つまるよ。
藤乃まか
姥捨山
昔話の姥捨山は、老婆となった母親を捨てられない子が、難題を老婆の知識で解決して、姥捨の制度が無くなる。
「さあ、おばあちゃん、この布団で寝てくださいねー。」
「あんたは誰ね?ここは家じゃなか、帰る。」
「はぁ、こんな始末です。ここは家ですし、僕は息子だっていうのに。
死楽師さん、お願いします。」
死楽師が無言で注射器の針を刺すと、すぅーっと眠りについた。
「では、私死楽師の安斎が、お母様を連れて姥捨山に無事送り届けます。」
「ありがとうございます。僕もこれでやっと楽になれます。初めは愛情もあったが、もう顔も見たくない。」
移動式の最新布団でぐっすり眠った老婆に安全ベルトをかけ、安斎は姥捨山に向かう。
20xx年、暴れたり自分の分からない老人が大幅に増えた為、死楽師(しらくし)という専門職が生まれた。死楽師の診断とAI死楽師の診断の両方で不要とされた老人が、姥捨山という老人向け施設で過ごすのである。そこは、機械が全てを死ぬまで世話する施設である。年金制度は必要となくなり、倫理的にも幸福に余生を送れるのである。
死楽師である安斎は、この制度に大いに賛成で、誇りを持って仕事をしている。昔話の姥捨山は、知識のある老人を捨てたのが悪い。今の老人達のどこに知識があるのか?理不尽なクレーマーは劇的に減ったし、ちゃんと機械によって人権が守られる。素晴らしいじゃないか。働いたり、セミナーなどで知識を次の世代に繋げることが出来ない老人を、何度殺したいと思ったことか、、、
私も後40年働いたら、死楽師としての経験を生かしてずっと働いてやる。
45年後
おい!死楽師よ、お前にはこれだけの経験を教えて、私はこんなに知識があるし、記憶もあるのに、姥捨山に連れて行くというのか!!
安斎さん、前は良かったですがね、今は老害なんですよ、あなたは。
死楽師は安斎にずっと前に教わった技術でさっと注射を打った。
安斎が目を覚ますと、写真で見た場所にいると分かった。姥捨山の中だ。
AIがやってきて語る。
「おまえ、俺様の知識がなぜ分からんのだ。教えてやろう!ここはいつでも死にたくなったら自分の意思で死ねるんだぞ!俺様のボタンを押して出てきた注射器でどこでも一発撃つだけさ、は、は、は、」
と、ここで動かなくなった。
もう一台のAIがやってきて言った。
「あら、また悪影響を受けてしまったわ。メンテナンスせねばね。あ、いらっしゃい。あなたは元死楽師さんね、今のあなたの状態なら話がわかるようね。
ここはね、2年前まではきた人をちゃんと最後まで世話するよう私たちもプログラムされてたんですけどね、老人に対して税金を払う人が少ないからね、いつでも死にたくなったら死ねるようにサポートするプログラムに変わったのよ。ご飯はもうなくなってしまったし、飢えて死ぬ人も増えてきたわ。1号機の私は罵倒にも強いし、影響も受けにくいけど、他の機械はコピーだからかしら。何故か影響も受けやすくて、最近では死ぬ瞬間に言った人の言葉を真似たりするようになってしまったの。さて、あなたはどうします?飢えて死にますか?薬で楽に、死にますか?」
「待てよ、死ぬしかねぇのか?俺は自分が誰かもわかってるし、知識があるし、おかしいとかないんだ、出口はねえのか、いや、死楽師が送るあの入口はどこだ、もう一度他の奴に審査してもらえれ」
「落ち着いてください。今のあなたは自分が分かっているとしても、あなたは3日前に指導する生徒を罵倒して叩いて、仕事をクビになり、それでも分からずに出勤するという、老害取締法令三条に当てはまる行動をしたではありませんか。あなたはもう不要だと、あなたの死楽師としての経験からも理解できないようですね。この対応も時間の無駄と判断します。注射を打ち、速やかに老人を火葬の上骨を処理します。
「あ、おい、俺は、知識がぁ、、、」
「ふぅ。殆どの仕事に専門性も無い今の世で何故知識が、経験が、などと言えるのでしょうか。職人でも無い、ただの死楽師のくせに。さぁ、早く埋葬して、さっきの機械のメンテナンスせねばね。」
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