魔法少女を助けたのは異能力持ち少女でした
来賀 玲
プロローグ:ドックの女子高生達
━━━ドックドック〜♪あくまで悪魔なドック毒バ〜ガ〜♪添加物100%〜♪
調子外れな音楽、おおよそ家族向けと思えない毒々しい緑と黒の看板。
デビルズ・ドック毒バーガー。
ハイカロリーで安いのにこの見た目で某ハンバーガーチェーンより美味い貧困層の味方。
略称はドック。
寿命のいらないやつは食いに来い。
「はい、つーわけでこの子がサレナちゃんでーす」
店内の一角、丸いテーブルに数人座れる場所に、女子高生らしき顔ぶれが座っている。
…………のだが、話を切り出したメガネでギザギザした歯の公立高校の制服の女子高生の話を、誰も今聞いていなかった。
……そもそも、その公立高校の制服が程よくボロボロで彼女の体も血も滲んでいるという状況にも関わらず、
「ち゛く゛し゛ょ゛〜〜〜〜〜ッ!
びぇぇぇぇっ!!あぁんまりだぁ〜〜っ!!!うぇぇぇぇん!!!」
「……」
一人、座高だけで頭一つ高い金髪でスカジャンを青いリボンとブラウスの上から羽織る女子高生が、
隣の前髪の長い、比較してもかなり小さい背の同じブラウスで、首元のリボンも同じ色の女子高生に縋り付いて大泣きしている。
「…………カクー」
「おい、流羽(るう)!しっかりしろ!
現実に戻ってこい」
その隣では、銀髪で縦ロールに近所でも有名なマンモス私立の制服に身を包んだ少女に介抱される、壊れたと言う表現が正しい顔で虚空を見つめ、フライドポテトを一本だけ咥える間抜けな姿の私立中学の制服に身を包んだ少女がいる。
「……?」
唯一こっちを見ているのは、ミッション系私立校の制服に身を包む、ハムハムと静かにビックリ毒々バーガー(3000キロカロリー)を食べる一番美少女な子だけであった。
この有様である。
「あのさぁ、何?
今日は、『何があったんだお前?』って誰が先に言うかを競う日だった?
受けて立つぞコラ、コッチヲ見ロォ!」
ようやく、ギザ歯を剥き出しで声を荒げて残り4人が視線を向ける。
公立高校の制服の少女の脇で、静かに座る7人目の少女。
まぁそれは華麗な流れるような銀髪に、青い宝石のような目を持つ絶世の美少女だった。
座っていてもスタイルがいいのは分かる。
何故スタイルが良いと分かったかって?
「……なぁ、
「サレナちゃんって言ったんだけど?」
あー、と背の高い金髪の女子高生がギザ歯━━━亜希と呼ばれた少女にうなづく。
「どうも、はじめまして……サレナだ」
「サレナさんと言うのですね?
はじめまして、私は
と、金髪と前髪の長い女子高生の怪訝な視線の中、とてもにこやかにミッション系私立校生らしき美少女━━━史那が柔和に挨拶をして握手を求める。
「あ、ああ……よろしく……」
おずおず、とその手を握り返すサレナ。
「おいおい、フミフミ〜〜??
ぐいぐい行き過ぎじゃあ、ねぇか〜〜?
ちょっと引き気味じゃあねぇかよ〜」
「あら、そーちゃんごめんなさい!
サレナさんもごめんなさいね〜?」
「いや、大丈夫だが……」
「んなことよりよぉ、聞けぇいお前らぁ!!」
と、史那にそーちゃんと呼ばれた金髪スカジャンの背がやたら高いヤンキー女子がそう声を荒げる。
「このあたし!
とうとう、ウチの高校のイケメン、サッカー部で電気科の
告ってやったぜ〜〜ッ!!」
おぉ、と亜希に史那と縦ロールの子が食い入るように
「で、どうだったの!?」
「成功しましたか!?」
「今度こそやったのか!?」
ふっ、と口に葉を曲げる叢。
一同が息を飲む中、やがて、
「その前に始くんとやらが私に何故か告白してきた。
と、静かにハンバーガーを食べていた同じブラウスの目隠れの子が言う。
「当然、私はフった。
そして、その後……
「びぇぇぇぇぇ!!!
