第三話補記:浅葉なつ、もうひとつの電撃ディスカバ:Reポート

 刀の鑑賞にも随分慣れてきたので、博物館や美術館に行った時は一人で「時代当てクイズ」をやっています。一緒に行った友人がやってくれないから一人でやっているわけではなくて、刀の鑑賞に行くときはだいたい一人だからです。(急募刀友。平日動ける人歓迎)刀と一緒に提示されている説明文を読む前に、この刀がいつの時代に作られたものかを当てるだけの密やかなゲームですが、心の中では

「……この姿……比較的短くてがっしりしている……広めの身幅が切先の方まで続いていて、中間地点が反る中反り……地金が綺麗でやけにピカピカ(語彙力)だけど、いい鉄を使えた地域のものかもしれない……これは……南北朝時代……!……(説明文を見る)江戸後期!? 全然ちゃうやん!!」

 などと喚いていることが多いです。

 正解率は世界ふしぎ発見の野●村さんと同じくらいでしょうか。


 そんな私ですが、実を言うと、つい数年前まで刀が全く好きではありませんでした。

 好きじゃないどころか、むしろ忌避していたと言っても過言ではありません。なぜなら当時の私にとって、刀は武器であり、「人を斬る道具」だったからです。神社仏閣巡りをしていると、宝物館などで刀が展示されていることもあったのですが、あえて見なかったこともあれば、展示を観に行こうと誘われて断ったこともありました。今となれば、あそこで展示されてたのは(検索)……何この薙刀! 伝武蔵坊弁慶!? ちょっとおおお何で見てないの!? もったいないいい!! ……と思えるのですが、その頃の私は「人を斬ったかもしれない刃物」が本気で怖かったのです。


 今でこそ刀剣ブームのおかげか、日本刀の美術品としての価値が世間に広く知れ渡るようになってきましたが、それまでは私と同じような気持ちで刀を見ていた人は、意外に多いのではないでしょうか。時代劇や大河ドラマで目に触れる日本刀はいつでも「武器」であって、それ以外の描かれ方といえば、せいぜい献上品や、形見分けなどでちらりと出るくらいです。学校で日本刀については学ばないし、家に日本刀があるという家庭も少ないし、あったとしても、その由来などについて聞かされて育ったという人は稀でしょう。なので、刀=武器という認識を持つことは仕方がないことで、そもそも武器であったことに違いはないのだから、間違ってはいないのです。ただ、武器以外の側面を知る機会が、あまりにも少なすぎただけです。

 では、私はいつから刀に興味を持つようになったのか。

 刀剣乱舞がきっかけであることは一話目でお話した通りなのですが、私はキャラクターに惹かれたというより、彼らを介して見た刀のもつ「歴史」に心を奪われました。


 川島さんが目標とされている、国宝「山鳥毛」は、検索すると「上杉家の重宝」とか「上杉謙信(または景勝)の愛刀」などと出てくるのですが、もう少し詳しく言えば、「山鳥毛」は元々上杉家にあり、それが長尾家へ下賜され、その後共闘の礼として長尾憲景から長尾景虎がもらい受けました。その後景虎は上杉家の養子となり(のちの謙信)、「山鳥毛」もまた上杉家に戻るという、上杉家と長尾家に縁の深い刀です。大事な刀を贈るということに加え、長尾家から養子をとるということは、両家の間によほどの信頼関係がなければあり得ません。まして関東管領であった上杉家の家督を譲り渡すのですから、そこには並々ならぬ絆があったのでしょう。「山鳥毛」はそんな上杉家の歴史を、景虎とともに歩み、景勝を見届け、刀の時代が終わってなお数多の人々によって守られ、彼だけが知る歴史を秘めて令和に至ります。そのことを川島さんがお話しくださったとき、ああ、私が刀を好きになったきっかけってこいうところなんだよな、と再確認することができました。


 古代まで紐解けば、まだ日本刀が登場していない古墳時代頃でも、刀(剣)は権力者から信頼の証として家臣に下賜される重要なものでした。また節刀といって、天皇から任務を与えられる際に授けられた刀もあります。蝦夷討伐を命じられた坂上田村麻呂も、節刀を持って東北へ出向きました。他にも石上神宮に伝来する七支刀は(刀とついてるけどあれは槍)、百済から倭との同盟を求めて贈られたものと言われています。このように、刀剣は強い信頼を示す証として、または特別な贈り物としての要素も多分に持ち合わせていました。


 刀は確かに武器です。人を斬るための道具でした。しかしそれだけではないことを知ると、世界が一回り広がる気がします。今でも残る名刀の数々は、刀狩りや廃刀令、災害や戦争など、幾多の困難をくぐり抜け、伝え残そうとした人々の手によって守られ、今日まで地金に歴史と想いを刻んでいます。それに照準を合わせたとき、刀が「恐ろしいもの」から「歴史の代弁者」へと劇的に変わりました。最近の刀剣ブームも、おそらくそこに気付いた人たちが大勢いるからかもしれません。


 『良い刀』とは『愛されて生まれてきて、持ち主に大切にされてきた刀』


 川島さんの言葉を聞いた時に、しみじみと思うことがありました。


 現在まで伝わる刀は、過去に人を斬ったかもしれない。※

 でも結果、誰かを守ったのかもしれない。

 そうして生かされた人が、刀を受け継ぎ、子々孫々命を繋いだのだろう。

 今日私がその刀を目にする、この時まで。



 真実は、刀だけが知っているのです。




 ※普段使いされていた刀は、それだけ消耗も早く、折れることもあったと考えると、現在国宝や重要文化財になっている刀のほとんどは、普段使いではなかった可能性が高いです。試し切りくらいはしたかもしれませんが、平時は大事に大事に仕舞われていた各家の重宝だったと思われます。



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