第151話

 第4コーナーに至って、既に勝負は先団を形成した4頭に絞られた。1番人気の武豊莉里子騎乗、アドルベルンは先頭を突き進む。4角先頭の体勢でゴールを目指す。3番人気の武豊尊騎乗、ニシザワクィーンがその外側にぴったりついている。半馬身ほど後ろだ。

「りぃ~りぃ~こぉ~!」

「いやいや、そんな睨みつけられなきゃいけない覚えないわよ!?」

 それを眺めながら追いかけるジョン・スイスのタイノフォーミュラは4番人気、霧生かなめのハクレイファントムは結局、10番人気まで支持を落としていた。

「2桁人気の馬なんて、いくらでも乗って負けて来た・・・けど、今日は負けられないのよ!」

「なら4番人気のボクはもっと負けられないじゃないか!」

 前を追いかける2頭は併せ馬の体勢で脚を伸ばす。先頭とはもう3馬身差まで迫っている。残りは直線300mを切った。

 追いかけるジョンはコーナーを抜ける直前、少し外に膨らんだ。その影響でかなめは更に進路を外に取らされる。前2頭と比べて脚色優勢になるであろう自身の馬と併せる形になる馬を減らしたいためだが、外を進むかなめをより外に追いやれる効果もある。

「やっば!」

 そのかなめは思った以上に、外に大きく斜行し逸走していく。外に煽られ、タイノフォーミュラとぴったり併せていた状態から単独で追う形になっていた。外に行き過ぎて、一瞬だが、カメラからも消えている。

 外に振られた人馬はどわっ、と歓声の圧力を一身に浴びながら走る。GⅠ程ではないが、秋シーズンの重賞レースということで5万人近い観客が入った京都競馬場の観客スタンド、通称『グランドスワン』からはとんでもない声量の歓声がコースに向けて投げかけられている。そこにいる観客たちからも、一瞬、ハクレイファントムの姿は消えた。数秒後に再び姿を現した彼の位置に、この日の歓声は絶頂を極めた。


「オイオイオイオイオイ!」

 武豊尊は呻き、

「うそでしょ・・・?」

 武豊莉里子は呆気にとられた。

「なんで・・・」

 ジョン・スイスは自身の判断ミスを嘆く前に、何故そうなったのか、理解できない。芝ならわかる。外の芝は踏み荒らされていないから、大外を回ってでもそこを走りたい馬はいるだろう。しかし、ここはダートだ。

「何故、外に飛んでいった馬がそんなに伸びているんだ・・・!?」

 曲がり幅、走行距離のロス。外を回る馬にはどうしても1秒単位でのハンデがある。そのハンデをもろともせず、ハクレイファントムは直線150m付近にて先頭に立っていた。

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