第65話

 火浦は、正直に言うと、ビビっていた。今乗っているスターロックマインは厩舎の一番馬だ。重賞は4勝。天皇賞(春)でGⅠ2着の実績がある。そんな馬を自分に預けた師の気持ちを思うと、震えた。勝って気持ちに応えたい。だが、3歳3強や、春に負けたエンペラーズカップ。競合馬がズラリ揃った有馬のグランプリである。たまたま、自分にお鉢が回ってきただけの馬を勝たせられる自信もなかった。

 しかし、馬の方は違った。パドックで実際に馬を見てみると、なんとも煌びやかなことこの上ない。毛並みはバツグンにいいし、キビキビと、はつらつとした印象で周回している。ここに向けて仕上げてきています、と全身からそんな気を発散しているのだ。跨ったら、さらにいい。まるで、今すぐにでもゴール板に飛び込めそうなイメージ。勝てそうだと、その瞬間に理解した。


≪さあ、有馬記念ですね、禅定さん≫

≪そー、ですねえ・・・いや、今年も終わりですよ≫

≪さて、禅定さんの本命馬は・・・エンペラーズカップ、5歳馬ですか。1番人気ですね≫

≪ええ、ステイヤーとしての強さ、去年もこの舞台で2着しているように、適性の高さ。兼ね備えてますからね。まあ、間違いなく馬券圏内には来るでしょう≫

≪対抗が・・・スターロックマインですか。6番人気ですが・・・この馬はどうでしょうか?≫

≪ええ、鞍上が火浦騎手、今年の新人王ほぼ当確ですがね、これがいいんですよ。押して押して押しまくる!スターロックマインは逃げ馬ですからね、彼の常に前に、って意識が強く味方してくれますよ≫

≪新人王といえば、女性騎手の御蔵まきな騎手が33勝で2位に付けてますね。火浦騎手40勝。なかなかレベルが高い新人王争いじゃなかったですか?≫

≪ええ、3位の福留騎手も31勝まで迫りましたからねえ。重賞戦線もにぎわせましたし、いい新人がデビューしてくれました≫

≪他には、いい馬はいますか?≫

≪やはり、2番~4番人気の3歳3強ですかねえ。ダービー馬クゥエルは佐藤騎手でジャパンカップ4着に来てますし、莉里子騎手のコーラルティアラはエリザベス女王杯を楽勝。長距離適性のありそうなウィークポイントは阪神のチャレンジカップを快勝と、スピード能力の高さを見せました≫

≪ウィークポイントが尊人気で2番人気、その次がコーラルティアラでクゥエルと続きます。この辺りは騎手の実績順ですが・・・≫

≪そうですね、エンペラーズカップもジョン騎手ですから。まとめますと上手いのが順当に来るというのが今回の有馬です≫

≪禅定さん、ありがとうございました。有馬記念、いよいよ発走です!≫

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