VIET

自由、自由だ。

縛るものなど何もない。

まるで大空に放たれた籠の中の鳥のように。

バサバサと羽を振り、一目散に飛び上がるように。

人混みをかき分けながら気持ちは軽く。

ステップを踏みながら歩けばコートの裾が揺れる。


そこにはびしゃびしゃした地面に薄暗い路地があった。

湿気の多く生ぬるい川が船を運ぶ。


水が歩道の岸にちゃぷちゃぷと乗り上げる音。路地を抜けた先は大通り。

曲がり角にはごみが散乱していた。生ごみは早く持っていかないと酷い匂いになる。ゴミ袋からはみ出る卵の殻やバナナの皮を尻目に先を急いだ。


しかしどうしてか。

何かに引き留められるようにして目の端に一枚のベニヤ板が映りこむ。

気になりだして、

近づき摘まむように裏返してみれば板にベタベタと絵具で絵が描かれている。


何か可哀想だ。生ごみと一緒にいるのはさぞかし辛いだろう。

この絵をまじまじと見ると、

きっと風景を描いたものなのだろうが引き寄せられる感じがする。


適当に塵や埃をはたいて板を小脇に抱えながらそそくさとその場を後にした。

誰だって一連の流れを見たなら、変な男がごみを拾って持ち帰って行ったと思うだろう。


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