第24話 巫女

「巫女、そろそろ終わりにしよう」

魔王に言われて、窓を見ると、もう暗くなっていた。

「はい」


 部屋まで送ろうと提案してくれた魔王に、そんなに大した距離ではないから大丈夫だと言って断る。


 「そうか。……おやすみ」

「おやすみなさい」

魔王におやすみの挨拶をしてから、執務室を出る。夏だからか、執務室を一歩出ると蒸し暑い。魔王やサーラに心配をかけてしまったことを考えながらふわふわとした気分で、部屋へと向かう。


 途中で出会ったサーラにもおやすみの挨拶をして、扉をあける。


 何気なく、部屋を見渡して──

「ガ──!?」

叫ぼうとして、口を塞がれた。そして耳元で、囁かれる。

「美香、静かに」

言われた通りに黙ると、ようやく口から手が離れる。


 「……ガレンどうして」

小声で言うと、ガレンは困ったような顔をした。

「貴方を連れ戻しに」

「……言ったはずだよ。私はアストリアには戻らない」

「私も言ったはずです。貴方を必ず連れ戻すと」

まるで私が聞き分けのない子供のように言うのはやめてほしい。私はもう操り人形はやめたのだ。


 「……ガレンが、私を連れ戻したいのは、私が『聖女』だからでしょう。でも、私は『聖女』じゃない」

ガレンにも前世の記憶があるなら、知っているはずだ。私は聖女じゃない。本物の聖女はあと9ヶ月後に現れる。


 「いいえ、美香は聖女だ」

そういうガレンの声は確固たる意志を持った声だった。

「違う。私は巫女だよ!」

巫女というものがいまいち何なのかわかっていないが、魔王たちが言うのなら、たぶんそうなのだろう。自信のなさを隠すように強気に言う。


 「そんなこと誰が言ったのです!? 宰相か、兄上か、それとも──魔物ですか」

ガレンが急に表情を変えた。

「……ガレンおかしいよ。何をそんなに怒っているの?」

「この際、誰が言ったかはどうでもいい。美香が厄災を招く巫女なわけないでしょう! 美香は、聖女だ」

ガレンの声は、泣きそうだった。

 巫女が厄災を招く──?


 そんなこと初めて聞いた。だって、魔王は巫女は幸運をもたらすといっていた。

「ガレンそれってどういう──」

「ミカ様? 誰かいらっしゃるのですか?」

ガレンの怒鳴り声は、外まで聞こえてしまっていたらしい。


 「──取り乱してすみません。今日はここまでにしましょう」

そう言うと、ガレンの姿は見えなくなった。その瞬間、サーラが心配そうに入ってきた。


 「心配かけてごめんなさい、サーラ。ただの寝言なの」

「そうですか? ですが、ミカ様、顔色が悪いですよ。よく眠れるハーブティーをお持ちしますね」

「ありがとう」


 ガレンに言われたことが、頭の中をぐるぐる回る。

 ──厄災を招く巫女


 でも、魔王は幸運をもたらすと言った。


 どっちのいっていることが本当なのだろう?

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