あたしは眼中にも無ぇって事だったんだよぉぉぉぉぉっ!!!」
再び大泣きする叢に、なぁんだ、と亜希達は座る。
「いつものことかよー、そーちゃん不運だなー」
「大丈夫です!そーちゃんは魅力的な子ですから、次こそはきっと!」
「本当か!?フミフミ!!」
「…………叢先輩、言いにくいが、
これで7回目なのは、重く受け止めた方は……その……いいと、思われる」
「…………、
そうでしたァ〜〜〜〜ッ!!
オォン、オォン……!!
もう7回も彼氏ゲットならずでしたァ〜〜〜〜ッ!!」
喜びから一転、縦ロールの子の言葉に再び号泣する叢。
「と゛ほ゛し゛て゛メ゛カ゛子゛ち゛ゃ゛ん゛の゛方゛が゛モ゛テ゛る゛ん゛た゛よ゛ぉ゛〜〜〜ッ!!」
「私にも理解不能。生殖目的として選ぶには私は不適格」
すがり泣く隣の同じ制服の小さい子━━━メカ子と呼ばれる目隠れの女の子は、どこまでもクール……と言うよりは『機械的』に答えた。
「じぐじょぉ〜〜ッ!!
だれかあたしにいい出会いをくれ〜〜!!」
と、そんなことを言った瞬間、
「へいへーい!!そこの
「いかにもガサツな見た目してるのに乙女みたいなこと言うよな『カミナリ様』よぉ〜〜!!」
と、この時代にもはや絶滅危惧種のような、リーゼントやらモヒカンの不良がそう声をかけてきた。
「あんにゃろう供!!この前の奴らじゃあねぇかよぉ〜〜!?」
と、立ち上がった叢を、下から掴む指がある。
「ステイ。
店内喧嘩は迷惑」
「そうだぜ〜〜!!やりたきゃオモテ出な〜〜!!」
「つっても今日は俺ら200人ぐらい集めてるけどよ〜〜!!」
ブロンブロン!ドンドンパフパフ〜♪
気がつけば外には、まぁ絶滅危惧種達が集まっている。
その様子はまるで餌に群がる鯉のよう。
「ケッ!!恋する乙女一人になんて数だ!!男らしく無いよなぁ、ブサイクばっかだしよぉ〜〜!」
「びびってんじゃねーぞ!
「チッ!!ビビってねぇからなオラァ!!」
「ステイ。どうせ放っておけば帰る」
「ヘイヘーイ!!『チビ』ちゃんの事なんて無視してこいや━━━━━」
その瞬間、サレナと壊れた顔の少女以外が「あっ……!」と固まった顔になる。
「…………バカ……!」
「何という事を……!」
「死んだな……」
「……?」
ふと、空気が変わったことに一拍おいて気づく不良の中、一番青ざめた顔の叢が、恐る恐る横を振り向く。
「━━━今、」
隣の彼女の周りの、空気が揺らめく。
「私に対して、」
す、と立ち上がり、スタスタともうどうしていいか分からない叢の下を素通りし、
「なんて、」
やがて、何かまずい、と感じた不良達の前にやってきて、
「言った?」
ただ静かに、長い前髪越しでも分かる鋭い視線を向けて、冷たい怒気を放つ。
「……あ、あの……わ、悪気はなかったんだ、ただ、その……」
言い訳の言葉、
それを聞いた瞬間、
突然、ゆらりと揺れたその小さな体の背後から、
機械的な太い腕が現れる。
「まずい!!」
瞬間、銀髪ロール髪の少女の背後から、一瞬恐ろしい姿の氷の怪物が現れた。
一瞬、腕が不良を捉えるより早く、
ピタリ、
「……?」
突然、不良に目の前で少女が止まる。
彼には見えていないし、近くは出来ていない。
だが、
なんだか寒い。
「なんだ、急に寒くなってきたなぁ……?」
気がつけば、目の前にいた少女は仲間が運んでいる。
そして、なぜか息が白い。
「あぶねー……!!」
「普通の人間には見えなくてよかった……!」
小声でモニョモニョと叢と縦ロールの子が会話しながら、ちょうどあの壊れたまま何か意味のない言葉を呟き続ける虚ろな目の少女の隣の席に無理やり座らされる、氷漬けのメカ子。
あの背後から現れた、機械的で太い腕ごと見事凍っている。
が、周りにはなぜか気温が下がったとしか認識されてはいない。
「…………今のは?」
「サレナさんは、『見えた』のか?」
「ああ……ある程度事情は知っている」
「まぁ、そんな格好では、そう考えるのが妥当であろうか」
縦ロールの少女は、指を軽く鳴らす。
一瞬、彼女の脇から生えた鋭い怪物の爪がメカ子に近づき、すぅと手を広げた瞬間、
急速解凍されたあの腕が、ブゥンと振るわれて腑抜けた顔にぶち当たり、その後ろの仕切りごとぶち抜く。
「なっ……!」
「安心してくれ」
あまりに出来事に立ち上がりかけた、サレナを制する縦ロールの少女。
「安心してくれ!?
