第40話 関係
大通り
状況が落ち着いた後、クロード達はアリィ達を残してアジトから出る。
彼女等が残るのは、戦闘後にも色々とやる事があるそうだったからだ。
だが、しばらく自分達だけで話がしたいと考えてたのでちょうど良かった。
数時間前に見たとうりになった、人の姿のある町の中を見ながらクロードは考えていた。
「被害は出ていないみたいだね。良かった」
「皆、すごく普通……」
イリアやユーフォリアは共に、あちこちを見回っていく。先程見た町の光景と変わりない事に安心半分、驚き半分といった様子で。
「あれ? 誰か飛んでくるよ」
そんなクロード達の元にやって来るのは、文字通り飛んできた人間。
先程、竜相手に立ちまわった対竜飛行部隊とやらのメンバーの一人だった。
モニターで見た顔だった。
覚えていたのは、比較的自分達と年齢が近かくて周囲から浮いていたから。
他の人達はもっと年が上の……年配の人ばかりだったというのに。
「あの、本当は駄目なんですけど、お礼を言いたくて特別に抜けさせてもらいました」
「お礼?」
少女と顔を合わせるのはこれが初めてで、どこかで会ったという記憶はこちらにはない。
そもそも、つい先日まで海中の世界に住んでいたのだから、地上の世界に住んでいる者とは、出会いようなどなかったはずだ。
と、そんな風に思ったこちらの怪訝そうな様子を見て、少女は自分の言葉が足りなかった事に気が付いたように顔の前で手を振ってみせた。
「あ、違うんです。フィリアさんに、お礼を言って欲しくて」
「フィリアに?」
「前に、アリィさん達の仕事について海中世界に……そちら様の世界にお邪魔した事があるんですけど、はぐれてしまって。それで、森の中でドラゴニクスに襲われている時に、フィリアさんに助けてもらったんです」
「そんな事があったのか」
「フィリアさんお手柄だね!」
少女が述べて来たそれは、まるでクロード達とユーフォリアとの出会いの時のようだった。
「それで、そのまま海中の世界を案内してくれたり、色々教えてくれたりして、すごく親切にしてくださったんですよ」
興奮した様子でその時の事を詳細に語ってくれる目の前の少女だったが、クロードは信じられない気持ちだった。
見ず知らずの少女に、そんな風にフィリアが親切を働くなど、想像できなかったのだ。
「路頭に迷ったら、家に来なさいとまで言ってもらえて」
素直に驚くしかない。
「すごいな好感度」
本当にそれは偽物でなく、実在しているフィリアなのだろうか。
普段の彼女を見ているクロードとしては思わず失礼な事を喋ってしまいたくなる程の、破壊力のある内容だ。
「私に娘がいたら、ってしきりに言ってたから、多分ご自分の娘さんを重ねてたんじゃないかと……」
だが、そんな時に唐突に放たれた一言に、一瞬思考が停止してしまう。
「……え、娘?」
「えーっ、フィリアさんってお母さんだったの?」
その言葉には、クロードもイリアも互いの顔を見合わて驚くしかない。
「あれ、聞いてませんでした? やだ私ったら、余計な事喋っちゃた……?」
「いや、君は悪くないと思うけど……」
青ざめる少女を宥めながら、己の師匠の意外な家系に驚きを隠せない。
普段見ていても娘がいる気配は当然なかったし、そんな話も聞いた事がなかった。
年齢を考えればいてもおかしくはないとは思いつつ、恋の相手の話すら聞いていない状況で、どうして娘の存在に思い至れるだろう。
「そっかー、だからフィリアさんクロードにはつっけんどんなのかな」
「僕が娘には見えないからって? 当たり前じゃん、僕は男なんだし」
ほんの少し損した気分になった。
(てっきりイリアが特別で、フィリアの態度は誰に対してもあんな感じだとばかり思っていたのに)
聞かれたくない事なら無理に別に詮索したりはしないのだが、それにしたって不断の扱いが理不尽すぎてすっきりしない。
だが、抱いていた謎は解けた。
そんな出会いがあったから、フィリアはアリィ達とも知り合ったのだろう。
「えっと、じゃあ今度会ったらお願いしますね。これで……」
抜けて来たといった少女には、本来すべきことがまだあったのだろう。
急いだ様子で彼女は元来た道を戻っていく。
「あ、名前聞きそびれちゃったなぁ。でもいっか、同じ町にいれば、また会えるよね」
再会に思いをはせるイリアは、もう何日もここで過ごす事を決めている様だった。
戻るに戻れない状況だから、それが自然だとは分かってはいるのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます