは、何やら腰の辺りから胸まで、品定めでもするかの様な目つきで、ジッと見つめて来る。 下着の盗難に関しては、ご近所さんだけに、よっぽどな証拠でも無い限り下手な事は言えない。
いずれにせよ、お姉ちゃんが言う通り、近頃は物騒だ。今夜は早く帰宅するに越した事は無い。
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