ツナグセカイ――神無月学園編
五十月
第1話[始まり︰前編]
3月の中頃。もうすぐ冬休みに入るためか、学校内がソワソワとしているある日。
僕は母親と共に担任の先生に呼び出されていた。
「あの、先生。うちの子が何か……」
少し不安気な顔で先生に尋ねる母さん。僕もなぜ親子で呼び出しをされたのか心当たりがない。
「いえいえ。
先生が取り出したのはA4サイズの大きめな封筒だった。送り主は……
「神無月って、あの神無月ですか?」
「多分君が想像している神無月学園で合っているよ」
神無月学園
日本国内にいくつかある異能力者を管理育成するために建設された学園の1つ。その中でも一二を争う敷地面積を誇るマンモス校。
他の学園は異能力を国のために扱える者を育てる機関であるが、神無月学園は異能力者を一般社会へ送り出す事を目的としており、そのためか非異能力者の入学も多いとか。
「そんな神無月学園が僕宛てにいったい」
「とりあえずコレを見てくれ」
先生はそう言って封筒の中から数枚の用紙を取り出し僕と母さんに見せた。そこには。
「編入案内……?」
「うちの子が、神無月学園へですか?……あ、あんたまさか」
「いやいや何も変化ないって!何か変な力とかいっさいないから!」
神無月学園などからの編入案内と言ったら、多方異能力に関係のある事が考えられるけど、そんな不可思議な力に目覚めた心当たりはまるでなかった。
「お二人共落ち着いてください。あくまで他の子と比較して開花する可能性が高いためにこの案内が届いた次第です。一応強制ではないのでお断りすることも出来るんですが……」
「な、何か転校しないとまずい事でもあるのでしょうか……」
歯切れの悪い先生の発言に、また不安な顔色を見せる母さん。かく言う僕も気が気でならない。
「いえ向こうの学園から、編入する場合は学費や入寮費などは全額学園側が負担すると言われておりまして」
「
「母さん!?いくならんでもそれは現金すぎるんじゃないかな!?」
「私としても学費云々を抜きにしても、神無月は就職率進学率共に高水準だし、けして悪い話ではないと思う。向こうは全寮制だからご両親と離れて生活する事になるけど、将来的に見ればいい経験になると思う」
「ほら先生もこう言ってくださってるし、私やお父さんの事は心配しなくて大丈夫よ」
確かに悪い話ではない。学費免除なんていう高待遇だ。ただ……。
「僕の異能力については何か言われてないんですか?」
異能力を開花される可能性が高いと言われた事が不安でらならなかった。
可能性とはどの程度の物なのか。どんな異能力が開花するのか。気にならないわけがなかった。だが、僕の質問に対して先生の顔は曇り気味だった。
「残念ながら、その質問には答えられない。神無月学園からの答えは可能性が高いと言うことだけなんだ」
「そうですか……」
「でもね。可能性が高いという事に不安を感じるのなら、なおのこと神無月学園に転校するべきだと思う。先生も異能力については詳しくないから、専門の人が多い学園に籍を置く方が安心できると思う」
「霖音。心配するのは仕方ないけど、どんな不思議な力に目覚めてもアンタは私の息子よ。縁を切ったりしないから安心なさいっ」
そんな後押しもあり3月ももうじき終わろうかという頃。僕、
「ここが正門か。実際に見ると本当に大きな学校だな……」
最寄りのバス停から学園は見えていたものの、近くで見るとその大きさがよく分かる。前の学校の5倍くらいはあるような……。
ここに来るまで色々な建物があったけれどこの辺一帯はほとんどが神無月学園の学生寮らしい。全寮制のマンモス校恐るべし……。
「とりあえず職員室に行かないと」
そう思い正門をくぐると
「ちょっとそこの君」
「はいっ!」
背後から声をかけられた。いきなりの事で驚いたので、咄嗟に荷物を落とし両手胸の高さまで上げていた。
「ちょっと。急に声をかけて驚かせてしまったのはこっちの落ち度だけど、そこまで過剰な反応されるとやましいことでもあるのかと疑いますよ?」
振り返ると黒く長い髪の眼鏡をかけた女の子が立っていた。
「学園の前でそんな大荷物、新入生……は専用バスで毎年来るから、もしかして転校生?」
「は、はい。転校してきた
「来咲君ね。私は
「あはははは、下ろすタイミング見失ってて……。よっと」