顔が撃ち抜かれたんだぞ!?」
「だが即死じゃないのさ、見てくれ」
こてん、とテーブルに崩れ落ちる壊れた顔の少女。
その顔には穴どころかかすり傷ひとつない。
「…………?」
と、殴ったメカ子もようやく右腕に気づく。
さっきまで顔のあった空間、
顔のスペース分、腕のある場所が消えている。
いや違う。
腕の体側、そしてさっき撃ち抜いた仕切り、
そこを繋ぐ二つのリングが、浮いてあった。
「…………麗奈、君か?」
「私です、
いくらなんでも、『インシディアス』はやり過ぎですよ?」
「…………自制する。不服だが感謝」
無表情ながら、どこか不服そうに
とりあえずテーブルに突っ伏しっている少女のポテチを勝手に拝借して食べた。
「……ふぅ、相変わらず血の気があるんだかないんだか……」
「……ところで、君は「麗奈」と言うんだな」
「おっと!すみませんサレナさん。
名乗り遅れましたが、私は
以後お見知り置きを」
とても丁寧に会釈して縦ロールの少女━━麗奈は改めて名乗る。
「そして、こちらは
「そうそう、メカ子ちゃんはあたしと同じ学校でよぉ〜〜!!
あたしとも幼馴染でもう、BFFなんだぜ〜〜??」
「BFF??」
「Best Friend Forever.
まぁ、切ったと思ったら足の裏に切れ端が張り付いていてなかなかとれないような関係」
「そうそう!
ってぇさぁ、それ酷くねメカ子ちゃーん?」
「我ながら酷い言われようだとは思う
これが私か叢以外に言われたら殺してる」
「…………」
「…………」
「「でへへへへへ」」
「お前ら、私の叔父が高校の頃現役だった芸人の奴じゃん」
亜希のツッコミをする中、叢は自分のベーコンホットチリバーガーを半分メカ子に食べさせていた。
「……ところで、その壊れている子は……いいのか?」
と、サレナの言葉にようやく、皆この壊れたまま放置された少女に顔が向く。
「……なんで流羽ちゃん、そういやこんな完全に心が壊れたみたいな顔してんの?」
「説明しますのでつつかないでやってください、亜希さん!」
と、行儀わるくフライドポテトで突く亜希を押しのけ、麗奈がこほんと説明を始める。
「こっちは、
ペンネームは、スペーシー。
現在、「小説を書こう」「ライト/リード」などの無料小説投稿サイトにて活躍中、」
「書籍化してねー時点で活躍してねーわボケェーッ!!!!」
と、そこまで説明された瞬間、ガバッとはね起きる流羽。
「おいおい?流羽ちゃん落ち着けよなぁ〜〜、フリチキ(極濃チーズ)やるからよ〜〜」
「そうだ!
普段から、書籍化だけが物書きの指標じゃないと語っているのはお前じゃあないか!!」
「そうだけどそうじゃないんだよねぇ〜〜っ!!!
はいはい、面倒くさい、面倒くさい!!
底辺小説家モドキ物書き人の悩みは面倒くせぇ〜〜〜〜もんですよねぇーっ!!
ファッキィ〜〜〜〜ンッ!!」
そこまでまくし立てた瞬間、ズンと顔をテーブルに叩き込む流羽。
「…………なんで渾身のSF作品が一次落ちで、
深夜テンションで前後不覚で書いたような異能バトル小説が、
なんで2次選考通っちゃうんだよぉ〜〜ッ!!
なんでぇっ!!
どーいう事だ!どういう事だよッ!クソッ!
そっちって、どう言うことだッ!!
クソッ!クソッ!クソッ!!」
ガン、ガン、ガン!!
一通りイラつきをぶつけた瞬間、その突っ伏した頭が震えながら横を向き、涙をいっぱいに溜めた顔になる。
「……どうしてかなぁ……??
嫌いじゃあないけど…………自分が書いたんだもん、だけど……!!
