三 佳奈の部屋

「いやぁああああああッ!」


 尾崎佳奈は自分の悲鳴で眼を覚ました。


 身体を起こし、ここが自分の部屋で今まで寝ていたことを確認する。


  今度は笹川さん……


 佳奈は頭を抱えた。殺そうとしているのは実在の知っている人物ばかりだ、特に怨みがあるわけではない。いや、佳奈は怨んでなどいないと思っている。


  でも、みんなわたしが受けたオーディションにいた。やっぱり、父さんの言ったとおり……


 佳奈は上京するため両親を説得したとき、父に言われた、


「おまえは必ず成功する。だが、それは誰かの幸運や努力を奪った結果だ」


 その覚悟がお前にはあるのか、と。


 当時、佳奈は本気にしていなかった。確かに自分は運が良いと思っていたが、それが『しきわら』のせいだなんて信じたことは一度もない。


 そう尾崎家には『座敷童子』が憑いている。実家にいる間は家長である父を中心に幸運が舞い込んでいたらしい。


 考えてみると尾崎家は誰も働いていないのに経済が潤っていた、父がしている投資だけで豊に暮らせていたのだ。


 さらに父はこう付け加えていた、一人暮らしを始めればお前が家長だ、と。


『座敷童子』は本当に憑いて来たのだ。


 父の予言通り、佳奈は上京して数ヶ月で声優デビューする幸運をつかんだ。そして次々にオーディションが通り役がつき、ついにはヒロインや主人公を演じられるようになった。


 ところが重要な役がつき始めたころから、嫌な夢を視るようになった。


 それが先ほど視たような誰かを殺そうとしている夢だ。これはただの夢ではない、なぜなら実際に夢に出てきた人物が怪我をしたり最悪の場合は亡くなって降板するからだ。


 そして降板した役が佳奈に回ってくるのだ。


  もう、ムリ……


 佳奈は枕元に置いていたスマートフォンに手を伸ばした。


  舞桜さん、また夢をみました。

  とても怖いです、やっぱり霊能者さんを紹介してください。


 SNSで舞桜の助けを求める。


 討ち入りの店を舞桜と共に出た後、マックで『座敷童子』のことを彼女に打ち明けた。


 どうせ信じてもらえないだろうと思っていたが、独りで抱え込むのに疲れていたし、舞桜なら信じなくても笑いに変えてくれそうな気がしていた。


 意外にも彼女は真剣に佳奈の話しに耳を傾け、それなら良い知り合いがいるから紹介すると言ってくれた。


 紹介するのは姉妹で声優をしている御堂刹那で、妹の陰に隠れて余り目立ってはいないが副業で拝み屋をやっている。舞桜は実際に刹那が浄霊をするところを見たと言っていた。


 即答すればいいのに佳奈はちゆうちよしてしまった。言うまでもなく自分の幸運を手放すのが嫌だったのだ。


 しかし事態は深刻だ、自分のせいで人が死んでいるかも知れない。


  こんなこと、終わりにしなきゃ……


 誰かの生命いのちを奪って得られた成功に喜びなど存在しない。

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