落とした荷物を拾って、神夜さんに向き直る。
「来咲君はこれから職員室に行くの?」
「はい。担当の桜葉先生という方に寮とかの説明をしてもらう予定になってます」
「そう。なら職員室まで一緒に行きましょうか。私もその桜葉先生に用があった所だから」
「いいんですか?ありがとうございますっ!」
「いいのいいの。毎年始めて来た人は迷子になりやすいから」
こんなに大きな校舎だと、やっぱり迷子になる人いるんだ……。
「それじゃあ行きましょうか」
異能力者が通う学園と聞いていたから少し不安ではあったけれど、神夜さんみたいな優しい人に出会えたのは幸先いいかも。
職員室前――
神夜さんに案内されて職員室前にたどり着いたけれど、1人で探していたら迷子になる所だったかもしれない。
「先生呼んでくるから、来咲君はここで待ってて」
「ありがとうございます。なにからなにまですみません……」
「私用のついでだし気にしないで。失礼します」
職員室の扉を叩き中に入って行く神夜さん。しっかりしてるし優しいし、いい人だなぁ。きっと学級委員長とかなのだろうか。
そんな事を考えていると職員室の扉が開いた。
「おまたせしてごめんねー。君が来咲霖音君?」
中から出てきたのは神夜さんと、おそらく桜葉先生であろう人。
「は、はい。来咲霖音です」
「私が今日担当する
「よ、よろしくお願いします」
150センチほどの身長と緩くカールのかかった長めの髪。年下に見えてしまうような童顔。本当に先生なのか疑ってしまった。
「神夜さんもありがとうね。彼をここまで連れて来てもらって」
「いえ、たまたま正門前で見かけただけですから。それでは私はこれで失礼します」
「あ、待って神夜さん」
立ち去ろうとする神夜さんを桜葉先生が呼び止める。
「寮に戻るなら今から来咲君を寮へ案内するし、神夜さんも一緒に行きましょうか。大丈夫方向は同じだからっ」
言うが早いか、有無を言わさず神夜さんの手を取り歩き出す。
「ちょっと先生!?」
「さぁ行きましょう!来咲君も着いてきてねー」
「は、はい!」
持ってきた荷物を担ぎ直し、2人の後を追う。桜葉先生、見た目はゆるそうなんだけど案外強引なんだな。
「はーいつきましたー。ここが今日から来咲君が暮らす寮。
学園から徒歩5分ほど。ほかの寮はマンションのような高い建物のなか、この夢希寮は二階建ての大きな一軒家のような外観だった。ただ……。
「あの……先生。ここって」
「綺麗でしょー。まだ建設して3年も経ってないのよねー。あ、この寮の担当教員も私だからよろしくねー」
「そうなんですか?よろしくお願いします。……てそうじゃなくて」
寮の門に書いてある寮の名前を指さす。
「ここ夢希
「そうよー」
「僕女の子に見えますか?」
「んー。メイクしだいでは見えなくもないかもー?」
多少童顔ではあるけれどそうじゃなくて……。
「少し落ち着いて来咲君。先生、本当に来咲君の入寮先はここなんですか?この寮今は満室ですよね?」
「あらー。神夜さんもう少し驚いてくれてもよかったのにー。とりあえずこっちにいらっしゃーい」
「とりあえずついて行きましょ」
「はい……」
先生は寮の門をくぐり、寮には入らず庭の方に歩いて行く。
「犬小屋とか言わないですよね……」
「流石にないと思うわよ……」
先生につれられやって来たのは夢希寮の裏側。夢希寮に隣接するように建設された二階建ての小さな家のようだ。
「ここって、夢希寮の管理人室ですよね」
「神夜さんだいせいかーい」
「管理人室?」
「別に来咲君に管理人として働いて貰うわけじゃないのよ。ただちょーっと他の男子寮に空きがなくてねー。まぁ中見たらほかの部屋なんて考えられなくなるから、入って見ましょ!」
先生はポケットから鍵を取り出して扉を開けた。先生に背中を押され、管理人室と呼ばれた部屋へと入っていく。
「神夜さんもついでに見ていきましょ?」
「そうですね。ここまで来たからついて行きますよ」
中に入ると、まるで普通の一軒家だった。
「広いリビングにテレビモニター付き。広いキッチンに大きな冷蔵庫。お風呂とトイレは別で洗濯機も完備。2階が寝室だから、荷物置きに行きましょうか」
