情報やの末路

コカトリス

第1話

スラム街の招き猫


スラム街にひっそりと佇むなかなかに趣のある骨董屋がある。

店先にはどれも見たこともないような壺や皿そして招き猫が置かれている。

客は誰一人としておらず店内は閑散としていた。店先を歩く人はどれも老人ばかりで見窄らしい服を着ている。たまに物珍しいものが無いかと変人が入るだけの古物商と言ったところだ。



新聞を開き店内で寛ぐ店員……斎藤|浩一(こういち)は暇を持て余している。

年は三十一歳、年齢=彼女無しの非リア充である。この歳で彼女がいないのはかなりまずいのであるが、浩一は気にするそぶりなど全くせず新聞を読んでいた。

店先に並ぶ家具や、骨董品(ガラクタ)にチラチラと目をやり、動かないものかと拙い脳みそを回した。


今月の人の入りは一人だったか?

古ぼけた爺さんだったがいい買い物をしていった。

あれはなかなかに上等なものだったのだが、名前はすでに忘れた。


この街に住まう人々はそれほどまでに裕福なわけではない。むしろその逆貧乏人の方が割合が高い。こんなことを言っていいのか分からないが、この街はクズしかしかいないのである。



「……」

暖簾を開けた二人組の男性。服装は警官のそれだ。

警察手帳をひらひらさせ見せびらかすように俺に見せてきた。

「すみませんが、コード3329です」

「お茶は?」

「ぬるめで」


これがもう一つの俺の仕事だ。いわゆる情報屋みたいなもの。やばい仕事をしてる奴らの裏名簿なんかを取り扱っている。その分、金はもらっている。



「今日は店仕舞いだ、裏に回ってくれ」

踵を返し、警官の二人組は暖簾をくぐり外へと行ってしまった。



「やれやれ、この商売やばいかもな〜はは」


表に『閉店』の札を掛けシャッターを下ろした。


裏手に回ると警官たちがどこかあたふたしながら俺を待っていた。

「ここで話すのはなんだ、まぁ、入れや」

「すまないないつも……」

「いえ、こっちも商売ですから。金が貰えるならなんでもしますって」

めんどくさそうに呟き警官二人を二階の客室へと通した。



ギィギィと階段が軋む。古ぼけだカビのようなにおいが鼻につく。くしゃみなんか一つでもすれば溜まっているホコリが宙を舞う。


靴下は埃まみれになり買ったばかりの靴下がそれはもう見事なボロ雑巾に早変わりだ。


ガラガラと立て付けの悪い引き戸を開け大して何も着飾っていない客室に入ってもらった。


「お茶はあついので?」

「いや、いい……ゴミ溜めのお茶など飲む気になれん」

少し心に引っかかるものがあるが、口の悪いガキと思えばそんなことはなんとも思わなくなる。

「そこに座ってくれ」

「あぁ、それにしても掃除の一つでもしたらどうだ。しがな一日ボケーとしているだけなのだから。これでは人が寄り付かんぞ」


テーブルについた埃を指でなぞりながら二人の中では一番若そうな警官がいう。

それを苦虫を二、三匹目潰したような顔で見ているもう一人の警官がやめろと手を差し伸べていた。

「お気になさらず。ゆとりってやつはみんなこんな感じですからね。教える方も一苦労ですな」

若い警官の眉間にシワがより目には怒気が篭る。それも一瞬のこと次の瞬間には無表情のなんとも言えない顔の出来上がりである。


少し年老いている警官は苦笑いと愛想笑いの中間くらいの笑みを浮かべ、へこへこと頭を小さく下げたのだった。



「それで、知りたいことは?」

「早速本題か? ま、こちらとしては手間が省けるといった所だ。では、本題。今朝方拳銃が二十九丁裏山から発見された。とりあえずこのことは知っているか?

「あぁ、どうせその辺の木っ端ヤクザたちの獲物だろ? それくらいは知っている」


「では、捨てられた理由については?」

若い警官が前のめりになり口を尖らせる。



「捨てられた理由……か、ふむ。お前たち先月起きた殺人事件。覚えてるか?」



「あぁ、たしか」

「山代殺人事件だったはず」


若い警官がカバンから書類を取り出し整理し出した。

「その事件に関わった、桜組の奴らの拳銃……というのはまず間違い無い。でだ、ここからは有料だが、どうする」


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情報やの末路 コカトリス @Yamatanooroti

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