第2話 : 姉妹 ( 6 )

 その様な私を見かねてか、はたまた、娘の大変な状況に側に居られない父の自責の念からなのか、毎日、仕事の合間に連絡を入れてはくれる。


 だが、決まって話の内容は妹の事で、私に気遣う様子は多分に無い。 先日の父の帰国の際には、スマホの待ち受け画面が、リコの画像だと本人に知れ、妹から執拗シツヨウに「ストーカー!!」だの「キモい!!」だの散々に責められ、見ている方も可愛そうなくらい傷心した様子で、成田より西の空へと帰って行った。


「世話がやける子ほど可愛い」と大人達は言うが、実際、妹の世話をやいているのは私の方であり、父からのネギライいの言葉ぐらいはあっても良いのである。


 そんな鬱憤ウップンを、心の中で何度も繰り返しながら、床を拭く手にもオノずと力が入る。


 犯人の足取りを追う鑑識課カンシキカの様に、繊細かつ正確に現場証拠を回収しながら、半開きとなったドアが待つ、妹の部屋前に行き着く。


 姉を導く様に足跡は部屋の中へと続く。 リコは自称″ 片付けられない女 ″とウソブくが、これはいけない …


 部屋の中は、飲食物の飲みカケ、食べカケ。 マンガや雑誌の読みカケ。 お洋服の脱ぎカケ等々 …。


 彼女が居ない部屋でも、まるで止まる事を許さない ″ ing ″ 形の連続が、執拗に何かに追われ、どこか生き急ぐリコ自身と重なる。




 先ほど、リコがツマヅいて散乱したままのゴミも、彼女は一つ一つ摘まんでは箱の中へと入れて行く。


「ああっリコったら!! また、数学、赤点じゃない!!」


 丸められたゴミの中から、姉は目ざとく発見する。


「あ~。 またこれで、担任の先生から、進級について保護者への呼び出しがあるわね…」


 先週の英語の試験に続く赤点 …。


 これは、帰って来たら、こっぴどぐ叱ってやって、今日から、ミッチリ私が着きっきりで教えるしかないわっ!!


 怒りで震える手が、説明書の紙で包まれたゴミの上に偶然、触れてしまう。


 中にスティック状の堅い物がシンに入っており、何かしら?と開けてみる。


 すると中央に赤い線が刻まれた、妊娠検査薬が出て来た。 包んであった紙は、それに伴う医師の診断書だったのだ。



「 リコ … あなた …… 」

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