第2話 : 姉妹 ( 5 )




 父は心配して、その後、二週間程、日本滞在を延長したが、仕事の案件の為、後ろ髪を引かれる思いで、海外勤務先に戻って行った。


 母の亡くなった経緯については、私自身、実は小学校入学当初から知っていたのだ。 それと言うのも、たまたま、妹が伯父夫婦と出掛けている時に、私が兼ねてから仕事で忙しい父に、母についてジックリと聞いてみたい事が山ほどあり、亡くなった死の要因も、その一つであった。


 父は、そろそろ話しても良い歳であろうと、判断したものの、妹だけには聞かせてはならないと言う条件で、その重い口を開いた。 事の真相に私の幼い心は、どの様に受け止めて良いのか激しく混乱してしまった事を、今でも鮮明に覚えている。


 しかし、直ぐさま、妹の事が母の生まれ変わりの様な心持ちと成り、その日からであったろう、友達の様な姉妹の関係から、姉としての自覚が芽生え、何が今後起ころうとも、絶対に妹は私が守るのだと″ 使 ″とも解される決意をした。


 自分の事は常に後回しとし、朝の三つ編みの身支度、通学時の登校下校の同伴、宿題、時間割、体操着の確認、入浴時の下着の用意、就寝時の絵本の読み聞かせ等々…


 幼い私が考えうる、もし母が生きていたら妹にしてくれただろう事柄を、出来る限り努めてきたつもりだ。


 そんな私を煙たくあしらう時期もあったが、往々オウオウにして甘え上手で、何かと頼りにして来る妹が可愛かった。


 だが、あの法要時の出来事があった以降、自分を責めては、罪悪感と、喪失感ソウシツカンが複雑に入り混じった行き場の無い感情を私や父に当て付ける様に成る。


 それでも満たされない寂しさは、夜の秋葉街で素行の良ろしく無い連中と刹那的セツナテキな遊びに興じる事で、ほんの一時でも忘却ボウキャクネンへと押しやる事が、彼女の現在の救いと成っていた。


 その度ごとに、警察側からの連絡で妹を迎えに行く事と成るのだが、保護者と名乗る人物が、当の本人ソックリの女の子がやって来て慇懃インギンに頭を深々と下げる姿を見れば、相手は毒気を抜かれて大抵は素直に保釈してくれる。


 妙に大人染みた姉を演じているフシがある私だが、母を亡くした寂しさは、妹同様に痛いほど感じている。 しかし、それを見せてしまっては、可愛い妹が動揺してしまう。


 私の中の満たされない葛藤カットウを妹の素行の中に投射し、それを昇華ショウカする事で、己自身の今にも崩れてしまいそうな心の均衡キンコウを保っているのではなかろうか? いや、つまり私は、妹を利用しているのだっ!?


 その証拠に彼女の数々の過ちに対して、強く責めるどころか事実、内心ホットしている自分が何処ドコかに居る …

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