2階に部屋は2つあって、片方は物置部屋になっているとか。寝室と言われた部屋は、大きなベッドが1つ。クイーンサイズと言うらしい。収納力抜群のクローゼット。勉強机とパソコンまで置いてある。
「僕本当にここに住んでいいんですか……?」
「他の寮と比べ物にならないくらい高待遇じゃない……」
「割り当てられたんだから気にせず使っちゃいなさいな。とりあえず下のリビングでお話しましょうか」
リビングルームに移動して机を挟んで桜葉先生と向き合う。神夜さんは帰るタイミングを見失っているのか僕の隣に座った。なんだかごめんなさい……。
「とりあえず寮の案内はこんな所ね。一応言っておくけど、管理人室と言っても隣の女子寮に入れたり、監視カメラを覗けたりはしないから期待しないでね?」
「いえそんな期待はまったくしてないのですけど……」
「先生、話を先に進めましょう」
「あらーごめんなさいねー」
先生のゆったりしたテンポを崩すように神夜さんが話を進めてくれる。一緒に着いてきてくれて本当によかった。
「教材はさっき寝室の机の上にあったでしょ。制服もクローゼットの中に入っているはずだから、確認しておいてね。あとはこれねー」
先生は肩から下げていたカバンから箱を取り出した。箱の中からは携帯端末のようなものが出てきた。
「これはねー、PAT《パット》って言って。簡単に言うと高性能な生徒手帳ってとこかしらー」
なるほど……。よく分からなかった……。
「先生、もう少し詳しく教えて上げてくださいよ……。来咲君これは、学園生全員に支給されている物で、生徒手帳としての身分証の他、通話やメール、学園掲示板の閲覧書き込み、あと電子マネーの機能もあるわね。この学園内では必需品の一つよ。ちなみにPATはPersonal《パーソナル》Attest《アテスト》Terminal《ターミナル》の頭文字を取ってPAT。文字通り個人を証明する端末ね」
神夜さんが丁寧に補足説明をしてくれた。なるほど、確かに高性能な生徒手帳だ。
実際に起動してみると、既に僕の情報が入っている。
「それじゃあ他に学園の事で分からない事があったら、神夜さんに聞いてねー。神夜さん私よりしっかりしてるし、春から同じクラスになるし、夢希寮に住んでるからー」
「先生そんな投げやりな、って神夜さんそこの寮にすんでるんですか!?」
「運命的よねー」
「先生、意味のわからない事言わないでください。それにまだクラス分けのリスト届いてないんでその情報内密なものなんじゃないんですか?」
「あらー。そうだったかしらー」
バツの悪そうな顔で視線を逸らす先生。僕としては知り合ったばかりとはいえ、神夜さんが同じクラスなことに少し安心している。
「あ、そろそろ職員会議の時間だったー。はいこれこの部屋の鍵。じゃああとはよろしくー」
「ちょっと先生!」
神夜さんは止めようとするものの、逃げるように足早に立ち去っていく先生の背中を見送る事しかできなかった。
「えっと……神夜さん。なんか巻き込んじゃってすみません……」
「気にしないで……。桜葉先生っていつもあんな感じだから……」
「同じクラス見たいですね、僕達。担任の先生桜葉先生でしたよね……」
「今から少し気が重いわ……」
もしかしたら去年からこんな感じで振り回されているのかもしれない……。
「ま、これも何かの縁よね。来咲君。しばらくの間よろしくね。あの先生よりは頼りになると思うから」
そう言って神夜さんは右手を差し出してきた。
「なんだか色々巻き込んじゃったけれど、こちらこそよろしくお願いします」
僕も右手を出して軽く握手をする。
「来咲君はこの後荷解きをするのよね」
「そうですね。まぁ衣服や日曜日ばかりなんであっという間に終わるとは思うんですけど」
「そう。それなら、その後こっちの寮の子たちと顔合わせしておきましょうか。うっかり不審者と思われても困るでしょ?」
確かに、女子寮の前を通る男を見たら不審者に思われる可能性もあるかもしれない……。
「場所はこのリビングルームでいいかしら?今日は寮生全員部屋にいるはずだから、私から事情を説明して連れてくるから」
「はい。大丈夫です」
「じゃあPAT借りるわね」
机に置いてある僕の端末に、ポケットから出した自分の端末をかざす。
「じゃあこれ、私の連絡先だから。準備が出来たら連絡してね」
