第6話 魔王との対面
「心より貴方を歓迎する、巫女殿」
そういって、ユーリンは微笑んだ。
ただ者ではないと思っていたが、ユーリンは王弟つまり、魔王の弟だったのか。今まで失礼な態度を取っていないかと冷や汗をかく。
「ユーリン様、その、巫女殿って……?」
そうだ。巫女とは何だろう。前生では、聞いたことがない。日本では、神に使える女性だが、ユーリンの口ぶりからして、神関係ではなさそうだ。だって、神は魔物を滅ぼそうとしてるし。
「どうか、ユーリンとお呼びを。巫女とは──ああ、説明するよりも実際に会った方が早いでしょう」
そういうと、ユーリンは私に布を被せ、手を引いて、歩きだした。歩幅が違うので、若干引きずられるような形になる。
そうして、引きずられていると、重そうな扉の前にたどり着いた。
扉の前には衛兵が二人いる。
「ご苦労。ユーリンが来たと陛下に取り次ぎを頼む」
扉は衛兵の手によってすぐに開かれた。
「兄上、お久しぶりです」
私も一緒に扉の中にはいると、怒声が飛んできた。
「何がお久しぶりだ! この愚弟が! いつも自分だけ遊──」
「今回だけは誉めていただきたいですね。兄上の『運命』を連れてきました」
「なにを……、え?」
ユーリンが私の頭から布をはずす。すると、陛下と兄上という言葉からおそらく魔王──は、ようやく私の存在に気付き、絶句した。
「巫女殿です」
「聖女ではなく……いや、巫女? そんな、まさか」
前生では、魔王とは会っていないためこれが初対面だ。ユーリンと同じ、深紅の瞳と目が合う。白銀の髪はユーリンより少しだけ長い。
「初めまして、魔王陛下。巫女……か、はわかりませんが、美香と申します」
私が深くお辞儀をする間も、魔王は固まっている。
「巫女殿が本物のかどうかは、兄上が一番わかっていらっしゃるのでは?」
ユーリンは誇らしげにそういっているが、だから巫女って何なんだろう。
「……ユーリン、さっきの愚弟という言葉は撤回しよう」
ようやく、魔王は固まりからとけ、ぼそぼそと喋りだした。でも、先ほどまで目があっていたのに、全力でそらされている目線が気になる。
それに、心なしか、目尻が赤いような……?
私が、疑問に思い、俯いていると視線を感じ顔をあげる。すると、視線はまたそらされ、魔王は相変わらずぼそぼそと
「とにかく、ユーリン、お前は巫女をもてなすように。私は仕事に戻る」
それだけ言うと、用は済んだとばかりに、机の書類へ視線を落としてしまった。
ユーリンは、笑いながら
「かしこまりました、陛下」
と恭しく礼をして、私をまた扉の外へと連れ出した。
ひとまず、私はこの国で客人として扱われるらしい。人間だからといって、殺されたり、追い出されたりしなかったことに安堵する。しかし、全くもって疑問は解決しないままだ。
だから、巫女って何なんだろう……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます