第1話 : 使命とは ( 3 )




 海面上の豊かな空気が、肺の隅々まで行き渡る。





「ハァハァゴホッ! ゴホッ!!


 ゴホッゴホッゴホッゴッゴッゴッ!!!」





 生と死が渾沌コントンとした漆黒シッコクの底より、


 己の″ 使の光明 ″だけを頼りに、少女は独り生還する。











 彼女は、ビルの端へ移動する為に、未だシビれる腕を伸ばし車輪を回した。




( ガラガラガラガガ … ? )




 魔障マノサワリ執念シュウネンなのか、クレーンフックが車椅子後部に、しがみつき床に引きづられている。


 0.02 秒誤差が有ったのは、この重さが原因だったのだ。


 串刺しになった女の子からオモムロに、

 聖戎具アークを抜き取り車輪とフックとの間に、

 ね入れ、グイッと跳ね切る。





( カラカラーン … )





 音を立て転がるフックを、もう一度刺し止め、小さくタメ息を付く …






「 一日に、


 四度も呼ばわりなんて…


 心外だわ 」






 少女は、そうとダイバーが、する様に背中からクルリ回転し、中央線と万世橋が交差する歩道へと、真っ逆さまに落下して行った。



 1 …





 2 …





 3 (!!)





 万世ビル外壁に、聖戎具アークを刺す!!




「ガガゴゴガガゴゴゴゴゴゴガガッ!!!!」



 残す所、地上65㎝で車椅子は止まった。


 

 それを抜く …



( ガシャン!!)


 

 車輪が一跳ねする。




 すると、少女は魔法が解けた様に外見も車椅子も元通りとなり、不思議な事に、抱いている女の子にイタっては、串刺しの外傷のアトは一切無く、鮮血さえ見受けられ無い。


 彼女の一部始終を見ていたのであろう。 散歩中の御老人と愛犬が腰を抜かしてヘタり込んでいる。


 少女は、何事も無かったかの様子で、秋葉駅へと車輪を向けた。






 と、突然っ…




「 !!!!!!!!!!!!!!!! 」




 彼女は、万世橋交差点で身構え、居合の戦闘態勢を取る。




 ″″ ─ 魔障マノサワリ!!!!!!!!!!!!″″






 静かに、そしてゆっくりと、少女の目の前をタクシーが通り過ぎて行く。



 

 … いや … ネコ … ?




 黒猫が彼女達の脇を素早く横切ったかと思うと、そのまま、スッと姿を消した。



 横断歩道を渡る背中に視線を感じる …



 車輪を駅へと進める彼女だが、背後への警戒は、決して解か無かった。






 万世ビルの屋上より眼下に臨む秋葉電脳街。


 

 満月に照らされ床に広がる黒猫の影。


 

 闇に輝く青玉セイギョクの瞳に


 

 少女の後ろ姿がジッと映り込んでいる…






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