それじゃあ後でねと言って、神夜さんは部屋をあとにした。それにしてもそんな簡単に連絡先の交換が出来るのか。流石都会の学校。
それはそれとして、とりあえず荷物をしないと。そう思い僕は2階の寝室へと向かった。
とりあえず衣服をクローゼットにしまっていく。クローゼットの中にはちゃんと神無月学園指定の制服があった。
「ブレザーか。前の学校は学ランだったから少し新鮮な気持ち」
洗面用品とかはあとで下に持っていくとから別の所に置いておいて、あとはこれか。
家から持ってきた中で多分1番かさばるものを取り出す。
「この枕がないと寝付きがわるいんだよねぇ」
昔から使っているマイ枕。母さんからは置いていけと言われたけれど結局持ってきてしまった。
「とりあえずこんな所かな。後は下に持っていくやつか」
これを片付けたら神夜さんに連絡しないとか。それにしても見ず知らずの僕にすんなり連絡先教えてくれたけど、あんまり警戒されてないと思っていいのだろうか。
前の学校が男子校だったのもあり、正直女の子との距離の取り方はよく分からないのだけれど。
「ご近所だし仲良くできるといんだけどなー」
下に降りると。
「ふんふふんふふーん♪」
見知らぬ体操着姿のポニーテールの女の子がいた。
鼻歌を歌いながら冷蔵庫から紙パックの牛乳を取り出し口を開け、腰に手を当て煽り飲む。
「ぷはぁ!運動後の牛乳は最高っ!……お?」
お互いの視線がぶつかり合った。
「えっと、こんにちはー」
「なにやつ!」
一気に距離を詰められ、腕やら足を絡められ体の自由を奪われた。
「ちょ!待ってください話を」
「問答無用ーー!!」
謎の少女はどこからかPATを取り出して誰かに電話をかけた
「あ、もしもし詩音ー。不審者捕まえたからヘルプー」
「神夜さん助け!むぐぐ――」
器用に足で僕の口を封じてくる。
『ちょっと
うっすらと神夜さんの声が聞こえたきがしたが、直ぐに電話を切ってしまった。
「ふふふー。観念しろ不法侵入者めー」
「ふぉふぇはぁいへふはらふはひぃをひいへふははいーー(お願いですから話を聞いてくださいーー)」
「ちょ、喋るなくすぐったい!」
ぐるんと体の向きを変えられ、さらに強く拘束される。
「これをーこうだ!」
自分の髪を結んでいたリボンを口に噛まされる。
「あ、詩音に場所言うの忘れてた」
バンッ!
玄関の方から凄い音がした。
「お、流石詩音よくここがわかっ」
「まーいーんーー!!」
ゴンッ!という鈍い音が部屋に響いた。
「本当にごめんなさい!!」
「いえいえ、誤解がとけてよかったです」
「ほらちゃんと舞音も謝りなさい!」
「いきなり襲い掛かってごめんなさい……」
「まいんさん、でしたっけ。急に拘束されたのはおどろきましたけど……。それより頭のたんこぶは大丈夫ですか?」
電話越しに僕の声を聞いてすぐさま駆けつけた神夜さんに、とても重い一撃を受けしばらく気絶していたくらいである。神夜さんも少し焦ってやりすぎたと反省していた。
「まさか詩音にあんな力があったとは……」
「だ、だからやりすぎたって謝ってるじゃない……」
「ところでまいんさんはなんでこの部屋に?」
「いやぁ去年からこの部屋に入り浸ってはいたんだよねぇ。だらしない格好してたり、パックの牛乳とかがぶ飲みしてると詩音とかからはしたないって言われるからさー。秘密のだらけ部屋ってやつ?」
「アナタねぇ……」
まいんさんが気絶している間に冷蔵庫などを調べたら、飲み物やお菓子の備蓄がしてあった。
「なるほど。ところでこの部屋オートロックだったと思うんですけど、どうやって入ったんですか?」
「そこはまぁトップシークレットーっと言いたいところだけど、まぁこうなったからには特別に教えてしんぜよう!」
「何を偉そうに……」
神夜さんはすこし呆れ気味だった。
「実は私は異能力者なのだ!」
「おー!」
イマイチ実感がなかったが、ここは異能力者を募る学園の1つ。でも間近で異能力者を見るのは始めてな僕としては、これまた新鮮な気持ちである。
「私の能力は触れた物の鍵を開ける能力!寮の扉なんか朝飯前、南京錠やダイヤル式の金庫やロックのかかったPATも思いのまま開けたい放題なのさ!」
「おー!それは便利そうな能力」
「まぁ自分の物以外を勝手に開けたら普通に犯罪よね」
「詩音ー。この子感心してるんだから横槍いれないのー」
