第61話 急展開

──どこにいる


 呻き声が聞こえて、その声から逃げるように全力で走る。この声には聞き覚えがあった。カスアン神だ。今日も月下氷人を置いて寝たはずなのに。どうして。そう思いながらも、足を止めない。


 ──殺す 殺す

声はすぐに、私の足音をおってきた。声はどんどん近づいてくる。ダメだ。逃げ切れない。


 以前のように、物陰に潜み、息を殺して、声が通りすぎるのを待つ。


 声は、徐々に聞こえなくなった。よかった、今日も逃げ切れたんだ。安堵で、体の力が抜けそうになったとき──


 ──みつけた


 耳元で声がした。


 「っ!? はぁっ、はあっ、はあ」

慌ててベッドから体を起こすと、身体中が汗で湿っていた。気持ち悪いので、とりあえず、着替えを行おうとして、ボタンがうまく外せない。手が震えているのだ。いや、手だけじゃない。身体中が震えていた。


「どうして……」

月下氷人を枕元に置いて寝るようになってからあの夢を見ることもなくなっていたはずだ。それにこの前は、顔を変えてもらったおかげで、カスアン神に見つからなかったのに、今回は、みつけたとはっきりと声がした。


 ガレイオス神に相談した方がいいかもしれない。


 結局、その夜はその後全く眠れず、朝になるのを待って、魔王にお願いすることにした。魔王に、夢を見て、カスアン神に見つかってしまったかもしれないことを話すと、すぐに祠に連れていってくれた。


 ガレイオス神。魔方陣の中央で祈りを捧げる。


 ──私の巫女


 ガレイオス神は、すぐに返事をしてくれた。いつの間にか、祠に戻っていたようだ。


 ──私の力が及ばなかったか。何かと混じりあって力を増したカスアンに見つかってしまったのだな。カスアンの匂いがする。


 私はどうすればいいのですか。


 ──今すぐ契った方が良い。だが、もしかしたら、もう手遅れかもしれない。


 手遅れ?


 ──カスアンに魂に目印をつけられてしまったら、契っても消えることはない。そうでないことを願うしかないが……。とにかく、巫女。気を付けよ。


 その言葉を最後に、ガレイオス神の声は聞こえなくなった。


 「ガレイオス神は、何と?」

魔王が心配そうに、私の顔を覗き込む。魔王に、ガレイオス神から聞かされた話を魔王に話す。


 「今すぐ、契れか」

「はい。ですが……」

今すぐ結婚するのは、無理だ。だって、魔王の婚約期間は一年設けられるしきたりだし。


 「いや。それは構わない。貴方の命の方が大切だ」

「ですが、私はまだオドウェル様の妻が務まるほどの、教養がありません」

「構わない。そんなもの、後で十分補えるだろう。ミカに何かあった方が、困る」

そういって、本当に魔王は困ったような顔をした。


 「それよりも問題なのは、それで手遅れだった時だな。一度カスアン神に私たちは勝っているが、何かと混じりあっているというのが気にかかる」

そうだよね。何かってなんだろう。やっぱり、カスアン神の狂信者である聖女だろうか。


 「聖女だけなら、まだいいが。──とにかく、ミカ。結婚しよう」


 その後、祠から魔王の執務室へ移動し、ユーリンをはじめとしたクリスタリアの重鎮が集められた。そして、事情を説明し、私たちの婚姻がなるべく早く結ばれなければならないことを話す。


 重鎮たちは、初めは難色を示したもののの、私の命に関わっているということを話すと、頷いてくれた。巫女が殺させるわけには、いかないらしい。初めて、巫女でよかったと思った。


 ──そして、3日後。


 私たちの結婚式が行われることとなった。

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