海外の強豪、集結

第154話

「白い女王と2年目騎手との友情に乾杯!」

「女王じゃないよ!?」

 恒例になりつつある同期飲み、今日は霧生かなめ「みやこステークス」制覇記念だ。火浦光成が関東にいるため、4人で集まっている。主催の御蔵まきなが誘った2人ほど、遅れて合流するらしいが。

「だって、お前んち、芦毛ばっかじゃん。GⅠも取り放題なんだから、そりゃ白い王国だろう」

 国際GⅠジャパンカップには桜牧場生産馬のシャーピングとリキュールが出走を計画している。シャーピングは京都のGⅠマイルチャンピオンシップとの両睨みで、引退の花道を飾るべく動いていた。

「シャーピングに感謝してほしいな!福留くん、エンペラーズカップの騎乗依頼来たんでしょ!?」

「まあ・・・うん」

「ジョン・スイスの代打はすごいわね・・・」

 主役のかなめが素直に称える。中央所属となって5年にしてGⅠを10個以上も勝ったトップジョッキーの代わりが務まると考えられた同期だ。エンペラーズカップは天皇賞(春)、天皇賞(秋)と同一年天皇賞春秋制覇の後、次年度の天皇賞(春)をも勝ち天皇賞3連覇を成し遂げた。盾の申し子、最強ステイヤーだ。

「でも、御蔵なんか、あの人をアゴで使うんだろ?俺、会っただけで一杯一杯だった」

「そんなの無理だよ!?」

 あんまりな疑惑に驚くまきなを他所に、福留雄二は同期との彼我の差を嘆く。

「御蔵のは家がすごいんだ。そりゃ、御蔵自身も俺らの中じゃ抜けてるけど、今年のジャパンカップに乗鞍があるか?」

 服部隼人が慰める。お前は今の実力で僻んだ相手を越えているぞと、励ます。

「そうだよ。私なんて、家の馬に乗れなきゃ、まだ30勝もしてないからね?」

 事実、まきなの80勝には実家の縁の馬が半分以上を占めていた。唐橋厩舎の馬も除くと、2年間で30勝に届かない。

「そういうのも、実力だと思う」

 かなめがまきなを持ち上げる発言をした。珍しいことだ。男たちは槍でも降るのではないかと、天井を不安げに見上げる。

「何よ?そんな不安にして・・・」

「いや、だって」

「なあ?」

「やっといてなんだけど、家の力に頼るのはどうかと思うよ・・・?」

 まきなも戸惑っている。

「すごい家に生まれて、じゃあ騎手になれるっての?GⅠが家の力で勝てるっての?」

「む、それな」

「いーとこ突くな?」

 一瞬で納得する男ども。まきなは依然として首を捻る。

「うーん・・・?」

「ちょっとは自信を持て!あんたがすごいの!家だけじゃなくて、運も実力もちゃんとある!」

 かなめは最近までの態度はどこへやら、どうにも自信の欠ける友人を説得していた。

「自分だけじゃない、あたしもしっかり勝たせた!なら、次は隼人を勝たせてみなさいよ!」

 水を向けられた服部はドキッとした。何故それを、と言う顔だ。

「霧生、お前、何を」

「復帰するんでしょ?年明けの開催から!ウチの調教師センセイが言ってた。挨拶回りを始めたようだって」

「隼人!マジか!」

「お祝いだ!あ、痛っ!」

 俄然、浮かれ出すまきなと福留を前に、服部が頭を抱える。

「まだ、どうなるかわかんないんだ。ダメな公算もある。実際に馬に乗って、感覚が取り戻せないと・・・」

「大丈夫でしょ、あんたなら」

 かなめが服部の背中を叩く。

「それに、あたしの31勝よりよほど楽よ?別に年明けすぐじゃなくても良いじゃない?」

 急ぐ必要が無いのだ。かなめよりも条件は優しそうに見える。

「でも、俺だって・・・俺だって、これ以上負けたくない、置いてかれたくないんだ・・・」

 服部は焦りの言葉を発せず、飲み込んだ。

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