2年目、夏から秋にかけて
第94話
クラシック2冠馬。過去の日本近代競馬史にも十数頭の馬が名を連ねているこの称号は、その世代で無敵という称号である「3冠馬」の称号を得るための第一関門だ。ディープインパクトもアパパネも、2冠馬と呼ばれることが無ければ、当然3冠馬にはなれなかった。
今年のクラシック、5月の終わりの優駿牝馬や東京優駿が終わった時点で、牡牝共に「2冠馬」が誕生した。つまり、大和進のブーケトスガールに武豊尊のスーパーファントム。それぞれ、桜花賞とオークスを、皐月賞とダービーを制した彼らはこの時点で世代最強馬と呼ばれていたが、まだ3冠馬ではない。3冠目、菊花賞や秋華賞を取りこぼせば「3冠を取れなかった2冠馬」で終わってしまうのだ。
大和進は、取材に対し、こう答えている。
「そうですね、僕は…ブーケ(ブーケトスガール)に骨抜きにされています。彼女以上に強い牝馬は過去にもいない。クリフジよりも強い。そう、証明したいですね」
そして、武豊尊はこう答えている。
「無敗の2冠牝馬がおるらしいのお?がっはっは!ダンスパートナーみたいに、菊花賞に来れば…面白いのお!」
クリフジとは、オークスにダービー、そして菊花賞を制した戦中の3冠牝馬だ。そして、ダンスパートナーとはオークスを制した後すぐに海外へ挑戦した牝馬。菊花賞は5着に敗れたが、男勝りの活躍を続けた牝馬だった。
大和は、こうも言っている。
「ブーケで菊花賞に出られれば、面白いですよね。彼女はオークスのゴール板の後もまだまだ走る気でしたし。ゴーイングリバティよりも、直線で伸びを感じさせてくれましたよ」
引き合いに出されたそのゴーイングリバティはダービー2着だった。ダービー馬スーパーファントムの勝ちタイムは、オークス馬ブーケトスガールの勝ちタイムよりもコンマ6秒遅かったため、『もし2冠馬が両馬ともに菊花賞に出てきたらどうなる!?』という話題で競馬サークルは持ちきりだった。
牡牝の世代最強馬は、明らかに未経験の淀3000m、菊花賞に引き込まれようとしていた。
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