Chapter 02:佐目島 亜希は女子高生探偵
(あ、今日そういえば星座占い最下位だわ)
そこは路地裏、人通りは少ない。
「何黙ってんだ、クソガキィ!!」
そこは、小さな店の中、
「ビビるぐらいなら見つけるんじゃなかったな、オラァ!?」
目の前には、どう見てもカタギじゃない人間ばかり。
「……こりゃ失礼しましたー、いや私ちょっと昔っからぼーっとしやすい方で〜」
まぁそんな事はよく知っている。
彼女は、そのギザギザした歯が見えるように口の端を曲げ、ヘラヘラとそう答えるだけ。
「んなことは良いんですよ……」
と、ずっと黙っていた、線が細い割に鋭い視線の男が、メガネの位置を直しながらようやく口を開く。
「
お噂はまぁ〜〜、聞いてますわ〜。
その年で随分鼻の効く私立探偵だそうで?
女子高生だっていうのに」
明らかに、言葉と裏腹な殺気を向けてくる。
ただまぁ、まだこの制服のままやってきた自分を、ナメてる。
雰囲気で分かる……表情筋や視線でも。
「看板も事務所もないんですけどねぇ?
なんか、いつのまにか専用のSNSアカ必要で大変っすわ〜」
チラリ、と店の奥を見ながら、亜希は言う。
視線の先、殴られたのかただ俯く一人の若い女性。
チラリと携帯の写真と見比べて、依頼された人物と確定する。
「何ジンさんと話しててスマホ見てんだオラァ!!」
と、チンピラ男の片方がその腕を掴む。
「痛っ……!」
当然と言うかすごい力であり、まともに振り払うのは細腕の亜希では無理だ。
「ここにはァ、
あんたの探すものは無いんですよ」
その状態でようやく、メガネの男が口を開く。
「あの顔は写真と同じなんですけどぉ?」
「他人の空似ですよ。
じゃなかったら、あんたぁ、
こっちの女の子よりも酷ぉぉい目にあいますよぉ?なぁ!?」
いよいよ、ギリギリと腕を締め上げられる。
そろそろ、二人のチンピラも辛抱堪らないのか、ニヤニヤしながら近づいてくる。
もっとも、それよりも、早く、
「おっ!」
と亜希は素っ頓狂な言葉を、斜め上を見ながら言う。
一瞬、振り向いて狭い店内を見回したが、すぐに二人のチンピラは向き直る。
「クソガキィ!!変なハッタリかましやがって!!」
「ハッタリじゃないのさ、コレが。
腕だ、『ディープ・ブルー』!」
睨む男の前で、その言葉を言った瞬間、
ガオンッ!
亜希を掴んでいた男の腕の、一部が消える。
「!?
あ、あ、う……!?」
一拍遅れて、プシュ、と血が出始める。
「うぎゃぁぁぁぁぁッ!?」
「なにぃーッ!?!」
「テメェ!!何しやがったァッ!!」
ガチャリ、と銃を構えるメガネの男。
━━━その腕も銃ごとガオン、と消える。
「う、うわぁぁぁぁぁッ!?」
「何って、そりゃあ『正当防衛』さ」
腕が腕が、と泣き叫びのたうつ二人を見下ろし、さも当然と言った様子でそう言い放つ。
「ヒィ〜……!!」
と、残り一人が逃げ出そうとした瞬間、ボトリと何かが頭に落ちる。
一拍遅れて下には銃が落ち、
さらに遅れて男は頭の上の腕二つに気付く。
そのまま何もせずとも、男は白目を向いて倒れた。
「……はい終了〜〜!
止血はしといてあげようか……」
そろそろ二人は青い顔だ、恐怖と失血で。
可哀想なので、手際よく止血して縛り上げた。
「……コレで良し!!」
「なんなんだお前は……!?」
「あんたが探偵って言ったんじゃん。
おぉっと、うちの組うんぬん言わないでね、これでも結構『権力のある方々』からも依頼あんのよ」
権威主義、権威主義〜〜、と言いながら、亜希は腕を抑えるメガネのヤクザを通り過ぎて店の奥に行く。
***
救急車が通り過ぎる横で、スキップしながら歩く亜希。
その手に持ったノートパソコンを、いつもの交番にいる『警官さん』に無言で手渡す。
「ご協力ありがとうございます」
「こちらこそ」
いつもどおり、ちょっと厚い封筒を渡されて、そのまま何事もなく交番から離れる。
「…………国家権力様は末端だと安っすい給料だって聞くけどさぁ…」
目の前の
「私は、その薄給で余ったお金貰ってるって事なのかなぁ?」
と、誰にともなく呟く。
いや……
「……え?どうしたの?
ん?何、コスプレ?」
まるで電話に話しかけるように言いながら、亜希は封筒をしまう。
ちらり、と周りの人を確認し、ブルートゥース無線のイヤホンを電源をつけず耳にかける。
「オイオイ、関わんなよ、撃たれてんぞ……げぇ、何してんの、ったく……!」
そうして、周りを見ながらビル群の合間を早足で抜けていく。
「そうそこ左!
文句垂れたくせにって言った?
もう戦うしかない、って状況じゃあないのかなぁとは思わないワケ??」
ザッ、と角を曲がった瞬間、鉢合わせる。
『見て』いた通り、所々フリフリしたゴスロリ?服っぽい格好に、魔法の盾っぽい物。
「アンタがサレナちゃんか!」
「君は……!?」
「私は、」
す、と左手を曲げて顔の横で構える。
「この『ディープ・ブルー』の
すぅ、とその左手の脇に、彼女たちにしか見えない青いサメが寄ってくる。
まさに、手懐ける、と言わんばかりに。
***
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