「ま、とにもかくにも、これからここは来咲君の部屋になるんだから。私物は持ち帰りなさい」
「えーー!」
「えー。じゃないの。来咲君からも何か言ってあげて」
とは言われたものの。
「僕としては別にそのまま置いといてもらっても大丈夫ですよ。元々後から来たのは僕の方みたいですし。あでも、間違って飲み食いしないように名前なり
「来咲君!?あんまりこの子甘やかしちゃ」
「おーおー!霖音君は話が分かるね!」
「あれ、僕名前教えてましたっけ」
「んにゃ。さっき君のPAT開いて見た」
「まーいーんー」
「2度もはたかれないぞ!」
2人が追いかけっこを始めてしまった。広いリビングルームでよかった。多分まいんさんも夢希寮の一員なんだろうか。仲良さそうだし。
そんな事を考えていると、ピンポーンとインターホンがなった。2人は気がついてらいないのかまだじゃれついている。
「はーいどちら様ですかー?」
扉を開けると4人の女の子がいた。
「こ、こんにちはっ。あの詩音さんてもうこちらに来ていますでしょうか……?」
最初に声を出したのは右側だけ髪をくくっている子で、少しおどおどとした様子だった。
その子の後ろの方から「本当に男の人がいますよ」などと話し声が聞こえる。おそらくこの人たちが夢希寮に住んでいる子達なのだろう。
「こんにちは。あとでまた自己紹介はするけれど、僕は来咲霖音。今日からここに住むことになってます。神夜さんとまいんさんならもう来てますから、遠慮せず入ってください」
4人の女の子を引き連れリビングの方へと戻ると。
「離しなさいよ舞音ーー」
「詩音こそーーー!!」
取っ組み合いが始まっていた。
まいんさんは体操服がめくれてお腹が丸見え。神夜さんもスカートがめくれそうになっていた……。
「あのーお二人共、お楽しみのところ申し訳ないのですが、みんな来てます」
「「え?」」
「詩音さんー、舞音ちゃんー。いつもケンカはだめですよーって言ってますよねぇー」
さっきまでおどおどとしていた女の子が前に出る。少し雰囲気が変わっているが、おそらく怒っているのだろうか。口ぶりからすると珍しい事でもないらしい。
「「えっと、あの、その」」
この後10分ほどお説教タイムがあったが、他の子達は気にもとめず持ち寄ったお菓子などを開けていた。
「さーて気を取り直しまして霖音君の歓迎会をして行きまーす!司会進行は舞音ちゃんがお送りしマース!」
お説教から解放されすぐにテンション高めに司会を務めているまいんさん。ちなみに着替えるのは後ででいいやと体操服のままである。対照的に神夜さんは意気消沈といった感じである。
「はしたない所を見せてごめんなさい……」
「いえいえ、2人とも仲がいいんですね」
「来咲君はなにを見てそう思ったの……?」
「はーいそこ、コソコソ話さないー。それでは今日の主役、来咲霖音君から自己紹介でーす!ささっ前に出てー」
くの字に曲がったソファーの向かいに、大きなホワイトボードが用意してあり、その前に立つ。
なんでも文字を見た方が覚えやすいからとの事。ホワイトボードは寝室の向かいにある物置部屋にあったらしい。
「はいこれ水性ペン。名前書いてこら自己紹介どーぞー!」
言われるがままに、受け取ったペンで来咲霖音と書いていく。
「えーっと。今日からここに住むことになりました
頭を下げるとぱちぱちと手を叩く音が聞こえた。
「はーい質問タイムは後にして、じゃんじゃん自己紹介していきましょー!とりあえず面識あるらしい詩音からどーぞ!」
神夜さんにペンを渡してソファーに座る。まだ少し警戒されているのか、他の子達とは距離があるように感じるが、まぁ仕方の無いことだろう。
それはそれとして、ホワイトボードには
「改めまして来咲君。名前は神夜詩音。クラスが一緒で寮まで同じところになるなんて思っても見なかったけれど、これからよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いしますっ。神夜さんがいてくれて心強いです」
「なんで同じクラスってしってんのーとか聞きたいけれど、とりあえずは置いといて次は私のばーん」
ホワイトボードにでかでかと名前を書いていく。
「私の名前は
あれ、彼女はまいんという名前ではなかったのだろうか……?