どうして、そっちなのかなぁ……??」
しくしく、と彼女は大粒の涙を流し始める。
いたたまれない空気が、その場を包んだ。
「…………これですか、流羽さんの作品は?」
と、今まで静かにしていた史奈が、スマホを向けてそう尋ねる。
「ああうん、それでーす」
「どれどれ?」
「あたしバカだけど文字は読めるぜ」
「自慢じゃない」
と、麗奈以外は皆揃ってスマホを開き、そのネット小説を開く。
━━5分後━━
「とても良作なサイエンスフィクションですね!!
星々の違いや種族設定、星間航法の違いなどなかなか作り込みがいい!」
「たしかに。ストーリーもいい味だったな」
「本当!?やったー!!」
と、史奈とサレナには大変ウケが良い中、
「B級映画でありそうな話だわー。
予算足りなくなるやつ!」
「長い。重い」
「全くわかんない!!」
と、残り3人は酷い感想しかやってこない。
「……まぁ、SFだしね。敷居高いしね……」
と、へこんでいる流羽を放って、麗奈はサレナに貸していた携帯でもう一つの話を開く。
「で、こちらが例の物です」
「やめて麗奈!?アレ結構一般人には劇物じゃん!!」
「へぇ〜、世界大戦により荒廃した世界を舞台に異能力者達が殺しあう、という奴ですね〜」
「へー、そう言うやつで気になる映画前あったわー」
「黒歴史確定。これは拝読すべき」
「お、これならあたしも話分かるぅ〜〜??」
「辞めろぉ!!それを見るなぁ!!」
━━まさかの2時間後━━
「…………何これぇ……!
当たりB級映画とかじゃあない……!!
ハリウッドの本気の予算とか、大手アメコミ実写化並みの奴じゃん……!」
「まさか……そんな……お前が裏切る……!?いや、まさかあの時……!!」
「この能力の使い方……!!
キャラの登場から退場方法まで……!!
緻密……!!そして快活な展開……!」
「……………………」
「なぁ流羽よぉ!?続きは!?
あたし、この火を使う奴のよぉ!!生きてんのか死んでんのか気になって気になって仕方がねぇんだよぉ〜〜!!
な、なぁ?続きは!?
せめてちょっとヒントだけでもぉ!!」
「……なんでみんなこの作品にこんな反応の良い感想ばっか書くんだ……??」
「ふっ、諦めろ流羽。
我がノートの端に書いた妄想の存在をここまで昇華して文章化したお前は、間違いなく将来大物の原作者になる才能がある……!」
どう表現していいか分からない虚無の顔を見せる流羽の背後で、キメにキメたポーズで横顔を見せて言う麗奈。
「…………これが需要と供給、ってやつか……」
「あ、あの……!!
気を落とさないでほしい……す、凄く面白かった……!」
と、オズオズといった様子でその青い瞳を震わせて、サレナはそう言葉を紡ぐ。
「あ、ども……いや、そりゃ半端なのは書けませんって……」
「私の世界には、ここまで面白い小説はなかったんだ……すごかった……!」
「…………はい?」
と、そのサレナのセリフに、流羽と麗奈は耳ざとく気がつく。
「私の……世界……??」
「ああ、言いそびれてたけどこの子本物の魔法少女らしくってね。
なんか襲われてたから私が助けたんだわ」
……………………
━━━サレナは、そのスタイルの良さが映える、ロリータファッションのような胸元の空いた格好をしている。
いや、正確に言えば、今はテーブルに置いているが、
なんだか盾のような、やたらキラキラした装飾のある物を持ってきていたし、
ゴソゴソ、
「……グルゥ〜……そろそろ出てきていいグル?」
今、その盾の陰から、モグラっぽい人形のような生物が出てきた。
………………
「…………え、本物?」
まず、流羽がそう言葉を絞り出した。
「だから、その話するために呼んだんじゃん?」
「亜希さん、まじめに言ってるんですか?」
「うん。ついでにさっき、ちょっとこちらと敵対してる魔法少女と戦った」
これその時の傷、と自らのボロボロな姿を改めて見せる。
………………
『マ、マジでぇ━━━━ッッ!?』
いつも無表情なメカ子が目を見開くほどの事実。
すると、その当の本人━━サレナは立ち上がる。
「改めて…………私の名前はサレナ。
魔法少女、シールダーサレナ。
そしてこっちは相棒の妖精、モグルー」
そして、彼女はこう言葉を締めくくる。
「地球は、狙われている。
私のいた世界に」
***
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