第24話

 騎手2年目、若干20歳での日本ダービー制覇。これは各所に衝撃を与えた。まず、佐藤の元には有力厩舎からの騎乗依頼が殺到。安田記念での香港馬ゴッデスビクトリア号の騎乗依頼まで舞い込み、見事にエスコートしている。これで2週連続GⅠ勝利の偉業まで成し遂げてしまうことになる。

 こうなっては、もう勢いが止まらない。なんと、一足早くフランスの小室厩舎からイギリスで行われる『キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス』騎乗依頼まで届いてしまった。10番人気馬のベイカーラン号を導き、ここでも3着に好走。大いに日本人騎手の力を示し、面目を施した。

 佐藤はわずか2か月の間に、世界的に名の知れた騎手になってしまったのである。


《佐藤、キングジョージで3着!日本のダービージョッキーの力を示しました!》

「はあー、すごいアンちゃんやなあ」

「もう、弥刀さん!アンちゃんなんて失礼です!」

「あー、いや、ごめんなあ。でも、私より若いんやで、この・・・子?」

「そうやな、20歳1か月でダービー制覇は、前田長吉っちゅう騎手の20歳3か月を更新しとる。この年増よりいくらでも若い」

「・・・父ちゃん?」

 こういう時の弥刀は怖い・・・と思うまきなであったが、同時に、前田長吉という男に関して想いを馳せていた。

 前田長吉はかの三冠馬クリフジに騎乗し、ダービー・オークス・菊花賞、という空前絶後の記録を達成した、幻の名騎手である。『幻の』と付いてしまうのは、彼が活躍したのはわずか2年あまり。徴兵され、戦禍に消えていったのである。だが、わずか2年の間に、クラシック5冠の内、桜花賞も加えて4冠を取った名騎手。


 まきなが初めて彼の話を聞いたその日、興奮は冷めやらぬまま、床に入った。気が付けば寝入っていたのだが、不思議な夢を見たのを覚えていた。そう、自身がクリフジとなって、前田と共に駆ける夢である。背にした前田の身体は小さく、軽かった。その感触まで覚えている気がしてならないのだ。

「まきな、まきなったら!」

「ふぇっ!?」

「どうしたんや、ぼーっとして・・・」

「弥刀さん・・・何でもないです!」

「ははーん、さては・・・男やな?」

「ええっ!?」

「このおっぱいで、誰を誑し込むんや、うん?」

 そういって、まきなの乳房をつかむ弥刀。服の上からつかめる程度には大きい。

騎手の割に、かなり女性らしい体形をしているのがまきなだった。

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