「ちょっと舞音ちゃん!?」
「特技はお料理得意な科目は国語趣味はコスプレたまに部屋の中でナース服とか巫女服とか着て1人で撮影会してるよ!ちなみに身長は160センチスリーサイズは86.55.84おっぱいはFカッギャッ!」
この部屋にまたしてもゴンという鈍い音が響いた。
「改めまして霧風音羽です……」
右側だけ髪を束ねた女の子。少し引っ込み思案な性格かとも思ったが、まいんさんに鉄拳制裁するあたり、怒らせたら怖いタイプなのだろうか。
「こっちの隣でのびてるのは
神夜さんが補足説明をするようにホワイトボードにまいんさんの名前を書く。
「音羽と舞音も私と同じ学年だから、来咲君と同い年ね。それにしても」
ホワイトボードには
「この寮の入寮基準になってるのかって思うほど、みんなの名前に『音』って入ってるわね……」
「まぁ仲良くなるきっかけとしては最適だね!じゃあ音ってつかない人達の自己紹介行ってみようか!」
「あ、大丈夫ですか色峰さん。また保冷剤持ってきますか?」
いつの間にか復活して司会進行を続ける色峰さん。頭には2つ目のたんこぶが出来ていた。
「これくらいへーきへーき。そんな事より、わざわざ苗字に変えないで気軽に舞音ちゃんって呼んでくれていいよ!」
満面の笑み。かわいい笑顔だなと思いつつも、勢いに押されてしまう。
「わ、わかりました。舞音、さん」
「素直でよろし!じゃあルーキー2人からいこうか」
「わわっ、私たちの番みたいですよ」
「はいはい落ち着きなさい」
黒いショートヘアのタレ目な女の子と、ツインテールで少しつり目な女の子が前に出る。
「はいはーい。じゃあお名前書いて自己紹介してねー」
まず口を開いたのはタレ目の女の子。
「あ、あの。
続けざまにもう1人の女の子が口を開く。
「
少しおどつくような熊井さんに対して、葉蜂さんの方はこちらを睨みながら、壁のある物言いだった。
まぁ建物は違えど急に女子寮に男が住むと言われたら警戒もするだろう。
神夜さんからの補足で、この学園は中等部があり、2人は去年からこの寮へ入寮したらしい。対称的な性格だが幼なじみで仲良しだとか。
「そんじゃ最後に姐さんよろしくお願いします!」
最後に前に立ったのは背の高い女性。僕よりも少し高いくらいだろうか。腰までまっすぐと伸びる真っ黒の髪が目を引く。
「水ノ
無表情に淡々と自己紹介らしき事を並べる水ノ江さん。ある程度読み取れるものはあるものの、何だか冗談みたいな単語も混ざっていた。呆気にとられる僕を見て、舞音さんが割ってはいる。
「翻訳すると『私の名前は水ノ江夏漣。君より学年はひとつ上の先輩よ。この夢希寮で寮長をしていて、学園でも生徒会の副会長をしているの。ちなみに学園では魔女って通り名で呼ばれているわ。この寮ではみんなのお姉さん的な立ち位置だから、貴方も困った事があったら頼ってね。これからよろしくねっ』って言ってるよ」
「え、そうなんですか?」
水ノ江さんは満足そうに首を縦に降る。
「夏漣先輩はいつもこんな感じの話し方だから、慣れるまでは舞音あたりに翻訳してもらうといいわよ」
「私と先輩はマブイからねっ。それじゃ全員の自己紹介も終わったところで、質問タイムも兼ねた交流会と行きましょうか!」
周りの6人の女の子が僕に目を向ける。
表情こそ違えど、何か聞きたいことがあるような雰囲気を感じた。
「えっと、お手柔らかにお願いします」
どうやら歓迎会は始まったばかりのようだ。
ツナグセカイ――神無月学園編 五十月 @izukirisa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ツナグセカイ――神無月学園編の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます