第11話 魔王と図書室

語句を覚えるのは、本が一番といって、教師から渡されたのは、この世界の歴史書だった。私が、この世界の歴史を知っているといったからだろう。


 ──しかし。

「全然違う」

人間の国アストリアで習った歴史とは全くことなる歴史だった。

 まず、最初の創造神が、二人いることから違うのだ。人間の国では、創造神は一人だった。


 そこさえ違うので、あとの方は言わずもがな。語句の勉強ができるレベルではない。仕方がないので、もっと簡単な言葉で書かれた歴史書を探そう。


 髪と耳を布で覆い、サーラを連れて、図書室へと向かう。

「すごい……」


 図書室へ入ると、その蔵書量に驚いた。アストリアもすごい量の本があったが、それ以上の量だ。


 サーラが控えめに解説してくれる。

「クリスタリアは識字率の増加を推進しておりますので……」


 それにしたってすごい量だ。目の前に広がる本の壁に圧倒されてしまう。

 でも、これだけあれば目的の物が見つかるだろう。サーラには、入り口で待ってもらって、本を探す。


 「ええっと、歴史のコーナーは……」

本は多いが、きちんと分類されているので、分かりやすい。本に張られたラベルを見ながら、奥へと進んでいく。


 「あった、歴史のコーナーだ」

どの本がわかりやすいだろう。──と、一つ気になる本を見つけた。

「みことせいじょ……、巫女と聖女?」

この国に来てから、魔王やユーリンには巫女、巫女と呼ばれているが、その巫女の意味を知らない。

 興味本意で手にとって読み進めてみる。


 ──聖女とは、光をもたらす。巫女とは、幸運をもたらす。この二人の乙女は、通常一対であり、巫女は別名、魔王の……


 いいところで、声をかけられる。

「そんな子供向けの本を読んで、どうしたんだ、巫女?」

「陛下」

顔をあげれば、そこには魔王がいた。魔王も図書室に用があったようだ。本に集中しすぎて全然気がつかなかった。

 私は、一先ず魔王に、魔王のお陰で、文字の勉強がはかどっていることのお礼を伝えた。その後に、歴史書を渡されたが、まったく自分の知っているものとは違い、勉強にならなかったことを話す。


 すると、魔王は

「それなら、この辺りがいいだろう」

といって、一冊の本を本棚から抜き出した。


 本のタイトルは、「赤ちゃんでもわかる、この世界の歴史」だ。赤ちゃんでは、流石に歴史はわからないのでは……と思っているうちに、「巫女と聖女」が魔王の手によって片付けられ、「~この世界の歴史」が差し出される。


「ありがとうございます。あの、陛下」

「どうした、巫女?」

魔王のせいで、巫女とは何なのか、全くもってわかっていない。視線を合わせてくれない、魔王に尋ねる。


 「巫女とは、一体何者ですか?」

「巫女は──幸運をもたらす。そして、気まぐれだ。それだけ知っておけばいい」

幸運をもたらす、とはあの本にも書いてあった。でも、私にそんな力はない。そういうと、魔王は苦笑した。


 「気まぐれだからな、幸運を運ばないこともあるのだろう」

それって、結局普通と変わらないのでは? 私が、そういうと魔王は笑った。


 「ああ。だから、貴方はごく普通で、普通の者と同じように、自由がある」


 そういわれた言葉に何故か、泣きそうになった。


 魔王はがかがみこんで、優しく私の目元を擦る。

「泣いてませんよ」

「……そうか」

なら、いい。そういって魔王は去っていった。


 魔王が去ったあと、やっぱり、少し、泣いた。

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