第153話
あたふたが収まり、やっとインタビューできるようになったため、功労者のウマどきスポーツ紙。伊藤記者だ。
「最初に質問ですが、まずはレースから。最後の直線、外に振られたと思ったら先団3頭をごぼう抜き!テレポートしましたよね?」
「え?」
「ほら、かなちゃん」
霧生かなめは勝手がわからずまごまごしている。同期の御蔵まきなにマイクを向けられ、おずおずとしゃべり出す。
「あれは・・・テレポート・・・に見えました?」
「見えたよ?カメラから消えて、次映ったら全頭抜いてたんだし」
「普通、ダートに馬場の良いところと言う概念は無いはずです。シンザンストレートのように大外良好は芝だけのはずですが」
「あ、えーと、そうですよね?でも、今日は外ラチ側が有利なんですよ」
かなめの話を要約すると、今日のダートコースは外の方が湿った馬場だったらしい。他のダート3レースを見ても人気薄の外差しが1回だが決まっており、それを参考にしたと。
「で、では、4コーナー、ジョン・スイス騎手の煽りは・・・?」
「正直、賭けでしたけど・・・渡りに船ではありました。あれだけ外にやられたら、言い訳は利くなって・・・」
「なるほど・・・」
伊藤が唸る。考えられた作戦、度胸も良い。唐橋厩舎には何度も通ったが、お隣にこんな騎手が隠れていたとは。
「あの、霧生騎手、いいでしょうか?大阪放送のウマトビです」
「はい、どうぞ!」
まだまごまごしているかなめに代わり、まきなが応える。その間に、かなめは息を整える。
「ハクレイファントムとは初コンビですよね?風間社長と以前から面識が?」
「はい、ありました・・・でも、それもこれも御蔵騎手のお陰で」
かなめはクラハドールの新馬戦からの経緯をかいつまんで話した。取材陣が色めき立つ。
「では、31勝を達成するために御蔵騎手が地方とはいえ乗鞍を用意されたと?」
「はい。私には出来すぎた同期です」
言ってる内に照れ臭くなり、座った形のまきなの頭をくしゃくしゃになで回すかなめ。止めてよー!とまきなは笑ってなすがままだ。
「関東テレビの
東京の全国ネット番組の記者が確認してくる。この返答如何で、明日のスポーツ新聞各紙の一面は変わる。
「挑まれたと思っています。受けて立つため、今日も必死でした」
どよめきが起こる。取材陣の中にはにわかに慌てた様子で自社の人間と連絡を取り出す者もいる。最後に、伊藤が聞いてきた。
「すいません、御蔵騎手に質問なんですが、失礼なのは承知しています。霧生騎手の残り16勝ですが、達成確率はどれくらいでしょう?」
2人で勝利騎手インタビューを受けるのは異例だから、こういうこともあるだろう。まきなは背中に影響がない程度に胸を張って答えた。
「100パーセント、問題なしです!」
実現性は無いに等しい。それを取り上げる記者は伊藤だけ。そして、彼はこう書いた。
「2年目騎手の快進撃、開幕!ユングフラウ撃破に向けて視界は良好!裏には白い王国の女王が画策!?」
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