第12話 デートのお誘い

『大地って兄弟いる? 』

『妹が一匹』

『一匹って(笑) 弟っぽいのにお兄ちゃんなんだね。 あ、でも面倒見がいいからお兄ちゃんでもいいのか』

『弟っぽいってなんだ。 面倒見も別に良くないぞ』

『だって、モールで助けてくれたじゃない? 』

『そりゃ、困ってる人いたら助けるだろ』

『そういうところ。 あの時だって助けてくれたのは大地だけだったもん』


 菊野くん、妹さんいるのか。 お兄ちゃんだから、言葉遣い悪くても優しいんだね。 ちょっと納得。


『ところで、一個聞きたいことあるんだけどさ』

『彼氏ならいないよ』

『ちげーよ。 放課後にクラスで2人で残ってたら、付き合ってるとか思われちゃうものかな』


 あー、これ。 きっと、さっきの先輩とかに問い詰められたパターンだね。 付き合ってるのかって聞かれたくらいだし、否定するのは変な感じだよね。


『二人っきりなだけじゃなんとも言えないけど、近くで顔を寄せ合ってるんだったら確かに見えるかもね』

『やっぱりそうかー。 明日誤解されてたりしないか聞いておこう』


 誤解、はされてないと思うけど。 あ、でも友紀とかは昼休みの話もあるから、朝ちょっと話しといた方がいいかもしんないな。 でも、とりあえず菊野くんには気にするな、って返しとこう。


『あたしの見立てとしては、女の子の方も気にしてないと思うよ。 放課後デートなんて、やるねぇ大地も』

『そんなんじゃねーよ 』

『どうだか? 吹奏楽部なら女の子いっぱいいるんでしょ? 』


 こないだ初めて吹奏楽部であることを知ったていで、からかってみる。 ――が、しばらくたっても返事は返ってこなかった。 ここにきて既読スルー!?


『おーい』


 またしても無反応。 トイレでも行ったのかな。


『寝落ち〜? 』

『(スタンプを送信しました)』


 全く返事がこないのに業を煮やして、こないだナツに教えてもらった、人を小バカにしたような感じの顔が激怒しているスタンプを送った。


『その可愛くないの、アイドル業界で流行ってんの? 』

『既読スルーの挙句、感想がそれ!? 』

『ごめんごめん。 ちょっと意識飛んでた』


 失礼しちゃうわっ! まさか突然寝てるなんて。 もう。


『許してあげない! お詫びを所望するっ! 』

『ごめんって。 なんかできることなら』


 そうだ、こないだ考えてた高尾山! この流れなら一緒に来てもらえるかも?


『んじゃ、今度の日曜日にちょっと付き合ってよ』

『仮にもアイドルがそんなことしていいのか。 だいたい日曜日ってイベントとかあるんじゃ? 』

『だいじょうぶだってー。 日曜日はね、先方の都合で中止になったから。 ってか仮にも、って何よー』

『悪い悪い。 心配のつもりだった。 どこ行くんだ? 金かかるとこは勘弁して欲しいぞ』

『高尾山行きたいの』

『わかった。 日曜日な』

『うん。 じゃ、約束ね。 高尾山口の駅、10時で! 』

『あいよ』


 ふう、と一息ついた。 とりあえず心配だった高尾山ロケの下見に行けそうだから。 菊野くんには悪いけど、練習台になってもらうわよ。




 翌朝、お姉ちゃんと一緒にホームで電車を待っていたら、唯香から声をかけられた。


「美咲、お姉さん、おはようございます」

「あ、おはよ」

「おはよう、唯香ちゃん。 美咲、別で行くね。 唯香ちゃんと一緒に行くといいよ」

「うん、ありがとお姉ちゃん」

「お姉さん、気を遣わせてしまって申し訳ありません」

「いいのいいの。 またウチにも遊びに来てね」

「ありがとうございます」


 駅で会うなんて久しぶり。 同じ駅使ってても案外会わないものよね。


「美咲にはお話ししておかないといけないですね。 実は昨日、誠司さんと久しぶりにお食事に行ったんです」

「そうなんだ! 確かイギリスかどこかに留学してたよね? 」

「ええ。 ニューカッスルに。 3年ぶりくらいでしたわ」

「そっか。 あたしも久しぶりにお会いしたいな」

「そうですわね。 またホームパーティでもやりましょうか」

「唯香の家でホームパーティとかいうととんでもない規模になりそうだから、パーティは遠慮しとくわ。 少人数でお茶するくらいでいいかな」

「お茶会はいいですわね」



 それにしても、唯香と歩いていると好奇の視線が多いこと。 あたしも最近は見られることに慣れてきたとはいえ、唯香が浴びている視線は少し様子が異なる。

 どちらかというと、羨望、嫉妬、恋慕が混ぜこぜになった感じ。 いつもこんな視線のなか折れずにやって来ているんだから、唯香のハートは途轍もなく強い。


 教室に着いたら、珍しく友紀がもう来ていた。


「おはよー美咲」

「おはよ。 今日早いね」

「ちょっと、弟の都合でねー」

「そっか」


 と、自分の席に向かって腰を下ろす。 教科書でも開こうかというところで、友紀がこっちにやってきた。 予習はさせてもらえないみたい。


「美咲〜、昨日菊野と何してたの? 」

「スマホのこと教えてもらってたの」

「バッテリー借りてただけじゃないの? 」

「バッテリー返しがてら、ちょっとね」

「ホントに菊野のこと好きとか? 」

「そんなんじゃないってば。 言うなればドクター? 」

「ドクターってウケる。 ドクター菊野、いや菊野先生か。 そんなことよりさ、聞いてくれる? 」

「そんなことって、友紀から聞いてきたんじゃないの」

「そだっけ? それよりさ、誰にも言わないでよ」


 こそっと耳打ちするように囁かれたのは、友紀が山田くんのことが気になっているということだった。 ふーん、なるほど。 ちょっと見る目変わっちゃうよね。

 にまにましながら友紀を見てたら、ちょっと赤くなってて、同性なのに惚れそうになった。 メッチャ可愛い。 恋する乙女だね。


 朝から恋バナしてるところに隣人はやってきた。


「おはよう菊野くん」

「おはよ、菊野先生」

「おす。なんだ先生って」

「美咲のスマホドクターなんでしょ? 」


 照れ隠しをするように、友紀が菊野くんにけしかける。 いつも菊野くんとつるんでる山田くんも、こっちに来たらさぞ嬉しいんだろうに。


「人よりもちょっとだけ詳しい程度だよ」

「そうは言うけど、知ってることは強みだよ。 あたしは実際助けられたしね」


 ぽりぽりと頰をかいている菊野くん。 ただ、菊野くんには悪いけど、今あたしの頭の中を支配しているのは、友紀と山田くんの恋の行方なの。 ああ、早く昼休みにならないかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る