第52話

 この年のジャパンカップデーは、非常に華やかな幕開けを迎えた。東京競馬場には日本国旗、英仏の国旗、カタール国旗に南アフリカの国旗も揚げられた。ローランは3勝の活躍を見せ、カナダのチャールストンも勝っている。ジャンヌはこの日こそ未勝利に終わったが、土曜日に2勝を挙げていた。

 ジャンヌは日本語を話せる美少女騎手、ということで俄然メディアに取り上げられた。連日の取材攻勢に辟易していたところを、気分転換にと自宅に匿ったのが莉里子であった。

『佐藤くんに頼まれたのよ、あなたを守ってあげてくれって』

「あ、アリガトウ、ゴザマス!」

「いーのいーの」

 莉里子はリキュールに騎乗が決まっている。つまり、ジャンヌはライバルになるわけだが、思うところがあったようだ。

「日本はミーハーだからねー。あなたみたいに光る子がいると、寄って集って潰しちゃうの」

「ソ、ソウナンデスカ?」

「うん、私も、新人時代は大変だったよ」

 デビュー戦で3馬身差圧勝、デビューわずか3週間で重賞・毎日杯を優勝と、派手な活躍を見せていた莉里子。マスコミに追いかけられる日々。『北海道で馬に囲まれて暮らしていればよかった』、と嘆く日もあった。

 ゆえに、そんな思いをしてほしくない、と莉里子は後進のフォローに務めていた。まきながそれほどマスコミの取材攻勢を受けないのも、莉里子が抑えているからである。ジャンヌも、彼女からすればかわいい女性騎手の後輩、できる限りは守る姿勢でいた。

「16歳でジャパンカップ、史上最年少だね」

「ソウナンデスカ?」

「うん、そもそも、日本じゃ18歳からしか騎乗しないし」

「リリコサン、ハ、スゴイ、jockeyダト、キキマシタ!」

「誰によ」

「慶太郎サン、デス!」

「慶太郎・・・ああ、佐藤くんか。おしゃべりな子だったのね」

「オハナシ、キキタイデス!」

「女の子二人集まって、競馬の話じゃあ、味気も色気もないなあ」

「アジ、ケ・・・イロケ?」

「んー?Il n'y a pas de goût」

「エット・・・オイシクナイ・・・?」

「ま、そんなとこ。でも、馬の話が好きなんでしょう?なら、仕方ないやね」

 莉里子は、自分の生まれからデビュー戦、初重賞勝利、ダービー勝利、欧米への武者修行、好きな料理まで、何でもしゃべった。ジャンヌは、目を輝かせて聞き入ったものである。

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