第10話 菊野くんの推しメンは?

 モールで千春として菊野くんと会ってから、ちょくちょくメッセするようになった。ただ、自分のスマホからメッセを送る用事はないから、仕事のスマホから千春として送ってるんだけど。


『高校通いながらって大変じゃないの? 』

『もともとアイドルとかやるつもりなくって』

『んじゃなんでやってんの? 』

『お姉ちゃんが勝手に応募したの』

『それ、テレビとかでよく聞くやつ』

『だって事実だもん。 そういう人もいるっていうことだよ』

『ふ〜ん。 定番の持ちネタみたいなもんだと思ってた』

『ところでさ、大地の好きな食べ物って何? 』

『なんだ突然。 唐揚げと卵焼きとチョコレートケーキ』

『ふーむ。 なるほど。 卵焼きって甘いの? 』

『ほんのり甘みがあるのが好きかな』

『オッケー』

『何がオッケーなんだよ』

『別に』

『なんだそりゃ』

『それじゃ、もうこんな時間だしそろそろ寝るね』

『ほんとだ。 いつのまに』

『んじゃ、おやすみ〜大地♪ 』


 ふふ。 『大地』だって。 普段は『菊野くん』なのにね。 千春として接してる時の方が友達っぽいのは困ったものだけど、あんまり自分のこと喋らない大地のことが少しずつわかってきて面白いかも。


 それにしても今日は遅くなっちゃった。 早く寝ないと明日が辛いや。 そろそろ電気でも消そうとしたところに、今度は自分のスマホが光った。


『ハル〜、ちょっと聞いてくれる? 今日、告白されちゃって! 』

『もう寝ようと思ったのに……』

『冷たいわっ! こんな相談できるのハルだけなのに〜』

『え〜、ナツ年中告白されてるじゃん……』

 

 ナツとのやりとりはしばらく続き、いつの間にか寝てしまっていたみたい。






「美咲っ、先に行くよ。 早く起きないと遅刻するからねっ! 」


 え? 今何時? そう思ってスマホを見たらいつも起きる時間よりも1時間近く遅かった。 しかも充電し忘れてるというオマケつき。 そっか、昨日ナツとメッセしたまま寝落ちしちゃったんだ……。


 急いで支度して学校に向かうと、昇降口のところで菊野くんを見つけた。 靴を履き替えているその背中に声を掛ける。


「おはよう菊野くん」

「ん」


 でたな、『ん』。 メッセになると饒舌なのはわかってるんだからね。 簡単に引き下がってあげない。


「返事短くない? 」

「春山に捧げられるほどの上等なセリフは持ち合わせておりませんよ」


 上等なセリフが出てきたところで勘弁してあげよう。 思わず笑いがこみ上げてしまったところで目が合った。


「何かついてる? 」

「いやいや、眠くてボーっとしてただけ」


 眼鏡でも見てた感じ? なんか変だったかな。 教室に着くと、いつもより賑やかだった。 時間も遅いからだね。


「大地やっときたか」


 田中くんが菊野くんへと声を掛ける。 その隣には、何やら週刊誌らしきものを持った山田くんがいた。 って、それヤンステじゃん! しかもあたしたちのグラビア!


「見ろよ、今週のヤンステ。 4Seasonzのグラビアなんだけどさー。 田中が冬陽ちゃんが一番だって言ってきかないんだよ」

「当たり前やん。 絵画から出てきたようなあの佇まい。 ちょっと冷たい微笑みが最高だろうが」


 うひゃー、同級生に見られてると思うと緊張するなあ。 フーちゃんは男嫌いだから好きになっても報われないと思うよ?


「わからんでもないんだが、夏芽ちゃんのアグレッシブな感じがいいんだよ。 大地は? 」


 田中くんはフーちゃんで、山田くんはナツなのね。 ナツはねー、モテるよ。 可愛いし、スタイルいいし、性格もいい。 菊野くんもナツとか好きそうだよね。


「岬だな」


 へ? あたし? そんな素振り見せてないのに。 日頃のメッセの成果かしら。


「千春ちゃんか!」

「大地が即答するとは・・・。意外だな」

「布教しようと思ったのに、遅かったか」

「夏芽ちゃんの方がおっぱい大きいぞ? 」


 ナツは確かにおっぱい大きいけどね。 本人もわかってて強調してるし。


「岬のおっちょこちょいだけど、一生懸命なところがいいんだよ」


 あたしそんなにおっちょこちょいなことしてないと思うけど。 どゆこと!?

  ま、でもあたしを推してくれてるのは悪い気はしないかも。


 ふふっ。 眠さはMAXだけど、朝からちょっと嬉しい出来事だった。

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