Love town
水野優子
第1話 卒業
一番暑くなる夏の八月、昼に残した暑さを夜に、静かな都内外れの道をヒールを鳴らして家へ向かう。イヤホンには別れを惜しむ切ない恋心を歌う歌が流れ、あの時の私達を綴るようだった
───ずっと一緒だよ───
どの星かもわからない
美しい星に手を伸ばす
届かないと知っていても
伸ばさずにはいられない。
Love town
2008年 春
楽しかった高校生活が終わった
「あー、卒業かぁー実感しないなぁ。」
式が終わった後、体育館から出て
館と学校を繋ぐ渡り廊下に横並びになりながら歩く三人の女子生徒が緊張を作り出す卒業式から解放されて思いを交える。
「でもさー生徒代表の峯さんが話した内容聞いてたら『本当に卒業しちゃうのか』って思ったよー。」
「確かにー」
「そうだねー」
瑠伊は実感が未だにしないのか
相槌は同意でも表情はいまいちという顔だった。
しかし私は本当に美紀の言葉に共感していたので同じ事を思っていたのかと知って微笑みが零れた。
「あっ!そうだ!」
曇らせていた顔が変わって
瑠伊は提案を持ち出した
「 最後なんだからさー、立ち入り禁止の屋上に行ってみようよー!」
「おっ!いいね!」
「 じゃあ隠れ入り口から登ってみよう!」
卒業したからには解放しなきゃね
という気持ちには大きく共感した。
以前から屋上の扉には固く縛られた金属製のワイヤーが扉を防いでいて、誰も行けなかった。しかし、屋上に向かう階段と階段の間の天井にマンホールのような形のフタがあり、それが屋上に繋がっている事は一部では知れ渡っていた。
それでも、なかなかマンホールの蓋も固く、縛られていて開くのに時間がかかる為今まで断念をしていた。今回は何度かチャレンジしていたのが幸をそうしたのか、意外な迄にあっという間に開く事に成功した。入り口が狭いためにマンホールに繋がっている細い階段を高ぶる気持ちを抑えながら慎重に登って行った。屋上に出ると、遮る物が無く、体全身で風を感じた喜びを覚えてる。
「気持ちいーーー!!」
瑠伊は手を大きく横に広げて大きな声で満面の笑みを浮かべ、美紀は動きが少ないものの、楽しんでいる様子がわかった。
恵は屋上の床をゴロゴロと猫のように何度も寝返ってめちゃくちゃ喜んでいた。
しばらく屋上で各々喜んびに浸っていたら
「卒業したらさー……」
瑠伊が私達に背中を向けたまま
「こうやって毎日会う事も無くなるんだよね。」
確かに、学校は無条件で毎日友達と会える場所。今日が終わればその生活が無くなる。という事だ。
「なーに言ってんの!!」
一瞬しんみりとしていた所、恵が瑠伊の背中を力強くたたいた。
「遠くに行く訳じゃないんだから会いたくなったら会えばいいだけの話よ!」
空気を変える様に明るく言い放った。
「…そうだね。」
すぐにいつもの様に皆で笑いながら、
これからの事の方がーー……
就職した後の瑠伊が心配ーー……
自動車免許取らなきゃーー……
等と、誰が誰に言っているのか分からないほど言葉が投げ混ざって教室の方へと戻って行った。
一番寂しくなったのは学校から家へと帰る道を1人になって歩いた時だったと思う。
『これからはこの道をこうやって歩く事も無くなるんだな。』と思っていた。
私は自分の感情を表すのが下手だったと思う。
だから文化祭で瑠伊、美紀、恵と一緒にバンドを成功させた後に、三人は汗をかきながら笑顔で喜んでいた。だけど私はぼーっとしていて、瑠伊から「嬉しくなかった?」と聞かれた。私はなんと返事したか覚えていないけど、きっとこの時私の中でステージが成功した喜びよりも皆で練習する時間が無くなるんだという悲しさと寂しさの方が勝っていたのだと思う。そんな風にいろんな所で私は勘違いをされる事がよくあるものだからずっと"変わった子""天然"と思われた。
ただ高校の時はそんな私を気にしないでくれる子達が多かったから、私は学生生活を今迄にないほど楽しく過ごすことができた。
─────────────
卒業した後
しばらくして恵から電話がきた
「えっ?!男の子と会うの?」
「そー、私の彼氏の友達!多分光のタイプだと思うからさー」
「本当に?恵B専だからー…」
「うるさいわ!」
私は恵の彼氏の友達の紹介を受けたのだ
特に彼氏が欲しいと思った事は無かったが
卒業の時期には周りがやたら付き合い始める人達が増えて、不明な焦りが生まれ、一度峯ちゃんの友達を紹介してもらい。好きでは無いが友達からと付き合った子はいた。しかし、やはり彼氏彼女の付き合いが出来ず、すぐに別れていた。この時何故恵が私を選んで紹介してくれたかは未だに謎のままだけど
紹介の話を受けた時に思ったのは
『猫被らずに素のままにいこう。』
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