第36話

 まきながいるのはパドック。当然、ある陣営とも出会う。

「あ、先輩」

「え、御蔵!?」

 そう、佐藤慶太郎属するベイカーラン陣営である。

「どうしてここに!」

「どうしてって・・・飛行機でですよ?」

「じゃなくてだなぁ・・・」

 頭を抱える佐藤。向こうではジャンヌが怖い目で見ている。なんでだ。

「御蔵・・・君は競馬に関わるところはどこにでもいるんだな・・・」

「先輩こそ、キングジョージに乗鞍があるなんて、伺ってませんでしたけど」

『レディ?』

 めちゃくちゃ怖い目をしたジャンヌがまきなに駆け寄ってくる。

『あ、はい?』

『貴女はいったい誰ですか?私どものジョッキーに、何の用件があって!』

「落ち着け、ジャンヌ!」

「デモ!」

「えっと、どういう・・・?」

 事情が呑み込めないまきなとジャンヌの豹変におろおろする佐藤。ガルガルと唸るジャンヌをなだめたのは、ギリアム卿であった。

『ジャンヌ、どうしたのかね?』

『sir!この女性が、慶太郎さんの邪魔を!』

『ええっ!?』

 意外とフランス語も理解まではできるまきな、いきなり邪魔者扱いをされて衝撃を受けている。一人置いて行かれている佐藤である。

『あー、えっと、レディ?どうなんだね?』

『あの、私は佐藤さんの日本の知り合いで・・・』

『フム、フム・・・』

 そうこうしている間に、勝子が向かってくる。

『申し訳ありません、Sirギリアム・・・』

『おお、マダム・御蔵!』

『ウチの孫が、何か迷惑を?』

『いえ、私どものバレットがですね』

 両者、事情を理解する。

『ジャンヌ、飛び出し過ぎだ。君にそこまで許した覚えはない』

「まきなも、いくら知り合いでも臨戦態勢の陣営に安易に声をかけないの!」

「『ごめんなさい!』」

 ギリアム卿と勝子に頭を抑えられるジャンヌとまきなである。

「なんだったんだ・・・?」

 一人事情を呑み込めていない佐藤だけが残された。まきなが事情を丁寧に説明し、漸くにも呑み込めてなお、ジャンヌの視線は怖かった。というか、彼らの仲の親密さを理解し、余計に火がついている。「グルルルル・・・」そんな唸り声が聞こえてくるかのようだ。馬の方にもジャンヌの火が飛び火したらしい。馬っぷりがみるみる良くなっていく。その代わりに、

ブルルルル・・・

グルルルル・・・

「・・・?・・・???」

 謎の人馬からの視線に悩まされることになったまきなである。

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