一七 504号室キッチン
朱理はすいとんを作っていた。
本当はおでんを作りたかったが、回収したデイパックの中で卵が割れて使い物にならなくなっていた、それに量も足りない。ヨーカドーまで改めて行く時間が無かったので、近所の肉屋と道の駅で手に入る物で作れる料理にしたのだ。
稲本団地の近くには道の駅がある。そのため新鮮な野菜や果物がお手頃な価格で大量に手に入る。
その野菜と肉ですいとんを作るわけだが最大の難関は団子の作り方だ、小麦粉と水の割合を上手く調整ししっかりと歯ごたえのある硬さにしたい。
悠輝は特にこの硬さにこだわりがあるらしく、水の量やこね方に一いち口を挟む。朱理はその
後は舞桜たちが来るのを待つだけだ。
作り上げた感慨に浸っていると、急に梵天丸が牙を剥いて唸り出した。
「来たな」
悠輝が呟くとチャイムが鳴った。
「は~い」
朱理も妖気を感じた、間違いなく舞桜の依頼はホンモノだ。
玄関のドアを開けると舞桜ともう一人少女が立っていた、彼女が尾崎佳奈だ。
「永遠ちゃん、久しぶり……」
舞桜の挨拶は朱理の耳に入ってはいなかった。
あれは……!
佳奈の背後にソレはいた。全身が毛に覆われ、耳元まで口は裂け牙がはみ出し、猫のような瞳で朱理を睨んでいる。
背後で
突然ソレが跳んだ、朱理を飛び越え梵天丸に襲い掛かる。
だがその攻撃を阻んだ者がいる、悠輝だ。
両手で頭を挟み動きを封じる。
ソレは手脚をバタつかせ逃れようと
「うちの子に、手を出すな!」
悠輝はソレの額に頭突きを喰らわした。
ギャッ、と悲鳴を上げてソレは表へ慌てて逃げ出す。
「イタ!」
佳奈が額を押さえた。
「どうしたのッ?」
戸惑いの声を舞桜が上げる。彼女にはアレは視えていないので何が起こったかが判らないのだ。
「おじさんッ、いくらボンちゃんを守るためでも乱暴だよ!」
「あ、済まない、つい……」
「つい」で頭突きをするな、朱理は魔物に頭突きをする人間を初めて見た。長い付き合いだが叔父の常識を逸脱した行動には未だになれない。
これだから鬼多見は……
祖父も母も妹も、おまけにペットまで常識が通用しない。そしてそういう自分だって鬼多見の一員なのだ。
「ごめんなさい、尾崎さん」
「い、いえ……何が起こったんですか?」
尾崎さんも視えてないんだ。
「本当に申し訳ない。それについては詳しく説明するから、先ずは上がってくれ」
悠輝は梵天丸を抱いて、舞桜と佳奈を中に促した。
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